『病気でも休めない』
『仕事に集中できない』
『子供を一人にしてしまう』
これらは、仕事に育児に、全て一人でこなすシングルマザーの悩みである。
様々な悩みを抱えて生きる母と子のために、大阪に1軒のシェアハウスが作られた。
そこでの生活と、シングルマザーの思いに密着した。
古い長屋を「シェアハウス」に
去年5月、長らく誰も住んでいない長屋に子どもたちの笑い声が響き渡った。
50年以上前に建てられたこの場所で、まもなく「工事」が始まろうとしていた。
といっても、取り壊されるのではない。
シングルマザーのためのシェアハウスに生まれ変わるのだ。
安田委久美さん(39)。
娘とここで、「新しい生活」を始めたいと考えていた。
安田委久美さん:
子供がひとりで家にいる時間が長くなるというところに不安がある。ここの長屋だと生活のサポートをお互いしていけるのが、シングルマザーの不安の解消のひとつになるかなと思っています。
東大阪市に住む安田さんは、3年前に離婚し、娘のむえるちゃん(11)と暮らしている。
安田さん:
最近(仕事で)遅いんで。罪滅ぼしに、むえるの好きな親子丼を作って仕事に行きます。
人材派遣会社の契約社員として働き、一人で生活を支えている。
近くに両親が住んでいるが、高齢のため、出来るだけ頼らないようにしているという。
――Q:ママ最近忙しい?
むえるちゃん:
うん。忙しい。だからいつも暇してる。さみしいから嫌や。
むえるちゃんは、人間関係がうまくいかず、1年ほど前から学校を休みがちだ。
生活は、ぎりぎり。
収入のために、もっと働きたい気持ちと、むえるちゃんをこれ以上ひとりぼっちにしたくない気持ちの、葛藤が続いている。
安田さん:
めっちゃ携帯気にしてます。なんか連絡きてるかなぁとか。この前は『お腹すいた』とか。今日も『ママ~』とかきてたし。
この日の帰宅は、夜の9時半をまわっていた。
安田さん:
重たい~。2匹も無理。はよ歯磨きして寝よう。
むえるちゃん:
「匹」じゃないしな~。
安田さん:
今の仕事も好きなので、仕事にアクセル振り切りたいと思っても、やっぱり家のことだったり、もちろん子供のごはんとか、話す時間とかコミュニケーションとる時間もなくなって『はよ風呂入り』とか『歯磨きは?』とかが会話になるから。そこがしんどいですね。彼女がやりたいことをさせてあげれてないっていう自分への罪悪感とかも含めて、日々葛藤してる…感じかな。
『この生活を少しでも変えたい…』
そう考えていた一昨年、安田さんは長屋のオーナー・綿谷茂さんと出会った 。
助け合える…「長屋」の空気感を生かして
老朽化が進む無人の長屋の対処に頭を悩ませていた綿谷さん。
安田さんたち当事者の悩みを聞き、「シングルマザーシェアハウス」の計画が走り出した。
長屋のオーナー・ 綿谷茂さん:
色んなパターンの家があって、今ってそれが全部別々の家に住んでるじゃないですか。でもそういう人たちって、 関わり方をうまく持てば、お互い助け合えますよね。長屋の構造だけがもつ空気感があるので、それをぜひ生かして、形にできたらなと。
見学会を開くと、大勢のシングルマザーが集まった。
それぞれが、悩みを抱えながら生きていた。
参加したシングルマザー:
子供から父親を離してしまったという罪悪感を持たれている方もたくさんいると思うんですけど、こういう場所があればきっと、一人で頑張らないといけないとか思わなくていいと思うんで、すごい素敵だなと思いました。
無理せず、できる範囲で…助け合いのルール
今年4月、いよいよ新しい生活を始める日がやってきた。
安田さん:
鍵、開きました。新居や。新居、新居!どうする、どこに何置く?
生まれ変わった長屋。
8部屋のうち、シングルマザー世帯専用の部屋は5つ。
シェアハウスといっても、それぞれの部屋は独立している。
2階の部屋と部屋の間には共同の台所があり、ここがみんなの食卓になる。
もうひとつの棟には、誰でも使えるシェアキッチンや共用スペース(有料)。
人が集まる場所になれば、住むだけでなく、地域との関わりも生まれることを期待して作られた。
安田さん親子の他に、2家族が、ここで暮らし始めまた。
ななさん(仮名):きょう、ご飯何なの?
むえるちゃん:知らん~。
むえるちゃんは1人で食事をすることが減った。
むえるちゃん:昨日は最悪やった。
ななさん(仮名):なになに?
むえるちゃん:夏野菜のソテー。
ななさん(仮名):トマトか!野菜か(笑)。
この日は安田さんが、帰りが遅くなるお母さんにかわって、保育園へお迎えに。
安田さん:きょう、お昼寝したん?
女の子:うん!
長屋に戻ると、女の子のママが帰ってきた。
母:いくちゃん (安田さん)ありがとう~。
女の子:ママ―!
安田さん:もう帰って来たん?
母:帰ってきたよ~。
安田さん:おかえり~。
送り迎えや一緒にご飯を食べる。
「無理せず、出来る範囲で助け合あう」が、ここでのルール。
安田さん:
全然違う、精神的に。一人やったらちょっとしんどいなってなっても、具体的な悩み相談しなくても、笑って話すだけでも気分が晴れるというか。
やっぱりどこかで自己否定ももちろんあるし、それがなくなることはないんですけど、じゃぁ次どうやっていくとか、今やからできること見つけてやっていこうよっていう方に舵きったほうが楽しいし。生きやすいと思うので。そういうハウスを目指します!
安田さん:歩いて行こうか。
むえるちゃん:え~、 あはは。
一人で抱えていたものが、少し減ったようだ。
(関西テレビ)