内閣改造から一夜明けた12日、自民党の多くの派閥が定例の会合を開いた。今回の改造人事を各派閥はどのように受け止めたのか取材すると、勝ち組、負け組の泣き笑いがにじみ出た。
安倍首相の出身派閥・細田派は派内の出世レース加速へ
この記事の画像(18枚)安倍首相の出身派閥で党内最大派閥の細田派は、改造前と変わらず3つの大臣枠を死守した。新たに入閣した萩生田光一文科相、西村康稔経済再生相、橋本聖子五輪相の3人については、派閥としても入閣を求めていたことから、人事に関する不満は少ない。この日行われた派閥の会合では、新大臣から挨拶があり、今後も一致結束していくことを確認した。
そして 党役員人事では、「細田派から党四役を起用してほしい」と安倍首相に求めた結果、下村博文元文科相が四役の一角である選対委員長に起用された。さらに参院幹事長に世耕弘成前経産相が就き、幹事長代行には稲田朋美元防衛相が起用された。派内で「ポスト安倍」時代を担う次世代のリーダー候補たちが順当にポストに就いたことで、今後は誰が頭角を現すのか、派内の競争にも注目が集まる。
麻生派は閣僚の人数減少もポストの重さでカバー
留任した麻生副総理率いる麻生派の閣僚はこれまでの5人から3人となり、2人減少した。ただ、人数こそ減ったが、大使への「無礼だ」発言などの韓国への対応が評価された河野太郎前外相が横すべりで防衛相に起用されたほか、派閥幹部が「最大の懸案事項」としていた「入閣待機組」の田中和徳復興相が入閣したことで、麻生氏の影響力の強さが改めて示された。
さらに、鈴木俊一前五輪相が自民党四役の1つ総務会長に起用され、甘利明前選対委員長は税制改正の責任者である税調会長となった。すでに参議院議長には山東昭子氏が就任していて、「数の減少」を「ポストの大きさ」で補完する形となった。
重要閣僚2人を輩出し、首相補佐官も2人起用された竹下派
「お陰様で外務大臣に就任しました。皆様ご指導よろしくお願いいたします」
竹下派の会合でこう挨拶したのは、念願だった外相に就任した茂木敏充会長代行だ。竹下派からの入閣は茂木氏と、厚労相に再登板することになった加藤勝信前総務会長の2人だ。閣僚数は2人で増減はないものの、「外交」と「社会保障」という日本にとっての大きな課題を担うことになった。
外相という重要ポストを手に入れた茂木氏と、安倍首相の側近として政権肝いりの全世代型社会保障改革という難題に挑む加藤氏。両氏は同い年で「ポスト安倍」を巡ってライバル関係にもある。茂木氏は挨拶の中で、加藤氏にも触れ「しっかり連携しながら頑張っていきたい」と語ったが、それぞれの担当で成果を上げることが、未来の総理大臣への近道となることは確実だ。
また首相補佐官として、木原稔氏と秋葉賢也氏が官邸入りすることになった。首相の出身派閥でないにも関わらず2人が補佐官に起用されたこの異例の人事も含め、安倍政権内での竹下派の存在感は増す可能性がある。
岸田派は閣僚減少も”喜び”のワケは
岸田派は会長である岸田文雄氏が党政調会長に留任したものの、大臣の数は改造前から1減の2人となった。しかし会合で岸田氏は「派閥の結束ということを考えた場合には良い人事であった」と笑みを浮かべた。その理由は、入閣を果たした北村地方創生相と竹本科学技術相の2人が、派閥として入閣を推していたいわゆる「入閣待機組」と呼ばれる存在だったからだ。
今回の人事で岸田氏は、『岸田派にいればいつかは大臣になれる』という絶好のアピールを果たした形で、笑顔はその手ごたえの証だ。さらには会合の中で、派閥幹部から「大事なのは2年後の総裁選だ」という発言も飛び出し、次期総裁選で岸田氏を勝利に導き「岸田政権を誕生させる」といった声まで挙がるなど、会合全体が高揚感に包まれる瞬間さえあった。
幹事長続投&閣僚枠確保の二階派も“満足”
二階幹事長の交替論が流れる中、背水の陣で臨んだ二階派は、幹事長の続投を勝ち取った上に、改造前と同じ2つの大臣枠を確保した。会合では、1億総活躍相に就任した衛藤晟一氏が抱負を述べるなど、明るい雰囲気に終始したという。
派閥内からは、「入閣待機組」の平沢勝栄氏の入閣が果たされなかったことを悔やむ声も上がるものの、「予想どおり。十分な結果でしょう」「幹事長が続投できた上に、変わらず2枠もらえたのだから、それだけ総理から信頼されているということではないか」との声もあがるなど、満足げなムードだ。
石破派は冷遇も「とにかく楽しく明るく…」。石原派も閣僚ゼロ
今回の改造で最も冷遇されたのは石破派だ。山下貴司前法相が閣外に去る一方、代わりの人物が入閣することはなく、これまで保ってきた大臣枠がついにゼロとなった。
石破派には現在19人の議員が所属するものの、この日の派閥会合の出席者は半分の10名。そして、その中に石破茂元幹事長の姿はなかった。
派閥の事務総長を務める田村憲久元厚労相は、派内からの入閣なかったことについて記者団から問われ、「もともと人数的にそれほど多くないのに、これまで3回連続で入閣しているので特にコメントはない。次に向かって自民党が日本の政治をリードするために我々は政策集団として政策をしっかりやる」と前向きな姿勢で派閥の存在意義を強調した。
会合の中では山下前法相が出席者1人1人の名をあげてお礼を述べたほか、今後については「とにかく楽しく明るくやることが大事」「逆に石破派の注目が高まっている」などと、変わらずに安倍政権と距離を置く立場をとりつつ、一致団結する姿勢が確認されたようだ。
また、石原伸晃元幹事長の率いる石原派は、森山国会対策委員長が留任したものの、入閣は今回もゼロとなった。会合でも内閣改造に関しての話は特段なかったという。
内閣改造は菅官房長官のひとり勝ち?
各派閥の閣僚の数が横ばい、あるいは減少する中で、入閣者を大幅に増やしたのが派閥に所属しない無派閥議員だ。そして、その実態は菅官房長官を慕う、事実上の「菅グループ」の議員が次々と入閣したということだ。
河井克行法相と菅原一秀経産相はまさに菅長官の側近であり、最大のサプライズ人事となった小泉進次郎環境相も菅官房長官と親密な関係だ。
菅長官は、改造当夜の会見で記者から「菅長官の存在が一段と高まっているという指摘が党内から出ている」と問われ、「人事は総理の専権事項であり、総理ご自身が判断したことだと思う」と答えるに留めたが、満足する人事だったに違いない。菅氏は党内人事でも二階幹事長留任に尽力したとされていて、菅長官の存在感が一層高まる形の人事となった。
岸田派の岸田政調会長、竹下派の茂木外相と加藤厚労相、麻生派の河野防衛相、そして菅グループ菅官房長官と小泉環境相といった面々が重要ポストでしのぎを削り、冷遇された石破氏はポスト安倍に向け政権と距離を置き続けるという形になったポスト安倍レース。次期総裁選を見据えた各派の駆け引きは今後加速していきそうだ。
(フジテレビ政治部)