オリンピック・パラリンピック史上初のプロジェクト
「こんなことを考えるのはやっぱり技術国ニッポンだなと」
大会組織委員会の森喜朗会長は胸を張った。
使用済みの携帯電話や小型家電から抽出する「リサイクル金属」で約5000個のメダルを作ろうという「みんなのメダルプロジェクト」。
オリンピック・パラリンピック史上初のプロジェクトだ。
5000個作るのに必要なのは金32kg、銀3500kg、銅2200kg。2017年4月からの2年間で必要な量に到達した。
全国のドコモショップや役所などに設置された回収ボックスに携帯電話などを提供した方も多いかもしれない。
回収されたのは…
自治体回収 約7万8985トン(携帯電話+小型家電)
NTTドコモ回収 約621万台(携帯電話)
これだけの量の携帯電話や小型家電から「リサイクル金属」はどうやって精錬されるのか?九州にある大規模工場に行ってみた。
アジア最大規模の銅のリサイクル拠点
この記事の画像(12枚)大分市の佐賀関にあるJX金属 佐賀関製錬所。
高級ブランド「関さば」が水揚げされる佐賀関の海沿いの広大な敷地にいくつもの巨大工場を構えている。年間45万トンの粗銅生産量は国内1位で、銅をリサイクルする拠点としてはアジア最大規模だ。
24時間眠らない巨大炉はまるで“動く城”
工場には全国から携帯電話や小型家電の基板が運ばれてくる。基板は裁断されて工場の敷地内に山積みに。
裁断された基板は巨大な溶解炉(転炉)に投入され実に6時間かけて溶かされる。酸素と空気で原料中の硫黄と鉄を取り除くと共にスクラップのクズを溶かし、純度99%の粗銅を作る。
それにしてもこの巨大な炉の大きさには圧倒された。基板が投入されるタイミングで大きく口を開け、火の粉をあげながら基板を飲み込む姿は何か生き物のようにも、あのジブリ作品の“動く城”のようにも見えた。しかも24時間休まずに稼働し続ける。
銅がドロドロの液状に
ドロドロに溶かされ液体状になった銅はさらに純度をあげるために別の炉(精製炉)に移される。
鉄製の“巨大鍋”がクレーンで運ばれ、オレンジ色に光る液体が流し込まれる様は美しくさえ感じる。
“巨大卵焼き器”に流し込まれ…
こうして溶かされ純度を99.3%まで上げた銅は、さながら巨大な玉子焼き機のような型枠に流し込まれる。1200℃の銅は板状になると「ジュワッ」と大きな音をたてながら水で冷やされていく。
その後、硫酸銅溶液という液が満たされた巨大プールに入れられ電気分解によって純度99.99%の銅が完成する。
「銅は銅線や10円玉、電子部品に使われているがなかなか表に出てこない。(都市鉱山から精錬された)銅が銅メダルとして皆さんの前に出るというは、私たち技術屋としても非常に思いが高まります」 (鈴木義昭所長)
亡き弟の思いをメダルに…
「オリンピックに参加しているような気分になれればいいかと思って」
「自分の応援する選手たちのメダルになれば嬉しい」
2019年1月、都庁の回収ボックスには多くの人が訪れていた。
携帯電話とタブレットを提供しに訪れた伊藤信行さん(81)。携帯電話は弟が使っていたものだという。
「弟の携帯電話なんですけど、去年(2018年)末に永眠したんです。『オリンピックまで生きたい』と言っていたんですけど…」
警視庁の警察官だったという弟の和夫さん。後輩に有力選手がいる剣道を見たいと話していたという。
「(本人も)剣道が強くてね。オリンピックを見たいと言っていた。残念ですね。弟の遺志が少しでもメダルに役に立てばと思って。私も携帯を寄付したことで弟の思いが多少は届けられたような気がします」
さまざまな“思い”が込められ
メダルデザイナー、選考したメダリスト、再生金属を精錬する工場で働くスタッフ、造幣局の職人、携帯・小型家電を提供した人たち、すべての過程を支える組織委員会のスタッフ。
そしてメダルを目指すアスリートたち。
さまざまな人の思いが込めれたオリンピック・パラリンピックのメダル――
アスリートの胸に輝くまであと1年だ。
(東京オリンピック・パラリンピック担当 一之瀬 登)
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