在宅医療がリスクを高めることも…災害時に高齢者が直面する“障壁”

カテゴリ:国内

  • 東日本大震災では死者の約66%が60歳以上
  • 震災の前後で急激に変化した環境につらさを感じる
  • 専門家「平常時と災害時をつなぐ福祉・医療の仕組みが必要」

9月16日は「敬老の日」。社会に尽くした高齢者を敬愛し、長寿を祝う日だ

祖父母や両親にはいつまでも元気に暮らしてほしいと考える人も多いだろうが、もし災害に遭遇したらという想定はできているだろうか?

災害時における高齢者への対応は、これまでも課題とされてきた。

シニア世代には若者に負けないくらい元気な人もいるが、多くは身体機能の衰えや持病などを抱えていることだろう。避難行動に必要な走る・重い荷物を持つといった動作が難しいだけではなく、避難先での生活に耐えられず、体調や精神状態を崩してしまうこともあるという。

高齢者がなぜ犠牲になってしまうのか

このような危険性があるのにも関わらず、いざ災害が発生すると、高齢者が犠牲となるケースが後を絶たない。内閣府によると、東日本大震災の被害が大きかった岩手・宮城・福島の3県では、2011年3月11日~2013年3月11日までの間に、1万5,681人(年齢判明者)の死者が確認されているが、約66%に当たる1万360人が60歳以上だ。

2011年3月~2013年3月の間に亡くなった、岩手・宮城・福島の死亡者の年齢別グラフ(提供:内閣府)

また、2016年の台風10号では、岩手・岩泉町のグループホームが洪水に襲われ、逃げ遅れた入所者9人が亡くなっている。この被害がきっかけとなり、要配慮者(高齢者などの総称)施設側には非常時の避難経路などをまとめた「避難確保計画」の作成が義務付けられるようになったが、その策定率は2019年3月末現在、35%ほどにとどまっている。

現代社会では、高齢者が社会から孤立してしまうケースも少なくない。災害時、高齢者はどのような“障壁”に直面するのか。周囲はどう手を差し伸べたら良いのだろうか。災害研究を行う、同志社大学の立木茂雄教授に話を伺った。

震災の前後で急激に変化した環境につらさを感じる

――高齢者は、本当に災害の犠牲になりやすい?

警察庁が東日本大震災から、約1年後に発表したデータが参考となります。

このグラフは、岩手・宮城・福島の3県の年齢別の死者割合(グレーの棒)と全年齢の人口構成割合(白の棒)を重ねて示したものです。グレーの棒が白の棒より長いほど、人口比での死者数が増えるのですが、このグラフでは、60代以上はグレーの棒が長く、50代を境に白の棒が長くなっています。要配慮者は、自力では避難できずに、誰かの助けが必要なため、災害の犠牲になりやすいと言えます。

岩手・宮城・福島の人口構成比と死者割合

――災害時に高齢者はどんな困りごとを抱える?

東日本大震災から約2年半経ったころ、宮城県仙台市に被災者を集めて「実際に困った」ことを語ってもらったことがあります。そこでは、高齢や身体的不自由で困るというよりは、震災の前後で急激に変化した環境につらさを感じるという反応が目立ちました。

例えば、津波の被害でガソリンスタンドが営業できなくなると、介護してくれるヘルパーが来られなくなったり送迎用の車が使えなくなるなどして、活動の制限や社会参加の減少につながります。生活にこのような「障壁」があふれてしまうというのです。

避難所生活もこの一つで、避難所は健常者向けの環境しか整っていません。「ここでは暮らせない」と車中泊をしたり、避難所で感染症にかかったりした結果、震災からは生き延びることができたが、その後の「震災関連死」で亡くなる高齢者もいました。

避難生活に対応できない高齢者もいるという(画像はイメージ)

福祉・医療の充実が災害リスクを高める!?

――高齢者の被害について、傾向などはある?

注目したいのは、東日本大震災における岩手・宮城・福島の被害状況の違いです。この3県のうち、宮城県が最も福祉・医療に力を入れていましたが、その宮城県の死亡率が一番高かったのです。その背景には、在宅医療の問題があると考えています。

宮城県では、福祉を重視したまちづくりが進み、高齢者や障害者が在宅医療を受けられる環境が整っていました。介護保険制度を使って「できるだけ在宅で暮らす」という流れもありました。しかし、危機管理においては平常時は介護・福祉のプロ、災害時は消防など防災のプロ、と縦割りになってしまっていたそうです。そのため、震災では連携が取れず、在宅の高齢者・障害者が津波被害に遭うケースが目立ちました。

在宅医療そのものを否定するわけではありませんが、平常時の福祉を重視しても災害時に連動できなければ、災害リスクを逆に高めてしまうことにつながると思います。


――その問題を解決するにはどうすれば良い?

東日本大震災で高齢者や障害者の犠牲が目立ったのは、平常時と災害時の想定がバラバラだった影響が大きいと考えています。在宅福祉を推進するのなら、ケアマネージャーが災害時のケアプランも作るような、平常時と災害時をつなぐ試みが必要でしょう。

平常時、ヘルパーさんが1人で大勢の高齢者を担当できるのは、曜日・時間などで担当を割り振りしているためです。ですが、災害時には一斉に支援が必要な状態となるため、カバーしきれなくなるのです。災害時は近隣の人が一緒に避難することをお願いするなど、福祉のプロが防災にも関われるような仕組みを整えるべきではないでしょうか。


高齢の親と離れて暮らす子どもができること

――周囲の人ができることはある?

災害が起きても、人間は普段続けていることしかできません。近隣住民を見たら会釈・あいさつするなど、ちょっとした親切を心がけるだけでも違ってくるでしょう。そうしたところから面識が生まれ、助け合いにつながるのではないでしょうか。高齢者側も「役所が対応してくれる」と任せていては、取り残されて亡くなってしまうでしょう。

2025年には団塊の世界が後期高齢者となり、社会保障の費用もより高くなります。税金を納める人口も減り続けるので、公的資金では立ちゆかなくなる可能性もあります。互いに助け合わなければ生き延びられない世界が、すぐそこに迫っているのです。

個人的には「備えなければしょうがないじゃないですか」と伝えたいですね。

イメージ

――高齢の親と子どもが離れて生活している場合は?

子どもの立場としては、親が近隣との人間関係を作れるように動くべきでしょう。有事の際に自分が駆けつけられないのであれば、帰省したときに親と一緒にあいさつするなど、関係を作る努力をすることも必要です。介護保険を受けているのであれば、災害時にどう対応するのか、ケアマネージャーと相談しておくことも大切です。

親の立場としても同じです。特に男性に目立つのですが、退職後はやりたいことがなくなってしまい、図書館などで時間をつぶす人もいます。仕事が中心だった“会社人”から、サークルや趣味を楽しむ“社会人”に変わることが必要ではないでしょうか。仲間や知り合いが地域にいるかどうかで、災害時に生き延びられるかどうかも変わるはずです。


――地震や洪水など、災害の種類で気を付けることはある?

災害のきっかけは地震や洪水などですが、被害をもたらすのは「社会の虚弱性」です。例えば、無人島を津波が襲っても直接の犠牲者は出ません。地震で人が死ぬのも、地面が揺れるからではなく、倒れた住宅の下敷きになってしまうことがほとんどです。だからこそ、その脆弱性を補うため、平常時の福祉と災害時の危機管理をつなぐ努力が必要です。

“防災リテラシー”を高める努力も大切

――災害時における課題などはある?

災害情報が発令されても、何のことか分からずにアクションが取れないことがあります。災害時の避難警戒レベルで「警戒レベル3が発令されました」と言われても、そのレベルが何を示していて、どう行動すれば良いのかが分からない人が多いです。実際の「警戒レベル3」が発令されると、高齢者などは避難をしなければなりません。

日常の交通網も、信号の赤・黄・緑が何を意味しているか、誰もが共有しているから機能できます。災害・防災情報を読み解ける“防災リテラシー”を個々が培わなければ、科学が技術進歩しても絵に描いた餅になってしまいます。地域で起こりうる災害の脅威を調べるなどして、いざというときにすぐ行動できるようにしておくべきでしょう。

災害レベルを紹介する内閣府のポスター

――個人的に呼びかけたいことは?

都市部に住んでいる人は特にですが、隣近所に話せる存在を作ることが大切です。個人的には近所に5軒、料理や頂き物などをおすそわけできる家があれば、相当なリスクヘッジになると考えています。あいさつ程度でも良いですが、物は交流の呼び水です。物々交換できる環境であれば、助け合いの関係も構築できているのではないでしょうか。

若い人には、Twitterなどで交流する人もいますが、災害の時には情報が多すぎて必要な情報が手に入らないこともあります。リアルな関係を作ることも大切だと思います。




今は何気なく生活していると近所付き合いも薄れがちだが、災害時に逃げ遅れなどの犠牲者を少しでも減らせるよう、さらに進むと思われる高齢化社会に向けて、周囲との「共助」がますます求められる時代になっていくのかもしれない。

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