知っているのに聞き取れない!癖が強い昔ばなし

『浦島太郎』や『一寸法師』など、子どものころ誰もが親しんだ「昔ばなし」
分かりやすいストーリーと文章で、子どもでもすぐに覚えられるのが昔ばなしの特徴だが…
「字幕をつけないと全くわからない…」と話題になっている昔ばなしがあるのをご存じだろうか。

さっそく、動画になっているその昔ばなしを見てみたい。

 
 
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「じさんなしろやめ、しばどんあつめけいっきゃった。ばばどんな、こうつっがわせぇ、せんたっしけいっきゃったたいげな。」


「むかしむかし…」というお決まりの出だしから始まったのは『桃太郎』。
しかしこの昔ばなしが一味違うのは、全編「鹿児島弁」で展開する、というところだ。

「おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に…」というお馴染みのシーンも、「城山(しろやま)」「甲突川(こうつきがわ)」という鹿児島の地名が織り交ぜられつつ展開。

すでについていけなくなっている人も多いだろうが、そうこうしているうちにおばあさんのもとに流れ着いたのは、桃ではなく「わーっぜ ふっとか かいも(とても大きなサツマイモ)」
聞こえてきたのもお馴染みの「どんぶらこ、どんぶらこ」ではなく「ごろたん、ごろたん(ごろん、ごろん)」という“鹿児島弁SE”だ。

 
 

そして「ふっとかかいも」が割れて出てきたのは…なぜか「チェスト~おやっとさぁなぁ~(お疲れ様です)」と脱力している白くま!

ここでピンときた人もいるだろうが、この動画は練乳がかかったかき氷にフルーツがのった「南国白くま」を製造しているセイカ食品株式会社(鹿児島市西別府町)が作ったもの。

 
 

2018年の大河ドラマ『西郷どん』で「薩摩ことば」を聞いたことのある人も多いだろうが、動画内の鹿児島弁は鹿児島弁検定協会が監修しており、ばっちり本格的なものなのだ。

さっそく、続きを見ていきたい。
『桃太郎』のストーリーどおり「鬼を退治しに行く」と言い出した白くまは、犬・サル・キジに「わっこどまよぉ、おいといっしょきよぉ、おんぬばやっつけけいかんか?」と声をかけるのだが…

 
 

「鹿児島弁が難し過ぎて全く通じない」という悲しい結果に…

『桃太郎』のストーリーを知っている私たちは、白くまのセリフが「一緒に鬼退治に行こう」と言っているのだと予想できるが、この動画に使われている鹿児島弁は少々古い年代のものということで、“イマドキの若者たち”には伝わらない、という少々辛口のギャグだ。

そして、鹿児島弁が通じなかった3匹にも嬉しい、この動画のもうひとつの特徴が「日本語(標準語)字幕対応」ということ。
さっそく、動画の設定メニューから「日本語字幕」を選ぶと…

 
 

予想通り「一緒に鬼退治に行きませんか?」という標準語が表示された。

ちなみに、音声を聞き取って作る「自動生成」タイプの字幕に設定してしまうと、鹿児島弁が聞き取れなかった3匹の気持ちがちょっとだけわかるようになっている。

字幕生成AIになかなか聞き取ってもらえない鹿児島弁…
字幕生成AIになかなか聞き取ってもらえない鹿児島弁…

最終的に、白くまは「おまえたっもいっしょきのもやぁ~(お前たちも一緒に飲まないか?)」と芋焼酎を差し出すフレンドリーな鬼と出会い、「そはよかなぁ~。せっかっのこっこごわんで、いっぺもろもんそかい(それはいいですねぇ。せっかくのことですから、一杯いただきましょうか)」杯を差し出し、和解が成立!

 
 

なぜか字幕に鹿児島弁のはずの「だれやめ(晩酌)」が残ったままになっているのも気になるが、酒盛りとアイスを楽しむ白くまと鬼の姿が描かれ、めでたしめでたし…となるのだ。

標準語字幕に残った鹿児島弁?
標準語字幕に残った鹿児島弁?

この動画に、SNSでは「シュールすぎて笑える」「全然聞き取れないけどゆるゆるな雰囲気でかわいい」というコメントがあった他、“鹿児島弁ネイティブ”の人からも反応が。
「これは、じじばばが使う濃いめの鹿児島弁!」「おじいちゃんを思い出した…」「鹿児島出身でもわからん~!」など、様々な反応が飛び出した。

日本語であるにも関わらず字幕必須!というシュールさに、聞いているだけでなんとなく懐かしい気持ちになってしまう、癒し系な雰囲気が絶妙にマッチした動画。
なぜ人気商品の「アイス」と、「方言」「昔ばなし」がコラボした動画を発信したのか、2019年で設立100周年を迎えたセイカ食品にお話を伺った。
 

「分からないなりに楽しんでもらえるのでは」

――なぜ「南国白くま」と「鹿児島弁の昔ばなし」が合体した動画を?

ここ約二十年、広告代理店の博報堂さんと弊社製品「南国白くま」のTVCMを制作して参りましたが、今年は初めての取組みとしてCMより少し長い尺で面白い動画を作成し、多くの方々にご覧いただきたいと考えました。
「氷白熊」は鹿児島の夏の風物詩ですので、鹿児島にちなんだテーマで楽しんでいただきたいと、鹿児島にこだわったものを検討し、鹿児島弁の動画を作ることに致しました。
本格的な鹿児島弁は難しく奥が深いので、県外の方々に内容をご理解いただくのは大変ですが、皆さんが良くご存じの昔ばなしであれば、なんとなく分かる部分もあり、鹿児島弁を身近に感じていただき、分からないなりに楽しんでいただけるのではと考えました。



「白くま」は、昭和7年頃鹿児島のとある綿屋が夏の副業として販売していたかき氷の新商品として作られた、練乳をかけたかき氷「氷白熊」から生まれたもの(諸説あり)。

セイカ食品では昭和44年頃から生産しているというこの「白くま」は鹿児島の「夏の風物詩」として親しまれているということだが、「鹿児島の企業であるからこそ、鹿児島の文化や方言などを大切にしていきたい」という思いで広告を制作しているのだという。

そして今回注目したのが、「鹿児島弁」。
さらに、鹿児島弁に馴染みがない人でも「分からないなりに楽しめる」よう、誰もが知っている昔ばなしをテーマに選んだのだという。

結局、仲間になったのは鹿児島の名産たち
結局、仲間になったのは鹿児島の名産たち

――視聴者からの反響について…

お客様からは、韓国語やフランス語に聞こえる、ご自身のお爺様お婆様と同じ話し方が懐かしい、イラストがかわいい、日本語なのに字幕があり面白い、九州の各県の方々より言語の類似性など、弊社の予想以上のたくさんの反響をいただき、誠に有難いと共に、鹿児島弁をこれからも大切にしたいと考えております。


――ちなみに、現在でもこの動画のような鹿児島弁は使われている?

大勢ではありませんが、ご高齢の方々はこのように話されております。
私の父(87歳)は普段私とほぼ標準語で会話をしますが、年の近い兄弟や学校の同級生と話をする際は、本動画のように語ります。
会話の際に芋焼酎が入りますと、鹿児島弁の語りは更にレベルアップします。
若い世代は基本は標準語ですが、イントネーションやアクセントは鹿児島独特のものがあります(これを「からいも普通語」と言います)。
 

動画には『浦島太郎』バージョンも
動画には『浦島太郎』バージョンも

ある年代の人にとっては懐かしく、ある年代には「所々は分かるけれど同じようには話せない」、さらに県外の人には標準語字幕が必要な鹿児島弁だが、誰もがストーリーを知っている昔話と組み合わせることで「何を言っているのか知りたい!」と思ってしまう仕掛けになっている、この動画。
“ご当地PR”にはその魅力をより分かりやすくする工夫が必要だが、あえて「県内の人でも分からない!」という濃い“ご当地色”を出すことで、ディープな地元愛に惹きつけられる魅力的なPR動画に仕上がっている。


――鹿児島の魅力について挙げるとしたら…

先人の教え(西郷さんや島津公)を大切にする。郷中教育(ごじゅうきょういく)~地域の年長の子供が年少の子供の面倒を見ること。

――今後も鹿児島の伝統とコラボしていく?

来年の春に向けて、「南国白くま」の新CMや屋外広告等を検討中ですが、今後も商品の魅力とともに鹿児島の歴史や文化をお届けして参りたく存じます。


ちなみに、少々気になっていた「だれやめ」という鹿児島弁が残った字幕だが、これについては「鹿児島・宮崎では芋焼酎の晩酌で疲れを取る『疲れやめ(だれやめ・だいやめ)』を何よりも楽しみにしている県民性がございます。我々は『だれやめ』が鹿児島弁であることを見落としていたのかもしれませんね」というコメントを頂いた。

今後も、「南国白くま」のプロモーションにて「鹿児島弁を通して、時代が変わっても変わらない昔ながらの鹿児島の良さ、鹿児島ならではの文化を全国へ向けてアピールし続けていく」という、セイカ食品。
地元愛の詰まった企画が、今後どのように鹿児島を盛り上げていくか楽しみだ。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。