電車などの大勢が密集する空間に、突然響く子どもの泣き叫ぶ声。近くにいる母親が必死になだめるも、子どもの泣き声はますます大きくなり、親子に向けられる視線が冷たくなっていく…。一方で子どもを全くあやすことなく、スマホなどをいじっている保護者を見掛けることも。

そうした現場に居合わせてしまい、いたたまれない気持ちになった経験がある人もいるかもしれない。そして、そんな人たちや子どもの両親にもありがたい、あるツイートが話題となっている。

まず、そのツイートを見てほしい。それがこちらだ。



通りかかりの人に白い目で見られて胃に穴が空きそうな親御さんのために『クールダウンお知らせカード』を作りました

というコメントともに投稿されたのは、「クールダウンお知らせカード」を紹介する画像だ。

この記事の画像(5枚)

カードには、「ご迷惑をおかけしております」「パニックを抑えるためクールダウン中です。触れたり話しかけるとパニックが悪化します。どうか見守っていただきますようお願い致します」との文言に加え、子どもに触れようとする大人の姿に禁止マークが付いている。

ツイートの投稿主でありカードを制作したのは、イラストレーターで3人の子どもの母であるたきれい(@kumokun8)さんだ。

たきれいさんによると、パニックを起こして泣き叫んでいる子どもの近くで、スマホに目をやる母親が時折見受けられることについて、見た目は同じでも事情がある親子もいて、触れられたり、目が合うだけで悪化する子もいるため、こうした行動を取らざるを得ないというのだ。そして、発達障害がある子どもだとパニックの頻度が上がるという。

たきさんのツイートの画像より抜粋
たきさんのツイートの画像より抜粋

しかし、事情を知らない周囲が「育児放棄?」「しつけするつもりが無い?」などと白い目を向けることもあるという。そこで、たきれいさんは「もしもこんな親子を見かけた時に、この可能性を思い出してもらえたら、スルーしていただけると大変救われます」と理解を求めるとともに、当事者である母親が周囲に向けて使えるこのカードを制作した。

ツイートは、「このカードで救われる親御さんがたくさんいると思います」「周りの目に苦しまず育児のできる社会になっていくといいですよね」などと共感の声を呼び、10万3000の「いいね!」と6万のリツイートとなっている。(9月2日現在)

子どもをめぐる問題といえば、「バギータイプの子ども用車いす」をベビーカーと誤解し、「電車内では畳んでほしい」「ベビーカーに乗せずに歩かせないとダメ」という声が上がったりと、親子に対する周囲の厳しい声も絶えない。
(参考記事:「畳んでなんて言わないで」 ベビーカーとそっくり“子ども用車いす” 知ってますか?
東武鉄道「ベビーカー」マナーの呼びかけが炎上! “配慮”すべきは利用者か周囲の人か?

たきれいさんは、泣く子どもへの親の対応を問う空気についてどう感じているのだろうか? 周囲に対して望んでいることはあったりするのだろうか? 詳しく話を聞いた。

カードは自身の体験をもとに制作

ーー自身の一番下のお子さんも発達障害だというが、今回のイラストは、自分の体験をもとに?

はい。私の体験をもとにしています。
ちなみに、発達障害があるとパニックの頻度はとても上がりますが、発達障害に関係なく誰でもパニックは起こる可能性があります

ーー子どもは今、何歳?

3人います。小5、小3、年中組です。

ーー子どもが泣き騒いだ際、最初の頃はどのように対応した?

すぐに帰宅するか、すぐに帰れない場合は逆効果になるのも知らずに一生懸命あやしたり、説得しようとしていました。

ーーツイートに今回記載した対応は医師のアドバイス?

医師ではありません。地域の子育て相談室の心理士さんにアドバイスをいただきました。

「見守ってもらえるだけでありがたい」

ーー「周りの視線を痛いほど感じる」とあるが、こういった対応をすることで周囲から心ない言葉をかけられた経験はある?

言葉をかけられたことはありません。白い目で見られるだけです。

ーー最近、公共の場で泣く子どもへの親の対応を問う風潮があるが、どう思う?

私は周りの方が納得するよう申し訳なさそうな態度をとるより、子どもの自己肯定感を下げないよう毅然とした態度をとる方を優先してしまいますが(とはいってもケースバイケースで謝り倒しのこともありますが)、そんな親子を見守ってもらえる世の中になると子育てがしやすくなると思います。
また、追いつめられた親が子どもを虐待をしてしまう悲しい事件も減ると思います。

ーー「クールダウンお知らせカード」作成のきっかけを教えて。

事情があってクールダウンしている親子がいることをたくさんの方に知ってもらうためのイラストを描いていました。その途中で、「クールダウンお知らせカード」を思いついて追加で描きました。

ーー「クールダウンお知らせカード」だが、もう使ってみた? 周囲の反応は?

まだ使用していません。
私の子どもたちはパニックの予防法をだんだん習得できるようになってきて、公共の場でパニックを起こすことは無くなってきたのと、騒いではいけない場所に行くことをなるべく避けているので。万が一の時に備えて持っていようと思います。

ーーカードには「どうか見守っていただきますよう」とあるが、子どもがパニックを起こした際、周囲に望むことは?

見守っていただけるだけで十分ありがたいです。

ーー投稿に対して大変な反響があったが、リプライも含めての感想は?

色々なリプライがありましたが、「今まで誤解していたけど、こういう親子がいることを知ることができて良かった」という内容のリプライが一番うれしかったです。

ーー「クールダウンお知らせカード」について、利用者の声など届いている?

作ったばかりなので、まだ届いていないです。

ーー最後に、パニックを起こす子どもを持つお母さんにメッセージを。

発達障害があっても無くても、24時間365日気が抜けない育児、本当にお疲れ様です。お母さんは十分がんばっています。自分を責めず、どんどん家族や相談員さん、専門家など頼って、どうか乗り切ってください。

クールダウンカードはこのように使うことを想定(画像:たきれいさん)
クールダウンカードはこのように使うことを想定(画像:たきれいさん)

公認心理師「パニック時にはクールダウンが大切」

公認心理師の資格を持ち、発達障害の当事者でもある難波寿和さんにもうかがったところ、パニック時にはクールダウンが大切だという。「パニックになった時に叱りつけたり、呆れたり、押さえつけたりするよりも、静かに安全を確保したうえでクールダウンした方が臨床的に現場を見ていても有効であり、本人が納得するように援助することは、何より大切だと感じています」とした。

また、たきれいさんが作った「クールダウンお知らせカード」についても、「周囲の人に白い目で見られたり、声を掛けられる保護者の怖さを感じている人であれば、カードでお知らせすることで、お子さんの安全に集中できるメリットもあるのではないかと思います」と、その意義を指摘している。


子どもがパニックを起こしたり、泣き叫ぶのは当たり前のこと。いらだちを覚えて冷たい目を向けるよりも、相手にも事情があるかもしれないとまず考えることが、やさしい社会につながるのではないかだろうか。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。