「それって、ホント?」と言いたくなるマナー、多くありませんか?
新入社員のキャトウさんも、そんな“もやもやマナー”に悩まされるひとり。

この記事の画像(12枚)

仕事関係の飲み会の後、ちょっと気になる「会計」の作法。
レジ前で「お支払いは私が…」「いえいえ私が…」ともめるのはスマートじゃないけれど、じゃあどうするのがベスト?
社内の人と行く食事はまだわかりやすいかもしれないけれど、他社の人がいたら…?

そこで、今回のテーマは…

さっそく、国内外の企業や大学などでのマナーコンサルティングや人材育成などのマナー指導を行っている、マナーコンサルタントの西出ひろ子さんにお話を聞いた。

上司と部下の“奢り・奢られ問題”

まずは、誰もが一度は体験するだろう「上司・部下間の支払い問題」

ネット上には「上司と一緒の飲み会だと、ワリカンは無いかなあ…」「毎回奢ってもらうけど、たまには支払わないと失礼?」などなど、悩める部下たちの声が挙がっていたが…
そもそも、“上司が払わないといけないムード”って、どうなの?

西出氏:
会計の作法について、マナーの観点からは、これといった正解があるものではありません。状況や相手との関係性に応じて、変化してきます。また、自社で「支払いのルール」を定めている場合は、それに従うこともビジネスマナーの一環です。
これらを大前提として…

割り勘に関しては、会社の規則で決まっていればそれに従えば良いのですが、規則がない場合、上司から「ここは割り勘で」とはなかなか言いづらいこともございますね。
とはいえ、上司の立場であれば、人によってさまざまではありますが、その場で「割り勘」というのは、避けたいところもあるのではないでしょうか。
一方、部下の立場にたてば、突然「割り勘」と言われても現金を持ち合わせていない可能性もあります。割り勘にするなら、飲み会に行く前に「支払いの負担がどうなるか」を決めておき、互いに了承した上で行くと安心ですね。

上司に関しては、上司だからご馳走しなければいけないということはありませんし、割り勘にすることをマイナスに思われることもありません。こちらもそのときの状況や個人個人の考えによるところもありますから、こうしなければいけないという答えはありません。

部下によっては「割り勘のほうが借りを作らないからいい」という人もいれば「上司なのに割り勘なんてイケてない…」と思う人など様々です。
また、一人にご馳走をしたら、その後、他の部下みんなにもご馳走しなければならない、など、本当にその上司の状況によるところが大きいでしょう。
「上司としてご馳走することは当然」と思う上司もいらっしゃるでしょうし、そうでない方もいらっしゃるということを互いに認識し合うことが大切なことと存じます。

一方、部下側も「上司が『割り勘』なんてありえない」とか「支払ってもらって当たり前」という気持ちはもたないこと。 マナーは相手の立場にたつこと。部下の方も、いずれは上司の立場になります。マナーは“お互い様”の精神を持つことです。



上司・部下の間でも“割り勘”はOK。
とはいえ、おそらく支払いは上司が持つことが多いはず…そこで、「ここは支払うよ!」と言われた時に失礼にならないためのふるまい方についても聞いてみた。

西出氏:
はじめてご馳走になる場合は「よろしいのですか。ありがとうございます。ではお言葉に甘えて、ご馳走になります」とお礼を言うのが良いでしょう。

すでに何度かご一緒している、という場合は次のような様々なシチュエーションが考えられます。

(1)いつも支払ってもらっていて、今回もご馳走になる気でいる場合
「いつもご馳走になってばかりで恐縮です。今回もありがたくご馳走になります。ありがとうございます」 といって、支払いを任せましょう。
その間、ただ待っているだけではなく、 上司が預けている荷物などがあれば、それを取りに行き準備していたり、忘れ物がないかなどの確認をするなど、上司のためにできることを考えておこなうと、気持ちばかりでもお返しをしている感が伝わり好印象になります。

お店を出たら、再度「ご馳走になり、ありがとうございました」「ご馳走さまでした。美味しかったです」などのお礼を伝えます。


(2)ご馳走になる気ではいるが、自分で払ってもいいと少しは思っている場合

「いつもご馳走になってばかりで恐縮です。今回も甘えてよろしいのでしょうか」と伺いましょう。そこで上司が「いいよ」と言えば、「ありがとうございます。では今回もお言葉に甘えてご馳走になります」とお礼を述べます。

一方、「お言葉に甘えてよろしいのでしょうか」と伺うと「じゃあ、払ってくれる?」と言う上司もいるかもしれません。そういう時は「もちろんです!」と支払う意思を見せましょう。しかしながら、大抵の上司は、コミュニケーションの一環としての切り返しでしょうから、「冗談だよ」と言って支払ってくれるケースが多いですね。


(3)いつも支払ってもらっているが、今回は自分で支払う意思がある場合
「いつもご馳走になってばかりで恐縮ですので、今回は、私が日頃の感謝をこめて、支払います」と明言します。それに対して上司がどのように反応するかに応じて、その後の対応が変わってきます。

上司が「いいよ、ここは支払うから」と言えば「いつもありがとうございます」と深く感謝を伝えましょう。ここで、「いや、私が払います」と言うと、その場がスムーズに進みません。マナーは、その場をスムーズに進めていくものですから、上司からの厚意の言葉に対し、一度、自分で支払いの意思を伝えたら、あとは上司の意向に従うのがスマートです。


しかし、上司の立場としては、部下にご馳走をすることを喜びに感じる方もいらっしゃるでしょうし、当然と考える方などさまざまです。そういう上司の場合は、例えば、会社の規則に反しないのであれば、 帰省後に気持ちばかりのお土産をお渡しするなどでご馳走になったお返しとすることも良いでしょう。

上司のタイプによっては、物でのお返しではなく、モチベーションをアップさせ、日頃の仕事をしっかりとやってくれたり、仕事関係者と互いに良いコミュニケーションを取り合い、職場を明るく盛り上げてくれたりすることが、何よりのお返しと思う方もいらっしゃいます。

いつも支払ってもらっている場合は、お店を出たあとに、軽くもう一杯飲みに行ったり、お茶をしたり、ラーメンを食べたり…また、別日のランチのときなどに「ごちそうになったお礼です」といって、無理のない範囲で部下が負担をするのもアリですね。


また、どの場合においても「私も支払います」と言ってお財布を出し、支払いの意思を見せることは悪くはありませんが、それを人前で行うのはスマートではありません。特に、人前では上司に華を持たせることもマナーのひとつです。

西出氏:
・支払ってもらって、お礼を言わないこと
・ご馳走してもらうことが当然という表情や態度をとること
・お店の人の前で、「私が払います」「いや、私が」と押し問答になり、なかなかお会計に進まないこと これは他のお客様へのご迷惑ともなります。

などがあるでしょう。

“奢り・奢られ”が難しい…他社の人との飲み会

社内の飲み会なら、自然と「奢り、奢られ…」の関係ができることもあるはず。
けれどそうはいかないのが、他社の人との飲み会!

もちろん接待など、はっきりと「おもてなしする側」がわかっている場面もあるが…
もっとカジュアルな場では、ついつい毎回譲り合ってしまう、と言っても割り勘にもしにくいような…そんな雰囲気になりがち。
せっかくの親睦の場をお会計でモヤモヤさせないためには…

西出氏:
基本的には、お仕事を依頼した側・飲み会にお誘いをした側が負担するケースが多いです。毎回、支払い時にお互いが「自社にて負担する」と言い合うようであればスマートではありませんね。そこで「割り勘でおこなう」とか、「こちらが負担します」などということを最初に伝えたり、決めておくとスムーズです。

一般的には、このようなことでその場でもめることは恥ずかしいことです。人数などにもよると思いますが、あらかじめ、自社にて先方の飲食代の負担が可能となるかどうか、会社の了承を得ておきましょう。

会社のコンプライアンス的にOKなのであれば、相手が「支払います」と言えば「では今回はお言葉に甘えてご馳走になります」でも良いですし「お気持ちは大変ありがたいのですが、会社からの指導方針がございまして…割り勘ということでお願い申し上げます」などの対応で、きっぱり割り勘にする、ということを伝えれば何も問題にはなりませんね。

逆に、「会社から、今回の飲食代は弊社にておこなうように言われておりますので」といって、会社からの指示で自社が負担をする、ということを伝えることも可能ですね。



他社との食事の場では、上司・部下といった“上下関係”がはっきりしない分、ついつい譲り合いをしがち。
基本的にはビジネスの場で仕事を依頼した側や飲み会に誘った側が負担するパターンが多いそうだが、会計前に「支払いはどのようにするか?」を決めてもOKだ。

ここで気になるのは、相手から「支払いますよ」と言ってもらっても、すぐに「ごちそうさまです!」と受け入れるのは、やっぱり印象が良くないのでは?ということ。


西出氏:
自分が飲み会にお誘いした側であれば「それは恐縮です。こちらからお誘いしたお話ですから、こちらにて負担いたします」と一度はお伝えし、それでも相手が支払うと言えば「ご負担をおかけすることとなり、かえって申し訳ございません。では今回はお言葉に甘えまして、ご馳走になります」と言うのがいいでしょう。
こちらが誘われた場合は「ご馳走になってよろしいのですか?」と一度、確認をします。そして、相手が良いと言えば「それでは、お言葉に甘えて、ご馳走になります。ありがとうございます」と言うとスマートです。


ありがたい申し出にも、一度はきちんと確認を。
その上で、何度も「いえいえ、やはりこちらがお支払いを…」「いえいえ…」と“譲り合い”を続けるのは、かえって失礼にあたってしまうので注意だ。


西出氏:
日本人は、譲り合いが美徳という文化がありますが、それも度を過ぎると醜くなります。
特に、海外の方から見ると、それは譲り合いというのではなく、ある意味「自分の主張を押し付けている光景」に映ることもあるようです。
良かれと思っておこなう「いや私が」「いや、こちらが…」というやりとりも、一方では、おかしな光景に映っていますので、状況に応じて、臨機応変にスマートな対応が、特に公共の場では求められます。

大切なことは、いずれも、ご馳走になったら、何らかの形でお返しをしようと思うその“気持ち”“心”です。

今回の“もやもやマナー”、奢り奢られは感謝の気持ちを持って。
モメないスマート会計は大切だけど、ちょっとスピーディすぎたみたいです、キャトウさん。

(漫画:さいとうひさし)

参考:『かつてない結果を導く超「接待」術』(西出ひろ子 著/青春出版社)

参考:『かつてない結果を導く超「接待」術』(西出ひろ子 著/青春出版社)
プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。