「こんなにも少ないのか…」

8月末、駐在先の韓国から休暇で北海道へ向かう際、機内に入って驚いた。韓国人客があまりに少なく、空席だらけだったからだ。搭乗率は目測で40%くらいだ。もちろん、日韓関係の悪化で訪日観光客が減っているとの話は聞いていたが、実際に目にするとその実感が沸く。北海道と言えば韓国人にとって“憧れの観光地”だったはずだ。1999年に韓国で公開された日本映画「Love Letter」が大ヒットして以降、そのロケ地として人気を博してきたからだ。今回利用した韓国の格安航空会社「ジンエアー」は仁川-札幌便を、9月以降、週7便から4便に減らすことになった。自国民の日本不買運動のため、日本路線は韓国の航空会社にとってドル箱から“不良債権”となりつつあるのだ。

「タイミングが悪すぎる・・・」新ターミナルは閑古鳥

北海道に着いてから、その影響を如実に感じることとなる。奇しくも、新千歳空港の国際線は新しいターミナルビルが8月末にオープンしたばかりだった。当然、急増する外国人観光客向けに“おもてなし”を強化するためで、広さ自体が2倍に拡張された。ところが、ターミナルは人もまばらでとにかく活気がない。満を持して出店した有名寿司店やラーメン店にも客はほとんどおらず、手持ち無沙汰な店員の姿が目立つ。

新千歳空港の国際線利用者は、2018年度に過去最高となる385万人を記録している。そして、そのうちの3分の1にあたる約130万人が韓国からの利用者だったという。その韓国人達が姿を消したのだ。実際に8月末の週には、韓国からの利用者が前年同時期と比べ60%以上減ったという。

外国人観光客を魅了してきた北海道の夕景
外国人観光客を魅了してきた北海道の夕景
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国交省・新千歳空港事務所の担当者はため息まじりにこう話す。
「着工した2017年当時は、インバウンド客がとにかく右肩上がりだったんです。ですが、いよいよオープンという今夏から、新千歳空港を支えてきた韓国人客が激減しました。タイミングが悪すぎます。特に減便が本格化する9月以降はさらに影響が大きくなるはずです」

韓国からの日本旅行8割減・・・日韓で悲鳴

韓国最大手の旅行会社「ハナツアー」が9月2日に発表したデータは深刻なものだ。8月の日本旅行の販売が、前年同月比で実に約8割減少したというのだ。販売実績の順位もこれまでの1位から東南アジアと中国に抜かれて3位に転落した。これに伴い、旅行商品全体の売り上げも約3割減っていて、聯合ニュースによると同社は「8月は旅行シーズンだが、日本向けが急減し全体の旅行需要を押し下げた」と説明している。別の韓国大手旅行会社も同じく8割減と壊滅的な打撃を受けていて、日本旅行の激減にウォン安、そこに香港情勢が加わったトリプルパンチが、旅行市場全体の悪材料となっている。

こうした旅行会社の商品の多くは団体ツアーで、そのしわ寄せが日本の観光地、特に地方都市に及んでいる。北海道のど真ん中、美瑛町もそのひとつだ。

四季彩の丘(美瑛町)には美しい花畑が広がる
四季彩の丘(美瑛町)には美しい花畑が広がる

町内にある「四季彩の丘」は、なだらかな丘陵とストライプ模様の美しい花畑が広がり、海外でも「絶景」と名高い。2018年夏に筆者が訪れた際、敷地内を韓国人と中国人が埋め尽くし、おおげさではなく、日本語が聞こえてくることはほとんどなかった。

今夏、再びこの四季彩の丘を訪ねたが、その変わりように驚いた。韓国人の姿はほぼ見られず、耳に入るのは中国語ばかりだったのだ。何よりも、駐車場に並んでいた大型バスの数が明らかに少ない。施設では7月以降、韓国からのバスツアー客のキャンセルが相次ぎ、130席のレストラン予約がすべて取り消しとなったケースもあったという。担当者は「日に日に韓国語が聞こえなくなり、売り上げへの影響も出てきました。冬場の観光客も多いので、今後が特に心配です」と話した。

「日本旅行ボイコット」の影響は、これからが本番

日本の地域経済への打撃も相当なものだが、韓国企業も“火の車”だ。先日、韓国の航空8社の第二四半期の決算が発表され、8社すべてが赤字となったのだ。注目すべきはその時期で、これは4~6月期の数字なのだ。赤字の主な要因は、進行するウォン安と見られている。つまり、日本が輸出最優遇国から韓国を除外することを発表し、不買運動や旅行控えに火がついた7月以降の影響が含まれていないのである。そして、航空各社の日本路線の運休や減便が本格化するのは9月以降だ。「日本旅行ボイコット」の影響が表面化するのは、これからが本番、ということになる。

「ホワイト国」除外は「被害なし」・・・不毛な日本不買やめては?

日本の輸出管理見直しにより、経済が大変なことになると韓国は大騒ぎしてきた。しかし蓋を開けてみれば、適切な輸出管理を経て許可が出た物資(レジスト2件、フッ化水素1件)は韓国にちゃんと輸出されている。日本政府が言っていた通りだ。韓国政府も「直接的な被害は無い」と認めている(8月28日に韓国・拡大関係長官会議より)。

しかし、日本の措置に反発した韓国側が起こした日本製品不買運動は、日本企業や地方自治体のみならず韓国企業にも大きなダメージを与えている。一部の韓国国民は「日本に反撃している!」という精神的な満足感を得ているのだろうが、これで事態が改善する可能性はほぼゼロで、はっきり言って不毛だ。

慰安婦問題に徴用工問題、そして輸出管理を巡る問題と日韓に横たわる懸案は多い。だが、両国が相互理解を深める基盤となるのは人的な交流だ。その流れを、止めてはいけない。

【執筆:FNNソウル支局 川崎健太】

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川崎健太
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