史上最悪のサンマの不漁

今年は、史上最悪のサンマの不漁が予測されている。

8月20日午前0時、近海サンマ漁が解禁となり花咲港(北海道根室市)を大型サンマ棒受漁船団が出航した。しかし、その雰囲気は、心なしか沈んでいた。先だって出漁していた小型漁船の報告によると、サンマは東経163度付近まで行かないと群れがいないようだ。この海域まで行くためには、2から3昼夜を要する。たとえ、豊漁だったとしても燃料代の高騰の影響もあり、採算が取れない可能性が高いのだ。

航海の安全や大漁を祈願して行われるサンマ漁の「出船送り」(気仙沼)
航海の安全や大漁を祈願して行われるサンマ漁の「出船送り」(気仙沼)
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今年は、サンマ漁の試練の年である。

この数年続いているサンマの不漁対策として、今年から公海におけるサンマ漁の操業期間規制が撤廃され、通年の操業が可能になった。5月、公海サンマ漁の第一陣が出漁し、7月までの期間で5003万トン、金額にして3億5210万円の水揚げとなった。その多くは、洋上でロシア船に魚を売る事業だが、花咲港に506トン、8227万円が水揚げされた。

公海での漁が始まった当初こそ、1キロあたり1900円もの高値が付いたが、これはご祝儀相場で終わった。国内分の平均単価は、キロ当たり162円。公海までは片道2日から3日航海しなければならず、これでは採算がとれない。また、公海サンマは、小さく脂が乗っていないため、日本人の食の好みには合わず、売れ行きも低迷したようだ。

例年より3℃から5℃高い水温

期待した公海サンマ漁も不調に終わり、近海のサンマ漁への期待が膨らんでいた。しかし、今年は北海道近海の水温が例年より3℃から5℃も高い状態が続いている。これでは、サンマは日本沿岸部には寄り付かないだろう。8月中旬に出漁していた中型サンマ漁船は、3日間の航海を経て、前述のように東経163度付近でようやくサンマの群れに遭遇した。しかし、漁獲高は5トン。また、漁場が遠いため鮮度保持が気にかかるところだ。

一部の専門家は、昨年同様、年間10万トンほどの水揚げを期待しているが、近海にサンマが寄り付かないため、製氷能力を持たない中、小型漁船では遠洋に出漁することができず全体の水揚げは落ち込む可能性がある。既に北海道の漁師の中には、サンマ漁をあきらめ、近年、好調なイワシ漁に転換する人も多く、水揚げする漁船も減少しているのである。

庶民のサンマは高級魚へ

さらに100グラムから140グラムほどの小型のサンマが多いことが予測されている。例年、脂が乗り旨いとされる200グラム級のサンマは希少となり、高値で取引されることだろう。大型のサンマは、1匹1000円払っても口にすることができない高級魚になってしまうのだ。

【執筆:海洋政治学者 山田吉彦】

山田吉彦
山田吉彦

海洋に関わる様々な問題を多角的な視野に立ち分析。実証的現場主義に基づき、各地を回り、多くの事象を確認し人々の見解に耳を傾ける。過去を詳細に検証し分析することは、未来を考える基礎になる。事実はひとつとは限らない。柔軟な発想を心掛ける。常にポジティブな思考から、明るい次世代社会に向けた提案を続ける。
東海大学海洋学部教授、博士(経済学)、1962年生。専門は、海洋政策、海洋経済学、海洋安全保障など。1986年、学習院大学を卒業後、金融機関を経て、1991年、日本船舶振興会(現日本財団)に勤務。海洋船舶部長、海洋グループ長などを歴任。勤務の傍ら埼玉大学大学院経済科学研究科博士課程修了。海洋コメンテーター。2008年より現職。