コンセントに挿すだけで“ネット接続”できる家電を開発中! でも「Wi-Fi」でいいのでは?理由を聞いた

カテゴリ:国内

  • 「コンセントでネット接続できる家電」をパナソニックが開発中
  • 担当者「このままIoT機器が増えると通信環境がパンクする可能性も」
  • セキュリティー面は無線よりも安全!PLCが持つ3つの特徴とは?

IoT家電は便利だけど...いろいろと面倒

皆さんは最近よく目にするスマートスピーカーなどの「IoT(モノのインターネット)」機器を使いこなせているだろうか?

音声操作できる「スマートスピーカー」はIoT機器の代表格だ(画像はイメージ)

消費増税前に購入を検討している人もいると思うが、このような製品にはいくつかの課題もあり、その一つがネット接続の面倒くささ。
IoT機器はネット接続することで本領を発揮するが、その初期設定は人間が行う必要がある。現状は無線LANの「Wi-Fi」に接続するケースがほとんどだろうが、機器ごとにSSID(アクセスポイントの識別名)やパスワードを入力するのは、正直骨が折れる作業だ。

また、Wi-Fiは設置場所から遠方になるほど、電波が弱まる特徴もある。通信規格などにもよるが、例えば、3階建て家屋の1階にWi-Fiがあると、1階に設置した機器は問題なく使えるが、3階に設置した機器は通信が微妙...といったことが起こることもある。

その悩み、コンセントで解決します

このような悩みが近い将来、思わぬ形で解決するかもしれない。
大手電機メーカーの「パナソニック」が8月、電源をコンセントに挿すだけでネット接続できる技術を、家電に搭載していく方針を示したのだ。商品化は少なくとも2020年以降となるが、将来的にはあらゆる家電がネット接続できる環境が整うことになる。

「PLCアダプター」(提供:パナソニック)

この試みを実現するのが、高速電力線通信(PLC)という技術。聞き慣れない言葉で難しく感じるかもしれないが、電気を供給する「電気線」をネットの通信回線としても使うものだ。
実はこのPLC、無線LANが普及する前から登場していたが、Wi-Fiが登場してからは影が薄くなってしまっていた。パナソニックでは2000年代に「PLCアダプター」として、商品化もしている。

こうした歴史がある中、街中にアクセスポイントがあふれる“Wi-Fi全盛期”の今、なぜPLCを搭載しようと考えたのか。さまざまな質問と合わせて、パナソニックの担当者に話を伺った。

家電が生活スタイルを記憶する時代が来る

――PLCをなぜ家電に搭載しようと考えた?

通信機能が搭載された家電はごく一部でしたが、IoTの普及によって、家電もネットにつなげる時代となりました。その接続環境を考えたとき、自宅に張り巡らせている電気線を有効活用できれば、お客さまの利便性を高めることにつながると考え、開発を進めています。

また、当社では家電がお客さまに寄り添い進化する「くらしアップデート」を目指しています。例えば、アップル製品をAppleIDで管理できるように、自分の生活スタイルや好みが蓄積されることで、家電を買い換えても、新しい家電側が生活スタイルに合わせてくれる。そんなサービスが提供できると考えております。この目標を見据えたとき、家電がコンセントでネット接続出来る仕組みがあれば、分かりやすいのではないかとも考えました。


――実際はどう利用する?ネット回線は契約するの?

現状はルーターや分電盤などにPLCアダプターをつなげることで、コンセント経由でのネット接続を実現するつもりです。PLCに対応した家電・機器なら、コンセントに電源コードを挿すだけでネット接続できますし、機器間でも通信できる環境となります。

ネット接続にはプロパイダとの契約が必要ですが、PLCの導入で追加料金が発生することはありません。契約分の料金のみです。当社が、という訳ではありませんが、将来的には電力とネット回線を同時供給するサービスも起こるかもしれませんね。


PLCの役割のイメージ(提供:パナソニック)

将来的には家電が私たちの生活スタイルを覚え、快適な調整を自動で行う時代も来るという。ここで「Wi-Fiでいいんじゃないの?」という疑問が浮かんだ人もいるだろう。PLCを推進する理由やメリットについても聞いてみた。

PLCとWi-Fiの使い分けが必要になる

――ネット環境の普及なら、Wi-Fiなどで良いのでは?

PLCの開発理由にも関わるのですが、電機業界では、工場や施設などの電力線や専用線を活用した通信手段が切望されていました。例えば、工場にはセキュリティーカメラやデータ収集用のセンサーがあり、情報通信が常時必要な状況にあります。ですが、工場には広い部屋があったり、クリーンルームなど、無線機器が使用禁止となったりしている場所も多いです。コンセントでネット接続できれば、このような環境も変えることができます。

一般家庭では、無線でのネット接続が一般的だと思います。しかし、IoT機器が増え続け、車の自動運転にもネット通信が使われるようになると、アクセス数が多すぎて通信環境がパンクしてしまう可能性もあるのです。例えば、駅前の雑踏ではネットにつながりにくいですよね。あのような状態です。スマホなどの「移動型」機器には無線、家電などの「据え置き型」機器にはPLCと使い分けられれば、この状態も防ぐことができるでしょう。


――PLCとWi-Fiと比べると、どんなメリット・デメリットがある?

Wi-Fiは家庭にも普及していますが、以下のような課題もあります。
・SSIDの選択やパスワードの設定が必要なため、高齢者などが簡単に扱えるとは言えない
・電波の届きにくい場所が出たり、屋外機器までは通信をカバーできない可能性がある
・Wi-Fi端末が増えると周波数帯域が混雑する。集合住宅では電波と混信も増える
・近隣にまで電波が飛ぶため、ハッキングや盗聴などの危険に常にさらされる


このような課題に対して、PLCは以下のように対応できます。
・コンセントに挿せば自動でつながるため、ネット接続を意識する必要がなくなる
・電気配線が「ネットワークの線」となるため、自宅内ならどこでもネット接続できる
・PLCを使うことで、無線で許されている周波数帯内での混雑度合いを低減できる
・通信が電力線のみに制限されているため、信号の漏れがほぼない。“なりすまし”が難しい通信形態も採用している



PLCが目指すサービスのイメージ(提供:パナソニック)

――PLCを家電に搭載することで、具体的になどんな効果が期待できる?

確実に通信できること、ネット接続を意識する必要がないことなどたくさんあります。家電は単体でも役立ちますが、他の機器やサービスと連携・連動することで、暮らしをより豊かにできるはずです。PLCは機器間の通信にも対応しているので、例えば、照明のオンオフや照度制御を一度で行えたり、温度・湿度などの情報を収集して最適化してくれたりもできます。


――開発過程において、注力したポイントなどはある?

こちらもさまざまですが、「他の通信方式との共存」と「技術を国際標準化して、世界で広く使えるようにする活動」には力を入れています。例えば、PLCの電波はアマチュア無線などと干渉してしまうので、当社では「デジタルフィルター」と呼ばれるソフトウェアを開発して、その帯域を使わない仕組みを作りました。この仕組みはソフトウェアなので、他技術の影響や将来的な変更などにも対応できるところがポイントです。

また、PLCの技術は欧州や欧米にもあるので、共存できるようなルール作りも進めています。PLCを他社が採用した場合もパナソニックの製品と共存できるよう、相互接続性を担保できるアライアンスを立ち上げるなど、連携の枠組みも整えていきます。


PLCがセキュリティーに強い3つの理由

――IoT家電・機器には情報も蓄積される。セキュリティーの問題はない?

無線方式と比べても傍受が難しいと言えます。PLCには3つの特徴があります。

1つ目は通信システムです。無線が電波を空気に乗せて360度発信するのに対して、PLCは電話線に限定して発信するので、意図しない場所に電波が飛ぶことがありません。電線は外部からアクセスするだけでも違法となるところもポイントです。

2つ目は、通信情報が完全に暗号化されていることです。AESという最新技術で暗号化しているので通信情報が流れたとしても、内容を知るためにはハッキングする必要があります。

3つ目は、通信を許可するかどうかの判断基準があることです。PLCは機器同士が「通信してもよい」と判断してから情報を送るのですが、その判断には電子のノイズが使われます。ハッキング機器などのアクセスがあった場合は、その機器自体がノイズを発生させて全体の通信状態を変えてしまうので、情報を盗み取ることができないのです。

セキュリティーでは、無線よりPLCの方が圧倒的に良いと言えます。


電波が飛んでいなければハッカーもお手上げ!?(画像はイメージ)

――外にコンセントがあったり、集合住宅の場合のセキュリティーは?

敷地内の外部コンセントへのアクセスは、そもそも電源を盗む犯罪です。Wi-Fiのタダ乗りと比べても、気軽にアクセスできない環境があると思います。アクセスされたとしても、暗号化やノイズによる通信許可の判断があるので問題は起きないはずです。

集合住宅の場合、PLCの電波は分電盤を通ることで弱まり、電気メーターを通ると消えます。まれに微弱な信号が漏れることはありますが、情報漏洩することはありません。暗号化などのセキュリティーもあるので、ハッキングにはつながらないと思います。


――PLCを搭載した家電をどのようにしていきたい?

まだ法律的な壁はありますが、2020年以降には開発に向けた環境も整います。現在は搭載予定のチップを開発していますが、今後は搭載する機器やコストなども検討していく予定です。Wi-Fiなどの無線を効率的に使うためにも、PLCは役立てると思います。


近い将来、あらゆる家電がネット接続する時代が来るかもしれない(画像はイメージ)

通信システムを巡っては、次世代通信システムの「5G」が2020年春に始まる予定だが、料金面などの課題から、一般に普及するかどうかは不透明な部分もある。現状の無線環境を有効活用するためにも、持ち歩ける機器はWi-Fi、自宅の家電はPLCと棲み分けが進むかもしれない。