「破滅的」「ショッキング」だった聴聞会

「破滅的だった」(NBCニュースのキャスター チャック・トッド氏)

「民主党は期待していたものを何も得られなかった」(CNNキャスター ドン・レモン氏)

「ショッキングだ」(MSNBCキャスター ジョー・スカボロー氏)

24日(現地時間)米議会下院で行われたロバート・ムラー元特別検察官に対する聴聞を受けて、反トランプで知られるテレビのニュースキャスター達が口にした感想だ。

トランプ大統領のいわゆる「ロシア疑惑」を捜査していたムラー氏は今年3月、最終報告書を司法長官に提出。さらに5月には記者会見を行ってトランプ政権とロシア政府との共謀の事実はなく、また大統領の司法妨害も訴追できないと明言していた。しかし議会民主党は満足せずムラー氏を召喚して聴聞をおこなったものだった。

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聴聞は7時間半にも及んだが、ムラー氏は民主党が期待したトランプ大統領をめぐる新しい疑惑は何も口にしなかった。それでも民主党側はムラー氏の言質をとるべく捜査結果の確認を求める質問を繰り返したが、ムラー氏は「それは報告書をご参照ください」と挑発に乗らなかった。

ただ一回、午前中の質疑でテッド・リュウ議員(民主党・カリフォルニア)がムラー氏を失言させるのに成功しかけた場面があった。いわゆる大統領の司法妨害についてこう質問したのだ。

「貴方が大統領を訴追しなかったのは、現職の大統領は訴追できないという司法省法律顧問局(OLC)の意見に従ったからですね?」
「その通りです」

これで、トランプ大統領は訴追に相当する疑惑があるのに司法省の意見でできなかったということになり、米国のマスコミは「大統領退任後には訴追も」と鬼の首を取ったかのように報じ、日本のマスコミも25日の夕刊やテレビニュースで同様に報じた。

ムラー氏の真意を伝えない日本のマスコミ

ところが、昼休みを挟んで午後の聴聞の冒頭でムラー氏は発言を求めてこう言ったのだ。

「一点、午前中の私の発言を訂正させてください。『OLCの意見で現職大統領を訴追しなかったのか』というリュウ議員の質問は正しくはありません。我々の報告書で述べたように、また私が冒頭の意見表明で申し上げたように、我々は大統領が犯罪を犯したかどうか結論に達しなかったのです」

これで民主党側の思惑は水泡に帰した形になり、冒頭のような反トランプ派のマスコミの失望を買うことになったのだ。

それはそれで米国内のマスコミの事情と考えれば良いのだが、問題はトランプ大統領が退任後も訴追される危険を抱えていると報じたままの日本のマスコミだ。25日の報道は訂正はせずとも続報という形でムラー氏の真意を伝えるべきだったと思う。

米政界は9月から大統領選が本格化する。トランプ大統領と民主党の間ではこうした攻防がさらに激化すると考えられるが、米国の反トランプのマスコミ報道に引きづられずに、ことの真相を追ってゆかないと大統領選の行方を見失うことにもなりかねない。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【イラスト:さいとうひさし】

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木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。