現在、就職・転職活動中の人もいると思うが、インターネットは、企業の情報を調べるだけでなくアピールの場としても活用されるようになった。人脈を構築する人もいれば、自分の作品を公開するクリエイターもいる。就職を支援するウェブサービスもあり、学生らと企業の架け橋とも言えるだろう。

そして、それは採用する側にとっても、履歴書や面接だけではわからない求職者の情報を得るツールになりつつある。ネットは使い方を誤ると炎上案件なども引き起こすため、インターネットを正しく扱う能力「ネットリテラシー」が備わっているかを評価基準とする企業もあるという。
2019年7月、そんな時勢を反映したサービスが登場したのをご存じだろうか。

求職者の“内面”をSNSなどから分析する

このサービスの名前は「MiKiWaMe」(見極め)。
求職者がSNS・ウェブに投稿した内容を分析することで、その人の内面を見極め、企業側が求める人材とのミスマッチを防ぐ狙いがある。

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運営する「株式会社HRRT」はもともと、求職者のリファレンスチェック(経歴や人柄の確認)を事業展開する企業。「MiKiWaMe」では、数万件の調査実績で得たノウハウを生かしつつ、風評被害対策に強い弁護士指導の下、専門チームがSNS・ウェブをチェックする。

実際の利用は、企業側が調査を依頼、専門チームがチェック、結果を企業側に報告...という流れで進められ、求職者の情報として、1.写真付き履歴書 2.出身校 3.所属していた団体を提出する必要がある。利用金額は1人当たり2万円で、依頼から報告までは4営業日で完了する。

その後はSNSアカウントの情報、調査で判明した要素などをレポート形式にまとめ、企業側に報告する。あくまで企業向けサービスなので、内容が求職者側に伝わることはないという。

レポートには投稿からフォロワー数まで

こちらは、架空のSNSアカウントや投稿内容をもとに作成した、レポートのサンプル。
調査対象者の個人情報、本人かどうかの信憑性、フォロワー数などが記載されている。そして「ネガティブ要素」として、攻撃性や自己顕示など5つのカテゴリを5段階評価するほか、「注意すべき投稿」として投稿内容の問題性にも触れる。このほか「ポジティブ要素」の欄もあり、これらの要素を総合的に分析して、採用リスクなどを判定するという。

レポートのサンプル
レポートのサンプル

サンプルのSNSアカウントでは、Twitterで「湘南温泉物語入ってきた!脱衣所で○○が暴れててマジ笑ったw」と投稿していて、温泉施設の公式アカウント(架空)から、脱衣所が撮影禁止であるとの注意を受けている。このほか、アカウントに対するメンション(他者の投稿に名前が挙がること)に不適切な内容があったことも、ネガティブ要素となった。

レポートのサンプル
レポートのサンプル

ここまで読んで、最近、リクルートキャリアが運営する「リクナビ」が個人情報から個々の「内定辞退率」を予測し、データを企業に販売していたが、一部の就活生から同意を得ていなかったことがわかり、サービス廃止となったことを思い出した人もいるだろう。

「MiKiWaMe」はどこまでを調査し、どう分析するのか。そして懸念されるプライバシーの問題なども株式会社HRRTに話を伺った。

ネットでカバーできる範囲は全て調べる

――「MiKiWaMe」を開発しようと考えたのはなぜ?

SNSなどが活況を迎え、個人の発言や画像、動画が自由に投稿されるようになりました。便利にはなりましたが、その反面、個人の過激な発言や画像、動画が社会問題となる事例が散見されるようになりました。ニュースでも取り上げられるよう、増加の一途をたどっています。

そして、問題となる可能性の高い投稿をする人物を企業が知らずに採用すると、入社後に大きなトラブルを起こし、企業のブランドを失墜させてしまう可能性も秘めています。このような背景から、求職者と企業が持つ情報を限りなくイーブンにできないかと考え、開発しました。


――調査対象者はどのように、どんな範囲を調べる?

基本的には、一般公開された情報で収集します。SNSは全てをカバーできるように調べますし、ウェブでは、YahooやGoogleなどの検索エンジンだけではなく、通常はアクセスできないインターネット群なども調べます。ただ、LINEなどのチャットアプリ、個々のやり取りは調査対象外となります。調査対象に含まれるのは、あくまでウェブ上で確認できるものとなります。

このほか、個人のアカウントが特定できなかったり、「裏アカウント」などで探しきれない場合は収集できた情報のみでの報告となります。具体的な収集ノウハウなど、サービスの深部については、申し訳ございませんがお答えできません。


インターネット全てが調査対象となる(画像はイメージ)
インターネット全てが調査対象となる(画像はイメージ)

――投稿はどんなところ、どこまでをチェックする?

セルフブランディング(自己発信)に長けているか。文章力があるか。フォロワーがついていて発言に影響力があるか。働いていた会社に対する不満(残業時間、待遇面、人間関係のトラブル)、就職する前の会社に期待すること、望むこと。私生活上で攻撃的な発言がないか、倫理感やコンプライアンスに問題ないか...などを調べます。

あまりにも悪質な投稿(過激な発言、過激な動画)があるケースは、調査を依頼された企業に相談し、弁護士から開示請求を行う可能性もございます。


チャットアプリでのやり取りまでは難しいようだが、ネットに公開されている、あらゆる情報で求職者の内面を調査するようだ。続いて、個人情報の扱いについても聞いてみた。

「情報を提供しない」という選択肢もあります

――個人情報の扱いに問題はない?

問題ないと思います。弊社は弁護士指導のもと、「個人情報の取扱いに関する同意書」がなければ調査を実施しないことにしているためです。採用フローで弊社の調査が行われるのは、最終面接の段階が大半です。普通は面接に来る段階で「個人情報の取扱いに関する同意書」が交わされていますし、内容には「求職者以外から情報を取得することがある」という旨も含まれます。この情報取得に、ウェブからの調査も当てはまります。また、企業側とは機密保持契約を交わしているので、求職者の情報が依頼企業以外に開示されることはありません


――個人情報の同意を得る際、企業側と求職者側にはどのように通知される?

企業側には「個人情報の取扱いに関する同意書」を求職者からいただくよう案内し、求職者側には企業側から案内していただいています。われわれはあくまで、企業側のリスクヘッジをするBtoBのサービスであり、企業の人事部が行う調査を業務委託されている形です。


――「情報を提供しない」という選択肢は可能?

可能です。その場合は私たちが評価することは一切ございません。ただ、就職のために面接に来ていて、個人情報の取得を断る理由はあまりないはずです。SNSで過激な書き込みをしたり、やんちゃしていると同意できないことがあるかもしれませんが...

同意しないことで、企業側は「なぜ?」と思うことはあるでしょうし、求職者側が「情報を収集されたくない」と次の面接を辞退することもあるはずです。そういう点では、企業側と求職者、それぞれのスクリーニング(選別)になるかもしれません。


評価のポイントは?

――評価が低くなるのはどんなケース?

SNSなどに特定できる第三者の悪口、働いたことのある会社のネガティブ情報(上司や同僚、部下への文句)を投稿したり、現在勤務している企業の内部情報を投稿したり、コンプライアンス上の問題や過激な発言をしている人物が挙げられます。

ここで懸念されるのは、入社後、その企業について誹謗中傷するような投稿をする可能性があるかもしれないという点です。採用リスクの低い人材となるには、SNSという自由な書き込みができる場であっても、企業側がリスクであると感じられるような、後ろ向きな発言や過剰な物言いなどを書き込まないよう、お勧めしています。


――評価されるためにはどうすればよい?

例えば、仕事面で考えても、ビジネス関連の人との食事写真をアップする。セミナーに参加している。ビジネス本などの感想を要約して記載している。スクールに通ったり、体力をつけるために筋トレしていることを掲載するなど、さまざまあります。人事の方が見て、人脈がある人物であると想定できたり、自己成長に長けた人物であると想定できたりすると良いかもしれません


ポジティブな使い方をすると高評価を得られるかもしれない(画像はイメージ)
ポジティブな使い方をすると高評価を得られるかもしれない(画像はイメージ)

SNSをやらなくてもマイナス評価にはならない

――SNSが非公開だったり、やっていないときは?採用活動に不公平感は出ないか?

非公開・やっていないと判断した場合は、情報管理に長けた人、SNSなどに興味がない人として評価させていただいております。不公平感がある評価は出ないと考えています。例えば、SNSなどからポジティブな情報が確認されれば、プラス評価をさせていただきますし、逆にSNSをやらなかったとしても、マイナス評価として報告することはございません


――「MiKiWaMe」の利用状況は?どんなサービスにしたい?

サービスを開始した7月1日から、8月上旬までに、大企業、中小企業問わず、相当数のお問い合わせをいただいております。利用された企業からは、入社後のミスマッチが少なくなった。仕事をしている顔と別の良いところを知ることができた...など、評価情報を先に得られることで組織マネジメントに活かせているとの感想をいただいております。これからは、日本の採用活動における、選考フローのスタンダードなサービスにしたいと考えています。


「SNSがチェックされる」と聞くとドキッとするかもしれないが、調査は同意に基づいて行われ、情報を提供しない選択肢があるとのことだった。
普段からSNSを健全に利用するのが一番だが、採用試験を受けるときは、自分がどれだけネットリテラシーを守っているのかも見られる可能性のある時代になってきているのかもしれない。


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プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。