あまりに夢中になり“ヤグラー”に

松本市の設計事務所に勤務する平林勇一さん(65)。一級建築士として働く傍ら、ある趣味に没頭している。

平林勇一さん;
まっすぐなんだよね。本当はこういうふうに曲がってるといいんだけど…。

昼休みには部下をつかまえて、その趣味の自慢話。

平林さん;
どうしても話したくなりますよね。珍しいものを見つけたりすると、どうだって。

同じ事務所に勤務する男性;
夢中になるものですから、時々、食事をする時間があやうくなります(笑)。

この記事の画像(9枚)

平林さんを夢中にさせているのは…「火の見やぐら」。
パソコンに保存してある写真はなんと1万枚以上。自らを、こう名乗っている。

平林さん;
“火の見ヤグラー”っていうんです。アムラーとかマヨラー、シャネラーってありますよね。それぞれ、それが好きっていう意味だと思うんで。

“火の見ヤグラー”になるきっかけ。
それは9年前、大町市の飲食店で食事が出てくるのを待っていた時の出来事だった。

平林さん;
外の景色を何気なくみていた、そしたら火の見やぐらが建っていて、みょうに存在感があった。外に出てみたら、なんと木造の火の見やぐらだった。

木造の火の見やぐらと出会った平林さん。その存在感に引き込まれ以来、月に1,2回、県内外を探索するように…。
同時に魅力を分かち合いたいと、ブログで発信するようになった。
これまでに掲載した「火の見やぐら」は1200基以上にのぼる。
とんがった屋根がかわいらしいものに…
赤茶けた「サビ」が味わい深いもの…

こちらは軽トラックが下をくぐっている。名づけて「道路またぎ」。

平林さん;
人も十人十色、火の見やぐらも十基十色でみんな違う。見る時間帯や天候、季節によっても違った表情になる。見飽きることはない。

平林さんには、お気に入りの写真がある。

平林さん;
朝焼けの状態なんですよね。一晩、地域を見守り続けて、何もなく無事、朝をむかえたという火の見やぐらの気持ちになってみれば安堵感、そういうのが感じられる。

「火の見やぐらツアー」へ!

平林さん;
おはようございます。

この日、平林さんに現存する「火の見やぐら」を幾つか案内してもらった。
まずは長野市の善光寺門前へ…。

平林さん;
参拝に来る方は気づかないと思う。ここに火の見やぐらが建っている。

仁王門の脇に聳え立つ「火の見やぐら」。その存在に気づく人は多くないかもしれない。

平林さん;
まず全体を見て屋根、見張り台、踊り場を必ず観察する。

平林さんは、メジャーで柱などの寸法をはかり、特徴などをメモ。そして、さまざまなアングルで撮影。
一方、こちらの火の見やぐらで着目したのはある「装置」。

平林さん;
普通ははしごを消防団員が登っていって、見張り台までいって直接、木槌をもって叩くんですけど、この火の見やぐらはそうじゃない。そこに箱があって、ワイヤーがのびているじゃないですか。箱の中にフックがあって、フックを引っ張ると、ワイヤーが引っ張られるので、それで上の半鐘を叩く装置が動いて、地上で半鐘をたたける装置。

はしごをのぼらなくても地上で操作できる「半鐘叩き装置」という訳だ。

平林さん;
この梯子を上り下りするのはこわいですよね。本当は上にのぼってもらって叩いてもらうのが本来の姿だと思うが、それは当事者にしてみれば大変。

ところかわって、こちらは諏訪郡原村にも珍しい「火の見やぐら」があった。

平林さん;
これですね。かなり背の高い火の見やぐらですね。

一見、オーソドックスな形に見えるが…。

平林さん;
あれ、見ていただくと完全に屋根に突き刺さっているじゃないですか。ここを見て欲しいんですよね。屋根に突き刺さって、外壁から顔をだしている。

三本の脚は、外壁の外に。しかし、一本だけ見当たらず…。
何と、一本は、倉庫の中に。

平林さん;
私は、これを『貫通やぐら』とよんでいる。火の見やぐらが先にあって、その下になぜか倉庫をつくった。

最後に案内してもらったのが、平林さんお気に入りの一基。上伊那郡辰野町にある火の見やぐら。
その理由は、脚の形…。

平林さん;
末広がりにこうなっている。こういう形で思い浮かべるのが東京タワーですよね。具材を真っ直ぐではなくてわざわざ曲げているところ。そのカーブも絶妙できつくてもいけないし、なだらかなカーブでもいけなくて、まさにこのカーブしかない。

時の流れとともに解体されることも…

一基一基にそれぞれの歴史や個性がある火の見やぐら。
しかし、今は防災無線のスピーカーが普及し、さらに「スマホ」であらゆる情報が瞬時に手に入る時代。半鐘を叩く必要もなくなり、次第に解体されるケースも増えているという。

平林さん;
何年かすれば、なくなってしまうかもしれない、すごくさみしいなと。地元の人たちがお金を出し合って建てた火の見やぐら。地域の人たちが地域を愛する気持ちが込められているので、簡単に壊してしまっていいのかなという気持ちがある。

今はひっそりと佇む「火の見やぐら」。平林さんはその姿を後世に残そうと2年前から本の出版を計画してきた。

平林さん;
愛おしい火の見やぐらを、残したい、せめて本の形にしたいという思い。

タイトルは『火の見櫓はおもしろい』。表紙は平林さんのスケッチで、2019年秋の出版を目指している。
出版はあくまで節目。平林さんは生涯、“火の見ヤグラー”でいようと思っている。

平林さん;
将来的に運転免許証を返納しなければならなくなれば、今度はデスクワークとして、何か傾向が分析してわかれば、たとえば東信は細みが多いとか、地域性も浮かびあがってくるかもしれないんで、別の面で「火の見やぐら像」というのが、わかるかもしれない。それは老後、そろそろ老後ですが、そういう希望もある。

(長野放送)

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