安倍首相とプーチン大統領27回目の首脳会談

日露首脳会談に臨む両首脳
日露首脳会談に臨む両首脳
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安倍首相が「信頼」しているというウラジーミル・プーチン大統領は果たして本当に「信用」に値するのか。そんな不安もよぎる日露首脳会談が、9月5日ロシア極東のウラジオストクで行われた。

この、安倍首相とプーチン大統領との27回目となる首脳会談では、北方領土問題の解決を含む平和条約交渉を未来志向で進める方針が確認された。

また両首脳は、日本側が領土返還への一里塚になると見ている北方四島での日露共同経済活動については、来月予定されている観光ツアーなどのテストケースを着実に実施することを確認し、11月にチリで開かれるAPEC首脳会議の際に28回目の首脳会談を行うことで一致した。ただ、北方領土返還に向けた大きな進展と言える合意などは今回なかった。

スピーチで安倍首相が引用したロシア詩人の“格言”

安倍首相は、その後の国際会議でのスピーチで、プーチン大統領らを前にロシアの詩人であり外交官だった人物によるロシア国内で有名な言葉を引用し、次のように述べた。

「『ロシアは頭ではわからない。並の尺度では測れない。何しろいろいろ特別ゆえ。ただ信じる、それがロシアとの付き合い形だ』(会場拍手)。この有名な詩のロシアを日本に置き換えて見てください(会場笑)」

安倍首相はこのように述べ、日本もロシアを信じるから、ロシアも日本のことを信じて両国の協力を進めようと強調した。そして「その先に平和条約締結がある。未来を生きる人々をこれ以上もう待たせてはならない。ゴールまで、ウラジーミル、2人の力で駆けて、駆け、駆け抜けようではありませんか」と呼びかけた。

これを聞いたプーチン大統領は、その後の司会者との質疑の中で、北方四島をめぐる歴史などに言及した上で、安倍首相のメッセージに次のように応えた。

「日本は信じなければいけない。信じるべきだということで、わたしたちは日本を信頼しています。とても善良な人たちであり、善良な気持ちであるからです。しかし、いくつもの問題があり、平和条約締結に関連した問題ですけれども、2国間関係の枠内に収まり切れないものです。軍事的、国防的、安全保障に関連するもので、第3国の気持ちを考慮しなければならないし、例えば米国に対する責務を考慮しなければならない」

プーチン氏は、北方領土を日本に引き渡した場合、米軍が島を利用することへの懸念が、交渉の障害になっていることを示唆した形だ。一方で「よく考えると過去から引き継いできてしまったもの。解決したいとわたしたちは思っています。1956年宣言にシンゾーは言及しましたが、それに向かって完全な形で整合性をとらせ、平和条約締結に向かっていこうとしている」と解決への意欲も示した。

信頼にもとる?プーチン大統領の北方領土での式典“参加”

「日本を信じなければいけない。信頼している」と明言し、平和条約締結への意欲を示したプーチン大統領の発言は、それなりに前向きなものと受け取ることはできる。

しかし、プーチン大統領はこの発言の十数時間前には、ロシア企業が北方領土の色丹島で行った水産加工場の稼働式典に中継で参加して祝辞を述べていた。つまり北方領土の開発の進展、実効支配のアピールを行い、日本をけん制していたのだ。それは、日本政府が返還の最低ラインと位置づける2島のうちの1つ色丹島での行動だけに、島は1つも引き渡すつもりはないという強硬姿勢を示したようにも見える。

北方領土で行われた工場の稼働式典に中継で参加するプーチン大統領
北方領土で行われた工場の稼働式典に中継で参加するプーチン大統領

プーチン氏は「信頼」という言葉を使い、安倍首相もロシアやプーチン大統領との「信頼」を強調する。しかし、プーチン大統領の行動は「信用」に値するといえるだろうか。

「信頼」とは心や気持ちの問題であり、未来に向けた双方向の期待だという。一方で「信用」とは過去の具体的な行動や実績に基づいて信じるもので、どちらかと言えば一方的なものだという。

だとすれば、プーチン氏がメドベージェフ首相の択捉島訪問を容認していることや、今回の行動に照らせば、「信用」できるかというと疑問視せざるを得ないだろう。本来は「信用」よりも「信頼」の方が深いというのが一般的なようだが、日露の場合は「信用」のないまま「信頼」に頼ろうとしているようにも見える。

しかし、その「信用」に至る行動をとっていないプーチン氏を「信頼」して交渉を進めるしか道がないのが日本の実情かもしれず、だとすれば領土返還は極めて厳しい現状だということになる。

安倍・プーチンの信頼関係が日本にとっての大きな武器であることは確かだが、ロシア国内でのプーチン大統領への風当たりも強くなっていることもあり、それに頼るのも危ういものだろう。そうである以上、日本による経済協力が少しでもロシア国内の世論や政府の強硬派を軟化させることにつながっているかなどを検証することも含め、今後、より多角的なアプローチを検討することがさらに重要になってくるかもしれない。

【執筆:フジテレビ 政治部デスク 髙田圭太】

髙田圭太
髙田圭太

フジテレビ報道局  政治部デスク 元「イット!」プロデューサー