“郷に入っては郷に従う” 西野監督率いるタイ代表 初勝利の要因は?

カテゴリ:ワールド

  • 前日本代表監督の西野氏率いるタイが3-0で初勝利
  • 西野監督はポゼッション(ボールの支配)を指示し、選手のハードワークを評価
  • 攻撃陣をけん引したチャナティップ選手のリーダーシップ

初勝利でタイに帰国! ファンやメディアから祝福

少し控えめに笑顔を見せながら、カメラの前に現れたサッカータイ代表の西野朗監督(64)。初勝利を収めた9月10日のインドネシア戦から一夜、タイ・バンコク近郊のスワンナプーム国際空港に到着した。出迎えたファンとの握手や記念撮影にも気さくに応じ、笑顔を見せた。結果が出せなければ、すぐに「退任」が迫る厳しい代表監督の世界。3得点での快勝で、安堵した気持ちも大きかったに違いない。西野監督は、「アウェーで厳しい状況だったが、勝利できて本当にうれしく思います」と喜びをかみしめしていた。

ファンやメディアに出迎えられたタイ代表・9月11日

初勝利は初練習からわずか2週間後

実は、タイ代表には日本のJリーグで活躍する選手が3人いる。コンサドーレ札幌のチャナティップ選手に、横浜F・マリノスのティーラトン選手、大分トリニータのティティパン選手だ。いずれもタイ代表の主力だが、Jリーグの試合のため、初練習の8月27日には間に合わず、チームに合流したのは、ワールドカップアジア2次予選のベトナム戦のわずか3日前だった。

FIFAランキング115位のタイ。9月5日、初戦の相手は97位のベトナムだ。MFティティパン選手をトップで起用し、前線でボールをキープする 「 攻撃の起点」にすべく臨んだが、これはストライカーが不足する中での苦肉の策だった。試合終了間際には、U23のタイ代表で21歳の若手の成長株、MFスパチョーク選手がゴール前で決定的なチャンスを逃し、結果は0-0に終わった。

そして9月10日、アウェーのインドネシア(160位)戦。ティティパン選手は全治8週間の肉離れで出場できず、両チーム無得点のまま折り返した。しかし、後半10分、左サイドから切り込んだスパチョーク選手が先制ゴールを奪い、後半18分には、スパチョーク選手が倒されて得たPKをティーラトン選手が決めて2点目、さらに後半26分には、またもスパチョーク選手がダメ押しのゴールを決めた。スパチョーク選手が全得点に絡む活躍をみせて0-3でインドネシアを下し、西野監督は初勝利を挙げた。タイは現在1勝1分で勝ち点4。グループGで首位となっている。タイやベトナムなどのメディアは、「リズムカルで多様な攻め」「前線からの積極的なプレス」などと西野監督の戦術を称賛した。

勝利に貢献したチャナティップ選手のリーダーシップ

タイ代表のゲームメーカー・チャナティップ選手・9月5日

厳しいチェックに合いながら、ボールをキープして攻撃を組み立てたのが、チャナティップ選手だった。ミーティングでも、若い攻撃陣3人に声をかけて、よく話し合いをしていたというチャナティップ選手はそのリーダーシップで、ベトナム戦で落ち込んだスパチョーク選手の気持ちを奮い立たせた。当初、一部のメディアからは、スパチョーク選手をはじめ、若い選手を起用する西野監督の方針に疑問の声も上がっていたが、インドネシア戦によって、その疑問も払拭されたはずだ。

インドネシア戦・全得点に絡んだスパチョーク選手・9月11日

西野監督が強調したボゼッション(ボールの支配)とハードワーク

ベトナム戦でも、インドネシア戦でも、西野監督が指示したのが、「ポゼッション(ボールの支配)」だ。長いパスではなく、短いパスをつないでボールをキープすることで相手に攻撃させず、相手の守備を崩してゴールに向かうという戦術だ。いずれの試合でも後半になって攻撃の起点となる縦へのボールが入り始め、サイドを使った展開も功を奏した。

そして、西野監督が評価したのが、選手のハードワークだった。前線から積極的にプレスをかけて、ボールを取り行く姿勢が見られた。西野監督は攻撃的なスタイルで知られているが、インドネシア戦で、タイは先制してもなお攻撃の手を緩めず追加点につなげた。西野監督は「チームのスタイルを構築する上でも、すばらしかった」と攻撃的な姿勢を評価した。西野監督の「攻撃サッカー」はタイでも健在のようだ。

ベトナム戦後の会見・9月5日

次の試合は10月15日にホームで迎えるFIFAランキング65位のUAE戦。格上を相手にして、西野監督は「現状のままでは難しい。レベルアップが必要」と語る。所属チームに戻って、個々の能力を上げるだけでなく、選手同士の連携をさらに高めなくてはいけない。残りわずか1ヵ月ほどだが、主力ティティパン選手のケガからの復帰も厳しい中、これまでも指摘されてきた得点力のあるストライカーの育成は喫緊の課題だ。

「郷に従う」姿勢の西野監督

タイの伝統的な挨拶「ワイ」をする西野監督・9月5日

タイ代表監督への就任が打診され、西野監督がタイリーグを視察した今年6月以降、何度も西野監督の会見やインタビューを取材してきたが、西野監督は必ず手を合わせてお辞儀をするタイの伝統的な挨拶「ワイ」をおこなう。そして、終わった時には「コップンカップ」とタイ語で「ありがとう」と話す。代表チームの体制づくりについても、タイの歴史や慣習を踏まえることが大事だと強調し、「すべて自分のスタイルで進められるとは思っていない」と話す。アシスタントコーチ陣に現在、日本人はいない。ここでも西野監督の「郷に入っては郷に従え」の姿勢がうかがえる。日本代表を率いた外国人監督を近くで見てきた経験からか、それが適切だと判断しているのかもしれない。UAE戦も、西野監督らしい攻撃的なサッカーでタイ代表を勝利に導き、ぜひアジア最終予選で日本代表と戦ってもらいたい。

【執筆:バンコク支局 武田絢哉】