世界の政治家やセレブ・要人のツイートをモーリー流に翻訳・解説する「Twittin’ English」。今回は8月15日、 トランプ大統領のツイート。



モーリー:

If President Xi would meet directly and personally with the protesters, there would be a happy and enlightened ending to the Hong Kong problem. I have no doubt!

もし習近平国家主席がデモの参加者と直接、個人的に対話したなら、香港問題は喜ばしく賢明な結末となるだろう。間違いない!


トランプ大統領は久々の登場ですね。面白いのは、冒頭の「Xi」です。
これは中国語の発音を表す拼音(ピンイン)表記で、習近平国家主席のことを指しています。習主席の名前は中国語読みで「シー・チンピン」といい、英語では「クスィ」と発音する「Xi」は「シー」となります。習主席は欧米メディアでも毎日のように登場するため、次第にこのように表記されるようになりました。

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さらに、同じ日に発信した自身のツイートを引用しています。その投稿がこちら。

I know President Xi of China very well. He is a great leader who very much has the respect of his people. He is also a good man in a “tough business.” I have ZERO doubt that if President Xi wants to quickly and humanely solve the Hong Kong problem, he can do it. Personal meeting?

私は中国の習近平国家主席をよく知っている。彼は非常に国民から尊敬されている偉大なリーダーだ。また、彼はタフなビジネスマンでもある。習主席が迅速かつ人道的に香港問題の解決を望むなら、彼がそれを実現できるということに、私は全く疑問を持っていない。パーソナルミーティング?

最後の「Personal meeting?」は「ちょっと会ってみる?」というニュアンスですね。
内容については、習主席が香港デモの参加者と直接対話する可能性は低いだろうというのが大方の専門家の見解ですが、トランプさんはいわゆる政治の専門家ではない大統領なので、「予想外のことをやってくれるのでは」という期待もあります。

トランプ大統領にとって「香港人権問題」は優先順位が低い?

では、香港デモの現状をおさらいしましょう。トランプ大統領の思惑については、後ほど解説します。

8月18日、CNNはデモの規模についてツイートしています。

The rain has started to pour in Hong Kong, but that hasn't put off the thousands of protesters huddling under umbrellas in Victoria Park. The park is so full, many are spilling out onto the surrounding streets:

香港では雨が降り始めたが、傘の下で身を寄せ合っているヴィクトリアパークに集まった何千人もの抗議者たちを止めることはできなかった。公園に収まりきらなかった多くの人が、周辺の通りに溢れている。


警察発表ではデモの参加者は12万人でしたが、主催者発表では170万人。どうしたらこんなにも違いが出るのかわかりませんが、中国政府の圧力を感じた警察が実際よりも少ない人数を発表しているのか、主催者がデモ参加者の士気を高めるために数字を盛っているのか、あるいはその両方か…

主催は香港の民主派団体「民間人権陣線」です。警察当局からデモ行進の許可を得られなかったため集会の形式を取りましたが、大勢が集まりまもなく行進に移行したということです。

さて、トランプ大統領のツイートに戻ります。英語のトーンを見ると、トランプ大統領は香港の人権問題にあまり興味がないのだろうな、という印象です。
どこか遠くのこととして見ていて、「私は支持者たちと集会で直接話しているから、習主席もやればいいんだよ」という考えなのでしょう。

しかし、既存のエスタブリッシュメント政治に不満を持った人たちが多く存在するアメリカにおいて、ある種のデモクラシーの症状としてトランプ大統領が登場したわけですから、彼がそこでロックスターのように盛り上がることと、そもそも民衆が声を上げることが厳重に規制されている中国で、習主席がデモの最前線へ出向くことは、同列で語ることはできません。

そして、イギリス統治時代から民主主義を貫いてきた香港の人たちが、のし掛かってくる中国の指導者と面と向かって話ができるという保証はどこにもありません。
こうした背景から見ても、トランプ大統領が気軽に今回のツイートをしたことがわかります。

また、アメリカの国益を重視し、米中貿易摩擦で巨大化している対中国の貿易赤字を何としてでも縮めようとしているトランプ大統領にとって、香港の一般市民の人権や表現・集会の自由、政治的な自由は、残念ながら優先順位のランクは低いのではないでしょうか。
そのため、軽い口ぶりでパーソナルミーティングという例を挙げ、「困っているんだろう?知恵を授けてもいいよ。ちょっと個人的に会って話さないか?」と取り引きを申し出ているわけです。

そしてその裏で、アメリカは台湾に戦闘機を売却しています。人民解放軍が台湾海峡を超え、台湾を占拠して一国二制度を否定した時、これは台湾が武力で抵抗できるための武器となります。

つまりトランプ大統領は、一方で「みんなで仲良くしてね。香港は中国の一部だと私も思っているよ」としながら、台湾に武器を渡している。
儲けられるものは全部取って自らが強い立場となり、中国が“お家騒動”で流動化して不安定になっていくのをニヤニヤと見ていて、助け船を出すことをほのめかしているのです。

まさに不動産屋。グリーンランドだけでなく、中国の永久凍土も溶けつつある…ということですね。

「デモはアメリカの陰謀」中国版“カラー革命”を危惧する共産党幹部

これがトランプ大統領の考えだと思います。一方の中国はどのように見ているのか?
中国内部からすると、恐らく全く違う世界地図になっていると思います。

中国の主要メディアは、「これはアメリカが裏で糸を引いている陰謀で、下手をすると中国政治の転覆を狙っているカラー革命ではないか」という声が上がっています。

カラー革命とは、旧共産圏のヨーロッパ諸国が民衆の民主化要求によって独裁的政権を放棄した2000年頃に起きた無血革命のような民主化運動で、グルジア(現ジョージア)やウクライナのオレンジ革命などがあります。
プーチン大統領は当時、ソ連が崩壊した負け惜しみで「カラー革命は全てアメリカが仕掛けた陰謀である」と発言し、ロシア人の愛国心に訴えかけました。

そして、どうやら中国がロシア寄りに世界を見ている結果、香港の自由を今より少しでも拡大して中国が折れようものなら、これは中国版のカラー革命となり、最後には中国の若者に感染して、足下で天安門事件が頻発すると考えているようです。
そうなった時、自分たちはどうなってしまうのか?という恐怖感と猜疑心を中国政府が持っているのです。

最後にひと言。中国ではインターネットが検閲されていますが、VPN(Virtual Private Network)という技術を使うと、ファイヤーウォールの向こうを見ることができます。しかし、そうしてネットを見ている中国の若者たちは、自由に対する熱を全く持っていないそうです。

彼らは、「香港は中国のための経済的な役割をそろそろ終え、今後は衰退する。香港の人たちは、これまで私たちを共産圏の人間だと見下してきたが、言論の自由を保障されてデモを行い、要求を強める様は駄々っ子のようだ。これからは私たち中国人の時代だ」という考えを持っている。
「少数派であるのに威張っている“イギリス風味の香港人“が気に入らない」という少し見下した視点で、「彼らの自由はどうでもいい」とでもいうような、妙に湿ったマッチで自由への欲求に火がつかない。それが30年前の天安門事件と決定的に違うところです。

ですから、中国政府が恐れるものは何もありません。香港は現状維持でも問題ない。
ところが、共産党内部の天安門事件を覚えている上層部や長老たちは、「まずい、アメリカが後ろにいる」と考えているのかもしれません。そこの認識のズレが、このような妙な亀裂を生み出しているように思います。

(BSスカパー「水曜日のニュース・ロバートソン」 8/21 OA モーリーの『Twittin’ English』より)

モーリー・ロバートソン
モーリー・ロバートソン

日米双方の教育を受けた後、1981年に東京大学とハーバード大学に現役合格。1988年ハーバード大学を卒業。タレント、ミュージシャンから国際ジャーナリストまで幅広く活躍中。