ダンフォード統参議長は「イランとイエメン沖の海上交通路の航行の安全と自由を守るため、多国間の有志連合の結成」を計画していると発言。7月25日ポンペオ国務長官は「海洋安全保障構想の立案初期段階にあり、米国のほか世界中の国が参加する」と述べ、「英国、フランス、ドイツ、ノルウェー、日本、韓国、オーストラリア」に要請した旨インタビューに答えた。

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しかしこの中東地域には、既に「有志連合」が存在している。一体どのような関係になるのだろうか。

9.11直後、米側から示された「有志連合」

2001年9月、在米日本大使館防衛班長だった筆者は、米国防総省担当者から「24名の犠牲者を出された日本は、このテロと主体的にどう取り組まれるのか。」と問われた。それ以降頻出した単語が「coalition」だ。「各国の国内法や武器使用基準に基づき、それぞれ可能な貢献を主体的に行う枠組み」だという。だからその後「有志連合」という日本語訳があてられた。それ以前の湾岸戦争など、米軍指揮下に他国が従う「多国籍軍」とは別概念なのだ。

結果、中東にはCMF(有志連合海上作戦部隊)が今も存在し、その隷下に次の任務群がある。各群司令官は参加国の持ち回りで米国軍人ではない。

1:CTF150(第150合同任務群):紅海、アデン湾、インド洋での海上保安作戦及びテロ対策

2:CTF151(第151合同任務群):主としてアデン湾での海賊対策

3:CTF152(第152合同任務群):ペルシャ湾とホルムズ海峡の海上警備

日本は既に「有志連合」に参加している

2001年11月「テロ特措法」に基づき、海自補給艦がインド洋で給油をした相手はCTF150参加国だ。現在はCTF151に護衛艦とP3C哨戒機が海賊対処のため参加している。

日本船舶協会からの要請を受け、2009年3月から自衛隊法第82条「海上警備行動」に基づき、護衛艦を派遣し「日本関連商船」の護衛を開始。同年6月「日本経済への影響、国連海洋法条約の趣旨」を根拠とし、「海賊対処法」が成立。世界中の商船も護衛対象となり、P3C哨戒機も派遣できるようになった。

このように、当初日本は「独自派遣」の枠組みで参加し、CMFがアデン湾に定めたIRTC(国際推薦航路帯)の東西を往復する商船を「直接護衛」してきた。

2013年派遣の第17次隊からはCTF151に所属し、「直接護衛」から分割されたエリア内をパトロールする「ゾーンディフェンス」に変更した。これには調整が必要なことから、CTF151司令部に海自連絡官を派遣。2015年からは、CT151司令官ポストに海将補が初めて就任し、その後も2名拝命している。

2017年9月からは、アデン湾西側のバブ・エル・マンデブ海峡で海賊行為が発生したことから、CMFはIRTCを西北側に延長し、名称もMSTC(海上警備航路帯)に変更した。

今回の米側提案はどのような形になるのか?

ホルムズ海峡
ホルムズ海峡

ではこれら既存の「有志連合」との関係を整理してみよう。

ダンフォード発言によれば、「ホルムズ海峡とバブ・エル・マンデブ海峡」において「指揮・統制をする米艦の周辺海域のパトロール」と「各国商船の護衛」だという。これは、現在「ペルシャ湾とホルムズ海峡の海上警備」をしているCTF152を増強し、新たに「商船護衛」任務を付与するイメージだ。海賊対処用のパブ・エル・マンデル海峡まで延長したMSTCも、ホルムズ海峡側に延長するのだろう。

現在CTF152は「サウジアラビア・バーレーン・ヨルダン・カタール・クウェート・アラブ首長国連邦・英国・米国で構成。イタリア・オーストラリアも時々参加」とされている。先のポンペオ発言から「英国・オーストラリア」を除く、日本を含めた5カ国が新たに参加要請されたことになる。

CTF152への自衛隊派遣の根拠は?

「国際平和支援法」では国連決議が必要だが、イランに対する決議はない。「海賊対処法」は、対象が「海賊行為」という犯罪者に限定されている。 「海上警備行動」で「日本関係船舶の護衛」は可能だが、犯罪者に対する「危害許容要件」が「正当防衛と緊急避難」の場合に限られている。「海賊対処法」で初めて「近接阻止射撃」が可能になったが、テロリストに対するためには、これは絶対に必要だ。

イスラム革命防衛隊が外国のタンカーを拿捕
イスラム革命防衛隊が外国のタンカーを拿捕

またホルムズ海峡で、商船に航路妨害した「イスラム革命防衛隊」は、正規軍ではないが国家に属する軍事組織だ。「武器等防護」などについてしっかりと詰める必要がある。しかし以上の法的制約は、検討を重ねれば何とか解決するだろう。

運用に関しても、例えば海賊対処中の護衛艦に任務を追加する方法がある。またジブチに所在するP3Cを使用し、空からの情報収集・配布も「有志連合」への十分な貢献になる。防衛省としてはCTF152への参加は可能なのだろう。あとは政治・外交上、日本にとってどちらも重要な米国とイランを、どのように扱うのかだ。

現時点で同海域は平時だ。イランに対する国連制裁決議もない中、米国といえども武力行使できる正当性はない。日本政府としては「商船乗員の安全」「資源の安定的確保」について、国家として主体的にどうするかが問われているのだ。

【執筆:金沢工業大学虎ノ門大学院教授・元海将 伊藤俊幸

伊藤俊幸
伊藤俊幸

海上自衛官の道に進んだのは防衛大学校で先輩の言葉に感銘を受けたため。海上幕僚監部広報室長時代に、「亡国のイージス」といった映画に協力して海自隊PRにも努めた。

防衛大学校機械工学科卒業、筑波大学大学院修士課程(地域研究)修了。海上自衛隊で潜水艦乗りとなる。潜水艦はやしお艦長、在米国日本国大使館防衛駐在官、第2潜水隊司令、海上幕僚監部広報室長、海上幕僚監部情報課長、情報本部情報官、海上幕僚監部指揮通信情報部長、海上自衛隊第2術科学校長、統合幕僚学校長、海上自衛隊呉地方総監を経て、2016年より現職。