「エボラ」疑い例でフェイクニュースも…政府の感染症対策の現状と課題

カテゴリ:国内

  • 「エボラ出血熱」疑い例 陰性と判明も政府に緊張走る
  • ポイントは「水際」「ワクチン」「ピーク」。政府の感染症対策
  • 「エボラ」ではデマも拡散…令和時代の新たな課題

「エボラ出血熱疑い例」陰性と判明も政府に走った緊張感

「エボラ出血熱の感染が疑われる患者が出た」。8月4日午前、このニュースが各メディアに踊った。首相官邸には情報連絡室が設置され、安倍首相も指示を発出するなど、政府も対応に追われた。その後、感染が疑われた埼玉県の70代女性は、陰性だと判明し事なきを得たが、もしも陽性だったとしたら…。そこで私たちの命に関わる国際感染症についての政府の対策はどうなっているのか、その現状と課題を取材してみた。

エボラ出血熱対策に関する関係閣僚会議(8月5日)

日本における国際感染症対策の現状

日本における感染症対策は、厚生労働省を中心にしつつ、海外での発生情報収集については外務省、学校閉鎖は文部科学省、検疫集約(発生国から来航する直行便の集約)のための調整は国土交通省がそれぞれ担当するなど、多省庁にまたがっている。そのため、内閣官房におかれた「国際感染症対策調整室」が対策全体を俯瞰する形で取り組んでいる。

想定される感染症とその対策は、大きく2種類に大別されている。

1つはエボラ出血熱のように発生場所が限定されていたり、発症後に初めて感染力を持ったりするような感染症だ。この場合は①外務省などによる海外安全情報(感染症危険情報)②検疫などによる水際対策強化③万一の場合に備えた治療体制の強化、が対策の3本柱となっている。

エボラ出血熱に関する関係閣僚会議(8月5日)

実際に、冒頭に記したエボラ出血熱の疑い事案を受けた関係閣僚会議では、この方針に沿って安倍首相が閣僚に対し「検疫をはじめとする水際対策の徹底、迅速な検査、医療体制の確立、国際的な連携等に万全を期すとともに国民に対し迅速かつ的確な情報提供を行っていくよう」指示を出した。

もう1つは、新型インフルエンザなど潜伏期間があるため、検疫などの水際対策が難しい感染症だ。これについては水際対策にも当然取り組むものの、“防ぎきることが無理”であることから“いつか必ず流行する”(内閣官房関係者)ことを想定して対策している。

新型インフルエンザのワクチンは間に合わない!?

新型インフルエンザを例にとると、毎年、冬を中心に流行する季節性インフルエンザウィルスについては、それまでに罹患したことがある人を中心に、多くの人が基礎的な免疫を持っている。ところが、おおむね10年~40年に1度、抗原性の大きく異なるインフルエンザウィルス、すなわち「新型インフルエンザ」が出現する。こうした「新型インフルエンザ」の場合は、ほとんどの人が免疫を持っていないため、季節性インフルエンザと比べ、爆発的な感染拡大が想定される。

新型インフルエンザ対策の柱としては、ワクチンの準備が挙げられる。政府は、流行が想定されるウィルスの型ごとに、効くと考えられるワクチン「プレパンデミックワクチン」をおよそ1000万人分備蓄している。

しかし、これらのワクチンは事前の想定で製造されているため、実際の効き目が保証されているわけではない。また、誰にでも接種されるわけではなく、接種の対象は原則として医療従事者や国民生活の安定に関わる人などの「特定接種対象者」に限られる。

一方で、流行が起きた後に、その型に応じて作られる「パンデミックワクチン」は、原則として“必ず”効くはずのものだが、製造には時間がかかる。内閣官房の担当者によると、最初のワクチンが作られるまで4か月、国民全員に行きわたらせる量が製造されるまでには6か月かかる。つまり政府がすぐに何とかしようにも限界があるのだ。そこで、政府が重要視しているのが、医療体制の整備やワクチン製造のための「時間を稼ぐ」ことだ。

時間を稼ぎ流行のピークを遅らせる対策

(図は政府広報オンラインより)

上図の赤い点線のように感染が急速に拡大すると、ワクチンや医療体制の整備が間に合わず、また欠勤者が増え、社会サービスなどにも支障をきたしてしまう。

そこで政府は、感染拡大を遅らせるため、治療などの医療の確保に加え、不要不急の外出の自粛や、学校や保育所などの施設の臨時休止、人が多数集まる施設の休業やイベントの中止を要請するなどして、上図の青線のように流行のピークを遅らせ、かつ規模を小さくするように努める方針を取っている。

そしてピークを遅らせるためには、私たち一般国民にもできることがある。初歩的なことのようだが効力が高いのは「手洗い・うがい」。さらには、外出先での感染源との接触を極力断つことや、咳エチケットを励行することなどが重要だ。

また、各企業にも今のうちにやっておくべき対策がある。それは業務継続計画(BCP)の策定だ。政府は地方公共団体や公共機関に加えて、一般企業に対しても、感染症が流行し、出勤可能者が減った場合に備えたBCPの策定を呼びかけている。予め計画を立てておくことで、体調不良者を休ませやすくし、業務継続のみならず社会全体への影響も低減できるためだ。

ただ現状においては、地方公共団体にBCPの策定義務がないことから、策定済みの地方自治体は全体の3割にも満たない。規模の小さいところほど未策定で、民間の中小企業も同様に手付かずの会社が多いと想定されるため、政府はポスター、パンフレット等による広報・啓発強化に取り組んでいる。

(政府のBCP啓発パンフレット)

令和の新たな課題はフェイクニュース対策

こうした感染症対策に関して、政府関係者が打ち明ける「今の時代ならではの課題」がある。それは「10年前の新型インフルエンザ流行時と比べ、今はSNSが普及している」ということだ。

先日、エボラ出血熱が疑われる事案が起きた際も、ツイッター上で「エボラ出血熱は空気感染する」とのデマが流れた。今回は首相官邸に設けられた情報連絡室でこうしたデマの流布を覚知し、すぐさまSNS等で正確な情報発信に努めた。その結果、特段のトラブルはなかったようだ。

(「デマ」を打ち消す首相官邸のツイート)

国民の命に関わる感染症対策だけに、政府には、こうしたデマやフェイクニュースに社会が踊らされないような体制づくりが今後一層求められる。そしてメディアや国民の側も、正しい知識、正確な情報をあらかじめ知っておき、様々なリスクについても事前に把握しておく必要がありそうだ。

2009年の新型インフルエンザ(H1N1)流行から10年の節目を迎える今年。「備えあれば憂いなし」という言葉の通り、国際感染症についての「備え」を見直す好機にしたいところだ。

(フジテレビ政治部 首相官邸担当 山田勇)

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