車で4時間半かけて山間部に「往診」 患者の病いと人生を“診る”医師【長野発】

カテゴリ:国内

  • 遠距離を通い、長野の山間部で医療活動する医師
  • 限られた診察日に、1日で40人の患者を診る
  • 山間部医療の厳しい現実とやりがい

最後の「自己実現」のために

小高い山に囲まれた長野市鬼無里。唯一の診療所に、住民から慕われている医師がいる。

95歳女性:
先生のおかげです。

78歳女性:
先生に最後を看取ってもらう先生だといっちゃいましたけど…。

住民に「看取ってほしい」とまで慕われている、所長の金子重久さん(67)。
静岡県浜松市の出身だが「中山間地の医療に携わりたい」と、5年前 鬼無里へやってきた。

金子重久医師:
医者になった当時から、最後はこういうところに行ってみたいと。自分の医療欲求だよね。自己実現を最後にしたいという感じで。

医師になったのも「自己実現」。大学卒業後、高校の教師になったが、夢をあきらめきれず…。

金子重久医師:
医者になりたいというのをずっと思っていた。もうラストチャンスだなと思って、受験したのは20代の後半だった。

医学部に入り直し、念願だった医師になった。その後、地元・浜松市で開業し、消化器内科を中心に診療を続けてきた。
山間地の医療を支えたいと考えたのは、60歳を過ぎてからだ。

金子重久医師:
年老いたら自分もハードに動くことはできない。歳を重ねた医者が最後にやれることもあると思うよ、こういうところに。

浜松から長野へ300キロの往診

浜松市から遠く離れた鬼無里で、住民の健康を見守ってきた金子さん。
しかし、春から事情が変わった。 金子さんは、静岡県浜松市で診療していた。
実は自身の病院で医師の手当てが難しくなり、2019年4月から浜松に戻ることにしたのだ。

ところが、鬼無里でも後任の医師が見つからなかった。
そこで長野市民病院から医師を派遣してもらいつつ、金子さんは引き続き「所長」として、週2日だけではあるが、鬼無里でも診察を続けることにした。

金子重久医師:
市民病院が支援をしてくれるのはうれしいが、ちょっと足りないかなと。
人とのつながりでね、この人を見る人がいなくなっちゃうということもあるのかなと思ったり、だったら僕は鬼無里でもう少しできることがあるのではないかと。

午後6時前に浜松で診療を終えると、休む間もなく鬼無里へ出発だ。夫の決断に妻は…。

金子医師の妻:
みんなは反対したんだけど聞かないもんね…。お互いやりたいことをやりあうという感じで来ているので大丈夫。

鬼無里までの道のりは約300キロ。

金子重久医師:
厳しかった、5月の中旬までは…。今はちょっと慣れたみたいなところはあるからね。往診がだんだん楽になって落ち着けるかなと。

夕食はサービスエリアの駐車場で、妻の握ったおにぎりを頬張る。

金子重久医師:
妻に依存してしまっている。2018年までは自分のことは自分でやっていた。おいしい。作ってくれるとありがたいものだと思ってしまう。

鬼無里到着は夜11時過ぎ。4時間半のドライブだった。

金子重久医師:
無事に着いてまあホっとしましたよ。お疲れ様でした。

鬼無里での診療は火曜と水曜。これまで半日の診療だったが、週二日に減ったからと1日かけて40人ほどの患者を診る。
診察にやってきたのは92歳になる有澤夛喜代(92) さん。鬼無里に赴任してから長く診ている患者の一人。

金子重久医師:
今何つくってるんですか。

有澤夛喜代さん:
何ってこのごろ全部ジャガイモやられちゃって、サルに。

有澤夛喜代さん:
今ね、診療所しかないからなくちゃ困る。病気のことばっかりじゃなくて、何の話でも気安くやってくれて心配してもらっていい先生です。

金子重久医師:
次はどこに登るの?

横矢一尾さん:
次は乗鞍

横尾さんとは一緒に山に登る仲だ。

横矢一尾さん:
話も合うしさ、若干趣味もあうしさ、診療に支障のない限りはいろんな話をする。楽しいだ。

じっくり、患者と向き合う。それが山間地医療を支えるやりがいに繋がっている。

金子重久医師:
忙しい診療の中では得られなかった人間性というか。疾患を診るということだけではなく、よりその人の人生を見るということができる。
本当にその人に接することができる。

こうした金子医師の患者への接し方について看護師は...

看護師:
先生の患者さんに対する接し方で私たちも学ぶ、基本的な姿勢を先生が示してくれる。

金子重久医師:
世間話ができる外来をというのをよく言っている。違う話をすると、病気の話し以外をすると信頼感も増す。

午後は往診。診療所へ通えない患者の元へ向かう。

金子重久医師:
吉岡さん、こんにちは。

吉岡甲子郎さんは95歳になる。糖尿病を患い診療所に通っていたが、足腰が弱まり、往診を頼るようになった。

金子重久医師:
とりあえず痛み止めを2つふやすかな。

吉岡甲子郎さん:
増やすしかないね。

山間部医療の厳しい現実

高齢化と過疎化。金子さんは山間地が抱える厳しい現実も見つめてきた。

金子重久医師:
患者の数はどんどん少なくなるが、必要性のある限り、診療所の機能を果たし続けられるような体制を維持したいなと。

山間地の医療をどう維持するか…。長野市に限らず、医師確保は難しい課題だ。
様々な対策も取られているが、地域を支えることにやりがいを見出す、金子さんのような医師に頼らざるを得ないのが現状だ。

金子重久医師:
ひとつはこういうところだと、広く浅くいろいろな疾患をみなければいけない。そういうところに対する壁があるかも。
歳をとってくれば十分な動きがだんだんできなくなってくるので、ぜひ自分の病院を若いひとに譲って飛び込んできてくれる医者が増えてくれれば。自分はすごくいい経験をさせてもらって、オーバーに言うと別の人生を歩ませてもらった感じ。
僕としてはすごい満足。来てよかったとつくづく思う。

普段 遠く離れていても、今も住民に寄り添う医師。浜松から鬼無里へ。300キロの距離を通う金子さんの「往診」が続く。

(長野放送)

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