今月25日、日本武道館で開幕した世界柔道。

解説席では360度マルチアングルによるリプレイ動画を採用している。

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「ここです、相手が袖から手を離した瞬間に、担ぎ技に移行しました。まさに電光石火でしたね」

大会1日目準決勝。渡名喜風南選手の鮮やかな一本。

タッチパネルを指でスワイプする事で、その技が繰り出された瞬間に戻り、ぐるぐると回転させ、自由な角度で映像をリプレイできる。

韓国発スタートアップ「4D REPLAY」

スポーツ視聴の可能性を大きく拡げるこの技術、一体どのように実現されているのだろうか?

開発したのは韓国発のスタートアップ企業「4D REPLAY」


日本武道館には110台のカメラが設置された。撮影された映像はデータを集中管理するPCにリアルタイムで送られている。

4D REPLAYがユニークな点は、ほんの数秒でリプレイが可能な事。

一般的に動画ファイルを生成する際には、複数の映像素材を合成して書き出す、いわゆる「レンダリング」と呼ばれる工程が発生するが、4D REPLAYはレンダリングを必要としない。

入力された映像素材をそのまま高速でスイッチングする「タイムスライス」と呼ばれる方式を採用する事で、スポーツ中継の現場に必須となるリアルタイム性を担保する。

4D REPLAY データを集中管理するPC
4D REPLAY データを集中管理するPC

日本企業とのコラボレーション

スポーツ中継の360度マルチアングル映像。ビジネス市場としてはニッチとも思えるこの領域に、どのようなきっかけで進出したのだろうか?

「4D REPLAYのCEO JungはもともとSI企業でカメラ技術に関する開発を担当していました。その時に、映画マトリックスで弾丸を避ける有名なシーン、あれを再現したいと思ったのがきっかけだったんです(4D REPLAY 取締役 申 大湜)」

その後はアメリカに拠点を移しグローバル展開を開始。2017年にはKDDI Open Innovation Fundからの出資を受け、両社は二人三脚でタッグを組み、数々の現場をこなしている。

申大湜(左・4D REPLAY 取締役)、中馬和彦(右・KDDI ビジネスインキュベーション推進部長)
申大湜(左・4D REPLAY 取締役)、中馬和彦(右・KDDI ビジネスインキュベーション推進部長)

KDDIのオープンイノベーションプログラム「KDDI ∞ Labo(ムゲンラボ)」のラボ長である中馬和彦氏に、4D REPLAYへの出資とパートナーシップについて聞いた。

「アメリカ・サンフランシスコを拠点とした投資はR&D、すなわち研究開発にも近い要素があるのですが、韓国・ソウルに関しては日本より1〜2年先を行くマーケットとして見ています。4Gも韓国が先でした。韓国をリファレンスとして、日本へ持ってくる。」

「4D REPLAYのサービスは、スタジアムの席で観戦しながら、同時に手元のスマートフォンでそれぞれが見たい角度で自由にリプレイを楽しむものです。4Gから5Gへの移行の中で、より個人がイニシアチブを持ち、かつデータ容量の大きい重たいサービスが可能となってきます。」

「柔道は絶対ハマると思った」

これまで野球やサッカーを中心に実績を積んできたが、柔道での導入は今回が初となった。

「ある程度カメラ位置が決まっている野球と違い、柔道はどの角度から一本が決まるか全く読めません。しかし今回はマルチアングルによるリプレイを利用することで、いつでも主役を中心とした画を撮る事が可能となりました(黑﨑遼・フジテレビ)」

世界柔道の番組制作を担当する黑﨑氏は、2017年に野球の日本シリーズで見た4D REPLAYを思い出し、これは「柔道に絶対ハマる」と演出に利用する事を決めた。

黑﨑遼(フジテレビ スポーツ局)
黑﨑遼(フジテレビ スポーツ局)

今回、生放送で即座にリプレイを再生する為、あらかじめ40パターンをプリセットした。たとえば「28番:3時の方向から左下へ回転」といった具合に決めておき、生放送中は技の決まり方に応じて、リプレイのパターンを番号で呼び出せる。

4D REPLAY・申氏「生放送なので緊張感がある。サーバートラブルに備えて予備機もスタンバイした。一番大変だったのは110台のカメラ設置。グローバル展開により人員が分散しており、今回、韓国のメンバーは2名のみ。会場セッティングのスタッフを日本で募集したので、教育しながらの作業となった。」

110台のカメラを設定するスタッフ
110台のカメラを設定するスタッフ

KDDI・中馬氏「韓国の野球のようにリーグを通じて利用できるものは、スタジアムに常設したいですね。すでに韓国では5Gの商用サービスがスタートしています。人が集中する環境での実用化は徐々にですが、日本でもこの秋冬から5Gのトライアルを始めていきます。」

5G時代の視聴体験とは?

4D REPLAYの4Dには「3D+時間」という意味が込められている。

実際にスクリーンをタッチしてみると、自分で時間を止めて自由に操っているような、独特の気持ち良さを感じる。

近い将来には、テレビを視聴しながら手元のスマートフォンで自由視点のリプレイを操作出来るようになるかもしれない。

5Gが始まり「こんな事もできるんだ」という驚きとともに、「個人にイニシアチブがある」視聴体験が今後も増えそうだ。

マルチアングルによるリプレイ(渡名喜風南選手・世界柔道初日)
マルチアングルによるリプレイ(渡名喜風南選手・世界柔道初日)
寺 記夫
寺 記夫

ライフワークは既存メディアとネットのかけ算。
ITベンチャーを経てフジテレビ入社。各種ネット系サービスの立ち上げや番組連動企画を担当。フジ・スタートアップ・ベンチャーズ、Fuji&gumi Games兼務などを経て、2016年4月よりデジタルニュース事業を担当。FNNプライムオンライン プロダクトマネジャー。岐阜県出身。