徳川家康は人間関係を“見える化”…歴史に名を残した武将たちからビジネスの世界でも学べること

カテゴリ:ビジネス

  • メディアのない時代、家康や北政所のPR術とは…?
  • フランスにコントロールされる?「日本酒」の危機
  • 「ひこにゃん」には“郷土史”を生かす戦略があった

「ひこにゃん」「今年の漢字」「うどん県」。

一大ブームを巻き起こしたこれらのブーム。その仕掛け人は、PRプロデューサーで一般社団法人地域PR機構の代表理事、同志社大学大学院MBAプログラム「地域ブランド戦略」教員を務め、『すごすぎる!武将たちのPR戦略』(ワニブックス「PLUS」新書)の著者でもある殿村美樹さん。

なぜ、武将たちが名を残すことができたのか、それを知ることが、これからの時代、自分たちが生き残ることができるのかにもつながっていく。

徳川家康は人間関係を「見える化」

今回の著書『すごすぎる!武将たちのPR戦略』は、メディアのない時代のPR術について取り上げられているが、歴史上の人物たちはそんな時代にどのようなPR術を使っていたのか。

歴史的に有名な関ヶ原の戦いを例に挙げると、徳川家康は“誰を突っつけば味方になるか”と、自分を取り巻く人間関係を徹底的に分析して「見える化」したことで、対する石田三成陣営の中で不満を抱いている人物に焦点を当てて寝返らせ、見事勝利した。

現代に置き換えると、会社の役員たちの前でプレゼンをする場合、全員を納得させようとしてしまうが、 “誰を突っつけば味方になるか”を見抜き、その人に向けてアピールすると通りやすくなるという。

家康のこの例えから見えるのは、PRは自分の味方を見つけ出してコミュニケーションを図り、未来に向けたネットワーク築くこと。PRは、商品などの購買につなげるだけのものではないということだ。

もう一つ、豊臣秀吉の妻である北政所を、殿村さんは「ロビィ活動の達人」だと考えている。ロビィ活動とは、権力者へのPR活動で、権力を持たない者が知略を尽くして自分のプランを実現していくもの。

北政所は、当時、農民から大出世して脅威ともなり得る存在の秀吉を守るために、ロビィストとして時の権力者である織田信長に対し、「夫の女癖が悪い」などと言い、脅威ではないというイメージを植え付けたことなどにも触れている。

ロビィ活動は、未来へのプランがないと成り立たないものでもあるため、北政所はブランディング戦略も心得ていたと殿村さんは分析する。

グローバルなPR戦略で築いた「観光都市・京都」

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PRで発展した事例として、もう一つあげられるのが京都。

京都は明治維新直後から世界を視野にグローバルなPR活動を半世紀も続け、地道な努力で「観光都市・京都」の地位を築いてきた。

明治維新を機に、日本の中心でなくなった京都は、その時から博覧会などを行い、海外の要人や観光客を呼び込んで、京都をPRし続けたことが現代でも、海外から注目される場所になっていることに結びついていると、殿村さんは考えている。

一方、海外からも注目される「日本酒」に対しては、危惧していることがあるという。

フランスはパリで世界各地のSAKEの品評会を開催しているが、そこで高評価を得たと喜ぶ蔵元が多いといい、評価を得ることは素晴らしいが「PRのプロとして危機的状況に映る」という。

「フランスと言えばワイン」というように、フランスは世界各地からモノが集まるプラットフォームを用意して、さまざまな価値をコントロールし、自国のブランディングにつなげることが上手な国。そもそも、ワインは元をたどれば、東ヨーロッパに位置するジョージアがオリジナルの産地だ。

こうしたことから、日本酒もフランス人の価値にコントロールされかねないと指摘。「日本発祥だということを世界に伝えないといけない」と話し、ブランディング戦略の見直しや日本酒の目指す未来とは何かと殿村さんは書籍の中で問いかけている。

“アメリカ式PR”はなじまない

それでは、日本はどうすればいいのか。上手く、PRする方法はあるのか。

そもそものPRは「共存共栄のためのウィンウィンのコミュニケーション技術」だと殿村さんは言う。さまざまな人種が集い、文化や価値観も異なるアメリカ発祥のPR(パブリックリレーション)は、同じ国の中で生きていくために、自分を知ってもらうことが重要だった。

今、日本ではアメリカ式のPRが用いられているが、その手法が合わないとも言う。

「アメリカは狩猟民族で、日本は農耕民族、そもそも国民性が違います。島国の日本は、同じような人種が同じような環境で生きてきて、誰かに自分を知ってもらうことが重要ではなかったので、“知ってもらう”ためのアメリカ式PRは日本になじまないのです」

だからこそ、日本では「郷土史」を生かすことがPRしたいときの大事な戦略だと殿村さんは言う。

殿村さんが手掛け、ムーブメントを起こした「ひこにゃん」。2007年に築城400年を迎えた彦根城のイベントの集客を目的に仕掛けられたものだが、「彦根城は、井伊直弼の居城で、思い浮かべるのは安政の大獄とか桜田門外の変とか、少しきな臭い香りがしますがひこにゃんにより、彦根の色が変わりました」

そして、ひこにゃんにも郷土史の要素を入れている。彦根は井伊家の居城であるため、「赤備え」に由来するかぶとをかぶらせた。そして、白猫である意味は、彦根藩の第二代藩主・井伊直孝が白猫に救われたという逸話を元にした。

歴史は、地元の人たちにとって、誇りであり、プライド。それを生かして、PRにつなげることで、地域の人々に自信が生まれ、大切にしようと未来へとつなげる努力をしていくという。

移り変わりの激しい時代、自分たちの居場所を見つけることが生き残る道につながっていく。その道の見つけ方は、やはり歴史にある。先人たちはどのような戦略で名を残し、自分たちが住む土地はどう今のポジションを築いていったのか、その答えは歴史の中に隠されている。

グローバルだと視野を広げて、さまざまなものを取り入れるのではなく、一度立ち止まり、日本という国や自分の暮らす場所を見直すことが大切なのかもしれない。

『すごすぎる!武将たちのPR戦略』(ワニブックス「PLUS」新書)

殿村美樹
「ひこにゃん」や「今年の漢字」などの一大ムーブメントを巻き起こした国民的ブームの仕掛け人。PRプロデューサーで、株式会社TMオフィスの代表取締役、一般社団法人地方PR機構の代表理事や同志社大学大学院MBAプログラム「地域ブランド戦略」の教員などを務める。『ブームをつくる 人がみずから動く仕組み』(集英社新書)などの著書がある