企業が発信した言葉が、瞬く間にSNSで拡散される時代。うまくいけば絶大な宣伝効果が得られるが、ひとたび批判が巻き起これば、大炎上しかねない。

今年6月、阪急電鉄が『はたらく言葉たち』という書籍から抜粋したメッセージを記載した中づり広告を掲示。そのメッセージが「時代にそぐわない」「上から目線だ」と、SNSを中心に批判が巻き起こった。

企業がよかれと思って発信したものも、批判の対象となりかねない。そして、1人のユーザーの批判の声が大きくなりやすい今、企業が炎上を避けるにはどうしたらいいのだろうか。

企業の危機管理の第一人者である中島茂弁護士に、炎上しない秘訣、また炎上してしまった場合の対応について聞いた。

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「まるか食品」は模範的な対応だった

「過去に炎上した案件の中で、模範的な対応を取ったのは、まるか食品だと思います」と、中島さんは話す。2014年12月2日、消費者のTwitterへの投稿がきっかけで、「ペヤングソースやきそば」に虫が混入していることが発覚し、ネット上で炎上したケースだ。

「まるか食品は、発覚直後の3日に『我が社の製造過程に限って異物が混入するわけがない』といった旨の発表をして、さらに不信感を招いてしまったのです。しかし、その後すぐに調査をして異物混入の可能性を見出し、11日に全製品の製造ライン停止を発表しました」(中島さん・以下同)

その後、まるか食品は、製造ラインでのセンサーカメラの設置や異物が入りづらい容器の開発など、ホームページを通じて具体的な対策案を発表し、少しずつ世間の信頼を取り戻していった。

「問題発覚から半年後、生産が再開された『ペヤングソースやきそば』が市場に出回った時、売り切れるお店が続出しましたよね。最初は炎上したけど、一転して事実を認め、丁寧に対応していった成功例といえます」

まるか食品の炎上の原因は、異物混入問題そのものだけでなく、当初「製造工程での混入は考えられない」と強調したことの影響も大きいと、中島さんは見る。

「多くの日本企業は徹底した品質管理をしています。だからこそ、『我が社に限って』と言いがちです。ただ、それだけだとネット上で『偉そう』と、叩かれやすい。『我が社の管理に問題はないと思うが、事実であれば大変なので、至急調査します』と、ひと言加えると、印象は変わりますね」

公式ホームページは企業の“誠意”が見える場所

まるか食品の例からわかることは、「誠実な対応が炎上を鎮める」ということ。

「ネットの世界でもリアルな社会でも、対応は変わりません。批判を受けたら、まずは事実を確認し、実際に問題があるなら謝罪をして、原因を究明。ライン停止や商品回収などの対処をして、再発防止策を練り、発表する。こうした普通の対応を、丁寧かつ迅速にしていくしかありません」

対処療法のようにその場しのぎの対応では、傷口を広げるだけだ。また、対応に関する発表の場はSNSではなく、企業のホームページが望ましいという。

「企業としては、問題を世間の目の触れないところに隠して、うやむやにしたいもの。だからこそ、ホームページのトップページに『我が社が対応している問題』と、不祥事に関する内容を持ってきている企業は、誠実に対応している姿勢がうかがえます」

ホームページに掲載された内容は、世間に公式見解として受け取られる。そこで具体的に発表していくことで、企業としての誠意が消費者に伝わるのだ。

「不祥事を起こした企業のホームページを見に行って、一切その問題に触れていなかったら、不信感が募りますよね」

指摘される隙を作らないことが炎上回避のカギ

ここまでは炎上した場合の対処法を聞いてきたが、そもそも炎上しないためには、企業は何に気をつけたらいいのだろうか。

「当たり前のことですが、社内研修を通じて、コンプライアンス経営の姿勢を徹底することです。コンプライアンス=世論と考えることが大切。法令とか難しいことではなく、世間の良識に従って経営をすることが重要なんです」

30年以上企業の経営相談に関わってきた中島さんが行きついた最強の炎上予防策は、問題があれば丁寧に対応し、リスク管理を万全にしていくという王道。

「最初に指摘された問題は些細でも、『こういうウワサもある』『ここもダメじゃないか』と別のことで批判が増し、炎上するケースもあります。つじつま合わせではなく、一貫したリスク管理が大事だと、経営者が思い至る必要があります」

また、いざという時のために、企業体力をつけておくことも、リスク管理につながるそう。

「万が一問題が起きた時、商品の回収や製造停止、一斉休業といった措置を取れるよう、資産を保有しておく必要があります。日銭を稼いで回すような経営をしていると、緊急時に対応できず、問題がズルズルと先延ばしにされてしまいます」

企業がいくら品質管理を徹底していても、思わぬところから批判が起こってしまうケースもある。炎上を最低限に食い止めるためにも、経営姿勢を日頃から見直し、改善していくことが企業には求められる。そして、いざという時にはホームページでの発表も忘れずに。


中島茂
中島経営法律事務所代表弁護士、弁理士。1977年東京大学法学部卒業。83年に、企業法務を専門とする中島経営法律事務所を設立。主な担当業務はコーポレートガバナンスやコンプライアンス体制の構築に関するアドバイスなど。著書に『人気弁護士が教える ネットトラブル相談室』『その「記者会見」間違ってます!-「危機管理広報」の実際』など多数。
http://www.ntlo.net/

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プライムオンライン編集部
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