19歳女子学生が月収23万で完全自立 「お金のことで進学を諦めさせない」“介護”が学生をフルサポートするスキームとは

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  • 高校の進路相談で初めて知った完全自立が可能な“進学支援スキーム”
  • 週二回の"夜勤"と、週五回の居酒屋のバイト代がほぼ同額
  • ひとりで上京する大学生の生活・精神面もサポート

石垣島で生まれ育った女の子が東京に行く方法

「なんで石垣島に生まれてしまったんだろう・・・」生まれてから高校を卒業するまで、沖縄の石垣島で育った仲宗根星来さん(19)は、“内地”への憧れから、ずっとそう思っていたという。

その星来さんに転機が訪れたのは高校三年生の進路相談のとき。

中学の家庭科の授業でミシンを使いエプロンを作ったのが楽しく、将来、洋服をデザインする仕事に就きたいと思っていた一方、高校の職場体験で市内の病院を訪ねたとき、介護にも興味をもった。まったく異なる業界だが、両方とも興味がある・・・はたしてどうしたものかと迷っていた、まさにそのとき、高校で「いい方法がある」と紹介されたのが、「ミライ塾」だった。

石垣島で高校生活(当時)を送る仲宗根星来さん

全国初のアイデアに妻は猛反対

「ミライ塾」とは介護施設でアルバイトをしつつ、その収入を施設から前借りした学費への返済や生活費にあてることをサポートする会社だった。

「ミライ塾」が注目したのは介護施設での「夜勤」のバイト代の高さだ。その高さゆえ、夜勤を中心にバイトにはいることで、一般的なアルバイトよりも短時間で高収入を得られ、バイト時間を減らすことで学業にも専念できる。週二回の介護の夜勤と、週五回の居酒屋バイトがほぼ同じ収入だという。

その「ミライ塾」を運営する奥平幹也(45)さんは、その昔、「新聞奨学生」だった。新聞社が学費等を立て替える代わりに、新聞配達をする制度だ。しかし、3時間かけて朝刊を配り、学校に行き、2時間かけて夕刊を配る毎日はかなりきつかった。結局、新聞配達に体力を奪われ、学校にいく気力を失う学生たちも多いらしく、奥平さんもさらにほかのバイトもしていた為に卒業まで6年かかった。

ミライ塾 奥平幹也 塾長(45)

なんとか卒業した後、不動産の鑑定事務所に就職し、介護系投資ファンドを担当したとき、全国の介護施設を回る日々の中で、超高齢化社会に突入しつつある日本の現状に憂いを感じるようになった。全国の100以上の施設を見て、いずれ介護離職やそれに伴う人材不足に直面すると感じたのだ。

そこからひらめいたのが「新聞奨学生」の制度を「介護業界」に切り替えるアイデアだった。

奨学金制度において、延滞に追い込まれる学生は一定数いる。日本学生支援機構によると2017年度の奨学金延滞者は約400万人の利用者に対して約15万人。そのうち7割の学生が「収入減」を理由に延滞している。奥平さんは「4年間自動で振り込まれ続けると借りている意識が薄れる」とも分析している。だから、働くことにもっと意味を持たせたいとの考えに高収入の介護夜勤がマッチした。もちろん慢性的に介護の担い手が不足している施設側にもメリットがある。

さらに、奥平さんの考えはただ人材不足を補うためのものではない。介護の世界を学生のときに知ることで、その学生たちがまったく別の業界に進んだ場合、そこから自分のように介護業界とつながるなんらかのひらめきが生まれ、やがて介護業界を助ける力にもなるのではないか、と考えたのだ。ただのバイトの場ではなく「成長の場、キャリア構築の場に」との思いを込めてのスキームだった。

しかし、会社を辞める際、妻は猛反対。マンションのローンもだいぶあり、娘もいたからそのさきの生活に不安を感じたのだった。でも、彼は妻に“ふいた”。「一年半で軌道にのる。俺に任せろ」と。6年乗った国産車を売り、貯金400万も全額使い、さらに政策金融公庫から資金を借り、このスキームが走り出したのだった。

奥平さんは、このスキームを説明するため首都圏などの高校をひとりで訪問。2018年6月に、かつて住んでいた石垣島の高校を訪ねた際、この制度を知った教師が星来さんに紹介したことで、彼女は興味を持っていた「介護」の仕事に就く一方、その収入で服飾の専門学校に通うことが可能になったのだ。

奥平塾長と仲宗根星来さん

週二の夜勤と遅番で月収23万

星来さんは、2019年3月に上京、東京・板橋区の「ケアポート板橋」で勤務を開始した。専門学校からの距離、そして1人暮らしの自宅など交通の利便性や施設の特性など、すべてを考慮したうえで「ミライ塾」が斡旋した。

「最初、夜勤は暇なイメージだったんですが、コールもすごく鳴るし、ずっと鳴らし続けるひともいて、切っても切っても鳴って大変だった」と初日の思い出を語った。でも「初日はこんなもんか、と思った」と、きついとは感じなかったそうだ。

ちなみに「ミライ塾」は全員が“入塾”できるわけではない。奥平さんの面接もあるし、施設との面談もある。奥平さんは「この学生は介護の仕事と学業の両立ができるのか。その覚悟はあるのか」見極める。確かに、星来さんからは、自分のペースをきちんと守ることのできるメンタルの強さを感じた。

現在、週二回の夜勤(17時―翌朝9時)をベースに、週一で遅番(17時―21時30分)を追加している。夜勤の給料は1回あたり1万9500円。遅番は時給1000円。これに国からの「処遇改善金」が加算され、現在月収は18万円から多いときで約23万円。
家賃は6万8000円で生活費や食費をいれると毎月10万円ほどかかり、さらに5万円を“学費の返済”にあてている。

「親に出させたくなかった」という星来さん、ミライ塾のおかげで親からの仕送りがなくても完全に自立できているのだ。

学業に専念できるよう、夜勤は平日一回と、土曜に一回。夜勤の際は2時間30分ほど仮眠がとれるという。若いからか・・・翌朝の授業中に眠くなることはないそうだ。

夜勤だけでも生活は回るのに、なぜ遅番をいれるのか聞いてみたら「夜勤の時と遅番の時に担当するフロアが違うんです。遅番で担当するフロアの利用者さんもかわいくて・・・」と笑って答えてくれた。

ちなみに、8月は夏休みということもあり、さらに勤務日数を増やしている。いまではバイトをいれないと、ソワソワしてしまうそうだ。

しかし「ミライ塾」の現状には壁が・・・

奥平さんはこのスキームを「ただの人材確保の場にしたくない」と語る。事業性を先に置くと、それありきの“ただの貧困ビジネス”になってしまう、という懸念があるからだ。あくまでも学生の「成長」の場にしたい。それは、彼自身が、新聞配達に明け暮れる毎日のおかげで、学業の時間も、学生として楽しむ時間も、どんどんなくなっていってしまった経験からくる、どうしても外せない思いだ。

だから、この“全国初のスキーム”を施設にも受け入れやすくしてもらおうと、施設からもらう学生の紹介料は相場の半分以下。しかも、それは学生の在学中の全面サポート込みの料金だ。奥平さんは毎日のように学生の相談にも乗り、精神面でのケアもしている。

それでも、学生の学費を立て替える側の施設からすると「貸し倒れ」のリスクを抱えることや、聞いたことのないスキームのために資金を捻出する「社内手続き」を作ることに難色を示されることが多いという。

星来さんが働く「ケアポート板橋」(東京・板橋区)

介護系の大手IT企業が「ミライ塾」の活動を支えてくれているおかげで、どうにか運営はできているが、実はこのバックアップがなければ赤字で、肝心のミライ塾が「自立」できていないのが現状だ。
しかし認知度を上げ、将来的には数万人の学生を対象にしていくことで「ミライ塾」も完全に自立させたい、と考えている。ちなみに2015年に初めて1人の男子学生を受け入れてから、すでに4人が卒業。現在、利用している学生は星来さん含めて23人。施設は13法人。着実な実績を積み重ねていくことに腐心している。

奥平さんは活動に賛同する人たちの力を借りながらも、これらを基本的にすべてひとりでこなしている。

星来さんのように生まれて初めて慣れない東京に移り住み、しかも介護の仕事も始まり、学校にも通い・・・なんて、どんなにメンタルが強くても、本人が不安を抱えて当たり前だ。「電車や人の多さになかなか慣れない」という星来さん。「なんで石垣島に・・・」と毎日思っていたのに、いまは長期の休みがとれたときに、石垣島に帰れることを楽しみにしている。どんなに仕事や学校が楽しくても、ひとりだとさみしくなることもある。

ちなみに私が初めて奥平さんにあった日、彼は「ミライ塾」に対する熱き思いを2時間語ってくれたあと、「女子学生が施設の利用者さんとの関係で、困っている」と言い残し、問題解決のため猛暑の中、その施設へと電車で向かっていった。

石垣島での仲宗根星来さん

(執筆:フジテレビ プライムオンラインデスク 森下知哉)

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