裁判官も「信じられない!」 2人の日本人はなぜカンボジアで人を殺したのか

初公判で被告二人が語ったこと

カテゴリ:ワールド

  • カンボジアのタクシー運転手殺害で、日本人の男2人を逮捕・起訴
  • 2人は初公判で「殺すつもりはなかった」と殺意を否認
  • 被害者には4人の子供、遺族への支援が広がる

まさか・・・日本人による残忍な強盗殺人事件

3人の裁判官が何度も「信じられない」と口にした。
そして、日本人の被告2人に対し、質問を繰り返した。
「なぜカンボジアに来たのか?」
「なぜ強盗をしようと思ったのか?」
初公判を終え、裁判官はすべての疑問を払しょくすることはできなかった様子だった。

事件があったのは、世界遺産で有名なアンコールワットがあるカンボジアのシエムリアプ。今年3月、タクシー運転手のフム・チャンさん(当時40)が刃物で殺害され、車を奪われた。逮捕・起訴されたのは、20代の日本人2人。いずれも元自衛官の中茎竜二(なかくき・りゅうじ)被告(24)と石田礼門(いしだ・れいもん)被告(23)だった。

地元の警察などへの取材による と、2人は今年3月16日、タイから陸路でカンボジアに入国。その翌日、国境付近の町から、タクシーでシエムリアプに向かう途中、中茎被告がフム・チャンさんを刃物で殺害。そして、石田被告とともに車を奪って逃走し、何度か衝突事故を起こした後、車を捨てて逃げたが逮捕されたという。警察の調べに対し、2人は「両替所で強盗をしようとアメリカドルが流通するカンボジアに入国し、車を奪おうと考えた」と供述していると いう。

逮捕時の被告2人

裁判官は「指示役の存在」疑うも2人は否定

そして事件からおよそ半年後の9月9日、シエムリアプ地方裁判所で初公判が開かれた。出廷した2人の頭は丸刈りで、オレンジ色の服を身につけ、素足だった。裁判には、日本のメディアだけでなく、地元メディアも多く取材に訪れ、注目の高さがうかがえた。

2人が裁判で語った犯行動機や事件の詳細は次の通りだ 。中茎被告は銀行に借金があり、お金に困っていた。石田被告は借金はなかったが、「これから先何があるかわからないので、お金が欲しかった 」と話した。チャンさんを殺害したのは中茎被告で、「車を奪おうと、日本から持ってきた刃物をチャンさんの首にあてて脅そうとしたが暴れたため、刃物が首にあたってしまった」と話した。2人は犯行は認めたものの、殺すつもりはなく、殺意はなかったと主張した。

出廷した2人

2人はカンボジアに来る前 、アルバイトなどで月20万円以上の収入があったことを明らかにした。では、なぜ平均月収3万円ほどのカンボジアで強盗を計画したのか。2人が、カンボジアでの犯行を計画した理由は、アメリカドルが流通しているからで、「日本での犯行は恥ずかしい」と説明した。裁判官は「通院歴はあるのか?」や「誰かに指示されたのではないのか?」と同じ質問を何度も繰り返した。しかし、2人はいずれも否定。およそ2時間半におよぶ初公判で裁判官は2人の説明に納得できなかった様子だった。

内戦が続いたカンボジアは、1980年代から日本が和平や復興を積極的に支援してきた背景もあり、親日国として知られている。日本人の若者2人が逮捕されたタクシー運転手強盗殺人事件は、現地メディアで大々的に取り上げられ、多くのカンボジア人が「まさか日本人が」と衝撃を受けた。

日本人から遺族への支援

妻・チャンルンさんと4人の子供たち

殺害されたフム・チャンさんには、19歳から3歳までの4人の子供がいる。19歳の長男には、知的障害もある。事件後、子供たちはおびえた様子でずっと泣いていたという。突然、大事なお父さんを失ったショックは大きかった。休日には、子供を遊びに連れていく面倒見の良いお父さんだったという。妻のチャンルンさん(37)は、今でも「夫を思い出さない日はない」と語った。次男のパンニャーくん(13)は、「お父さんに生き返ってほしいけど、それは無理ですよね」と素直な気持ちを口にした。

2人に奪われたチャンさんの車

奪われたタクシーはトヨタのハイランダー。チャンさんが、殺害される5ヵ月ほど前、日本円でおよそ150万円の借金をして購入した車だった。車の購入費と生活費による借金およそ170万円を残して、一家は大黒柱を失った。チャンさんは、タクシー運転手として月に10万円ほどを稼ぎ、借金の返済と6人の生活費をまかなっていた。残された妻のチャンルンさんが、屋台でご飯を売って得られるのは月にわずか2万円ほど。一家は生活の大きな糧を失った。

屋台で働く妻・チャンルンさん

しかし、メディアが大々的に取り上げた結果、遺族を支援しようという動きが出てきた。その中心が日本人だった。カンボジアの日本人のサッカー関係者、それに日本のボランティア団体など、次々とチャンルンさんに見舞金が贈られた。そして、このほどカンボジア在住の日本人を中心とする有志が寄付金を集め、すべての借金が返済された。代表を務めるカンボジア日本人会の小市琢磨会長は、「同じ日本人が犯罪を犯し、申し訳ないという気持ちと、事件が原因で多くの日本人が長年築き上げてきた信頼や評価に傷がつくんじゃないかと不安を覚えた」と話している。

借金返済を終えたチャンルンさんは、「毎月の返済に追われなくなると思うと、気が楽になった。うれしい。」と話し、日本人の支援に感謝している。そして、被告2人に対しては「特に望むことはありません。ただ法律に基づいて公平に裁いて欲しい」と訴えた。小市会長らは、集めた寄付金を活用して、今後も継続的に支援をしていくという。

小市会長(左)たち日本人有志から寄付金が贈られた

日本人の男2人が身勝手な動機で起こした事件によって、大事な家族の命が奪われ、平穏な生活が失われた。同じ日本人として心を痛め、義援金を募る取り組みが、チャンルンさんや子供たちの悲しみをわずかでも和らげてくれることを願っている。

【執筆:FNNバンコク支局 武田絢哉】