「出社する必要ある?」台風15号の交通混乱で改めて考える“テレワーク”…導入が進まないワケ

カテゴリ:国内

  • 台風15号による交通混乱の中、テレワークが効果を発揮した企業も
  • ある調査では、約7割がテレワークをしたいと回答
  • テレワークが企業と社員に与えるメリット・デメリットを聞いた

全社的なテレワークを実施した企業も

8日夜から翌朝にかけ、首都圏を襲った台風15号。電車などの各交通機関の混乱にほとほとウンザリさせられた人も多かったのではないだろうか。

今回の台風では、8日の時点でJR東日本や私鉄各線が最終電車を繰り上げ、一部の私鉄などを除いて翌朝も計画運休を実施。
しかし、JR山手線では倒木の影響で運転再開が9日午前10時過ぎまで遅れたほか、JR総武本線の津田沼駅では、午後になっても入場待ちの列が改札から数kmに及ぶなど、出勤を試みる人々で大混雑となった。

ネット上では「この状況で出社する必要ある?」ということが議論になり、そして、いつになるか分からない交通機関の復旧を待ち続ける通勤者の中には、「出勤せずに自宅などで仕事ができればいいのに」と思った人も少なくなかったのではないだろうか?

そのような中、一部のTwitterユーザーが「テレワーク」という言葉をつぶやいていた。これはオフィスを離れてリモートで仕事をするスタイルを指したもので、今回のような交通混乱に左右されることがなく仕事に集中できる。

例えば、こちらのツイートを見てほしい。



昨日は台風の影響で大変な交通混乱。当社では全社的なテレワークを実施し出社したのは僅か7名のみ。全ての社員が混乱に巻き込まれることなく業務を遂行できました

という投稿をつづったのは、ソフトウェア開発会社・アステリアの広報・IR室長を務める長沼史宏(@23_hi_6)さん。

同社は、2011年の東日本大震災の頃からテレワークの全社導入を推進していて、現在では35℃以上の予想最高気温が出た際の「猛暑テレワーク」など、さまざまな試みを展開している。今回もテレワークを実施し、東京の本社オフィスに勤務する社員70名のうちわずか7名が出社するだけだったそうだ。
そうした成果を挙げつつ、長沼さんは「出社を強いる『いざ鎌倉!』的な日本の慣習からの脱却」を掲げている。

台風が来ても大雪が降っても、出勤を余儀なくされる多くのオフィスワーカーにはうらやましくなるような話だが、2020年東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて、総務省や組織委員会などが、企業に対して、テレワークや時差通勤の推進をまさに呼びかけているところだ。

実際のところテレワークは浸透しているのか?「テレワークの導入実態」に関するデータが3日に発表された。総合転職エージェントのワークポート(東京都品川区)が同社のサービスを利用する全国の転職希望者413人を対象として調査したものだ。

テレワーク未経験者が約9割というデータも

まず、「現在の会社(直近の会社)はテレワークを導入しているか」という問いに対し、回答者413人の内、実に68.8%が「いいえ」と答えているのだ。対して、「はい」と答えたのは全体の18.2%にすぎない。テレワークを使いこなしている企業はそう多くないようだ。


そして、テレワークをしたことがあるか尋ねた結果を見てみると、「いいえ」と回答した割合が87.9%で、「はい」の12.1%を大きく上回っている。企業の導入割合以上に、個人レベルでもテレワークと縁遠い結果となった。

それでは、テレワークに対する興味という点ではどうだろうか。

「テレワークをしたいか」という質問には「思う」と答えた割合は39.0%、「どちらかといえば思う」は34.6%となり、合計で実に4分の3近くとなる73.6%に達したのだ。こうした人たちにその理由を尋ねたところ、「通勤時間のカットによるプライベートの充実化」「多様な働き方の実現」といった答えが挙がったという。

調査結果では、大半の人がテレワークが導入された仕事環境にいたことがない一方、テレワークをしてみたいと考える人が大多数を占めていることが分かる。

なぜテレワークは普及しないのか? そもそも「会社に行かなければ」という社会の風潮はどうなのか? ワークポートの広報担当者に詳しい話を聞いてみた。

“固定観念”がテレワーク導入の妨げ

ーーまず、テレワークが推奨される中、進んでいない現状をどう思う?

テレワーク・デイズ2019」(7月22日~9月6日)期間中に行った調査にも関わらず、約7割の企業が導入をしていないという結果に、まだまだ政府と企業との間に温度差があることが浮き彫りとなったのではないかと思っております。

現状、「テレワークの導入」=「社員の満足度向上」というポイントに目がいきがちですが、企業経営の最優先課題は「利益の最大化」であり、意思決定において不可欠なポイントとなります。“テレワークという働き方を導入することによって、利益が最大化した”などの成功事例がもっとたくさん出てくれば自然と導入が進んでいくのではないかと感じております。

ーーテレワークを実施する企業、実施しない企業で、それぞれ目立った特徴はある?

今回の調査結果をみると、テレワークを導入していると回答した75人のうち25人がエンジニア職でした。次に企画・マーケティング職が多く、PCやインターネット環境が整っていれば場所を選ばず仕事ができる職種の人がテレワークをする傾向にあるかと思います。

ーー導入が進まない原因は何?

企業の人事担当者様などとお話をする中で、以下のようなことが起因していると感じております。

1. 「社員全員が職場で仕事をしなければならない」といった固定観念がある
2. 設備投資に大きな資金が必要(ノートPC支給やテレビ会議システムの導入など)
3. コミュニケーション不足に懸念
4. 労務管理(勤怠管理など)、マネジメントがし辛くなりそう
5. 情報漏洩の危険性がある(特に個人情報や機密性の高い情報を扱う業界)

ーー導入している企業の割合より体験した人の割合が少ない理由は?

「テレワークを導入している」と回答した企業にテレワークの対象者を聞いたところ、半数以上の57.3%が「一部社員」と回答しています。企業がテレワークを導入していても、全社員がその制度を利用できるとは限らないことがうかがえるため、このような結果になっていると考えます。

テレワークが社員に与えるメリットは?

ーーテレワーク実施が企業に与えるメリットとデメリットは?

企業側のメリットでいうと、

・多様な働き方を認める取り組みを行うことで優秀な人材が集まりやすくなる。
・業務の可視化、効率化を見直すきっかけとなる。
・社員のストレスが軽減されることで、生産性向上、愛社精神向上などにつながる。

そしてデメリットですが、

・初期投資、対策に時間がかかる可能性がある。
・テレワークという働き方が浸透するまでに、企業だけでなく社員の意識改革が必要。
・労務管理、マネジメントがしにくくなる可能性がある。

が挙げられます。

ーーでは、社員のメリットとデメリットでは?

社員側のメリットとして、

・移動時間のロスがなくなる、社員の通勤ストレスが軽減される。
・業務に集中できる。
・生活状況に応じた働き方がしやすくなる(育児・介護などの両立がしやすいなど)。
・ワークライフバランスの実現。

またデメリットですが、

・仕事とプライベートの気持ちの切り替えが難しい。
・社員の意識によっては、生産性が低下する恐れがある。
・向いている社員と向かない社員の間で大きな差ができてしまう可能性がある。
・コミュニケーション力、団結力が低下する恐れがある。

といえるのではないでしょうか。

ーーテレワークがうまくいっている企業の例を教えて?

実は、弊社でも多様な働き方を認め、テレワークを導入しております。

一例として、夫の島根県転勤を機に、同地でテレワークをしている社員がおり、勤務時間を8時から17時に変更した上で、子どもを保育園に迎えに行ったり、仕事の合間に家事をこなすなど、折り合いを付けて仕事をしております。「自然が多い中でのびのびと子育てができるので、今の環境は本当にありがたいし生活も充実しています」とのことです。

ーー外からアクセスできるようになった場合、情報管理のセキュリティについてはどう対応している?

正社員(試用期間は除く)のみに権限を付与するか、ベーシック認証設定を行い、パスワードを定期的に変更する、といった対応が考えられます。

ーーデメリットとされる、意思疎通の難しさについてどのような解決方法が考えられる?

弊社でもテレワークを取り入れていますが、勤務時間中は常時ビデオ通話で本社とつなげているため、社員同士の情報共有が問題なくできています。わからないこともすぐに質問できますし、業務の内容もほとんど変わりません。

ーー一定以上の規模や環境の企業でなくてもテレワークは導入できる?

むしろ、少数の企業ほどテレワークを行いやすいのではないかと考えます。テレワークを行うと仕事への意識や取り組む時間、パフォーマンスなど個人に委ねられる部分も多くなるため、極力全員が同じ感覚、意識をもって取り組むことが重要といえます。

ーーその際、考えておかないといけないことは?

先ほどの質問とも関連しますが、企業規模が大きくなるほど意向のすり合わせや共有は難しくなるため、まだ小さいうちからテレワークのノウハウを蓄積していくことが効果的ではないでしょうか。

「駅の行列などは避けられたのでは」

ーー今回の台風15号では交通機関の運休などで大混乱が発生した。「会社に行かなければ」という風潮をどう思う?

長きにわたって染み付いた日本特有の風潮だと思います。
ですが、数年前であれば出勤の混乱のみを取り上げて終わっていたであろう報道番組でも、「こんな時にまで出勤する必要があるのだろうか」という疑問を呈していたり、SNSでも柔軟にテレワークや休業の選択をとった企業を支持したりする声が目立ちました。
いまだに昔からの感覚は染み付いてはいますが、世間の考え方や意識は徐々に変わりつつあるように感じられます。

ーーテレワークがもし広く実施されていたらどうなっていたと予想する?

長時間にわたる駅の入場規制やそれに伴う行列、熱中症の被害などは避けられたのではないか
と思います。また、運行再開後も混雑の影響で再び運転を見合わせていた路線も多かったため、テレワークが広く実施されていれば二次災害も避けられ、鉄道の完全復旧も早まっていたのではないでしょうか。

ーー「テレワークが実施されていない」「自由な働き方をしたい」という理由で、御社の転職サービスを利用するケースも多い?

具体的数値は取っておりませんが、実際にテレワークを行っている企業へ転職をしたいというご相談を受ける機会は確実に増えてきております

ただ、アンケート調査の結果にもあるようにテレワーク導入企業の母数が少なく、すべての方のご希望に添えない現状があり、今後の課題であると感じております。


今回の台風を受けてのSNSなどでの論調を見ると、少しずつではあるが、着実に働き方に対する意識は変化を遂げつつあるといえるだろう。近い将来、テレワークはもちろんのこと、働き方全体のあり方がさらに改善されていくことを期待したい。

(データ出典:ワークポート調べ)

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