世界の政治家やセレブ・要人のツイートをモーリー流に翻訳・解説する「Twittin English」。今回は7月11日、CNNのツイート。



モーリー:

これは、いまアメリカのスポーツ界で話題になっているアメリカ女子サッカー代表のミーガン・ラピノー選手のスピーチです。

Megan Rapinoe: “Just shoutout to the teammates… We’re chillin’. We’ve got tea sippin’. We’ve got celebrations. We have pink hair and purple hair. We have tattoos and dreadlocks. We’ve got white girls and black girls, and everything in between. Straight girls and gay girls. Hey!”

私たちのチームには、ピンクや紫の髪、タトゥーをしている子、ドレッドヘアの子、白人、黒人、その他の人種、いろんな子がいます。ストレートの子、ゲイの子も…ね!

「chillin」と「sippin」で韻を踏んでいますが、そのまま翻訳するのは難しいですね。
「chillin」はヒップホップ用語で、「リラックスしている」というニュアンス。大麻を吸っている」という隠語でもあります。「tea sippin」は「お茶を飲む」という意味です。

ラピノー選手は、サッカー女子チームにさまざまなファッションや外見のメンバーがいることを訴え、最後に「Hey!」と締めて観衆を盛り上げました。

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「ホワイトハウスへは行かない」vs「優勝してから言え」

この発言に何か問題があるの?と疑問に思われるでしょう。順を追って説明します。

アメリカチームはサッカー女子W杯フランス大会で優勝し、7月10日にニューヨークで祝賀式典とパレードが行われました。その際のスピーチでラピノー選手から飛び出したこの発言は、日本のウェブメディアでも取り上げられ、注目を集めました。

ラピノー選手(34)は、レインFC所属のミッドフィルダー兼フォワード。2012年のロンドン五輪で金メダル、2015年のW杯カナダ大会で優勝、そして、今年のW杯フランス大会でも得点王に輝くなど、華々しい経歴の持ち主です。

また、ロンドン五輪の開幕直前には同性愛者であることを公言し、「物言うアスリート」として注目される存在でもあります。
そんなラピノー選手は、女性差別や移民差別、多様性を否定するような発言を繰り返しているトランプ大統領と真っ向から対立しているのです。

W杯フランス大会の直前には、雑誌のインタビューに対して「優勝しても“fucking White House”には行かない」と堂々と宣言しました。

それを受けたトランプ大統領は激怒し、6月26日にツイッターで反撃。そのツイートがこちら。

Women’s soccer player, @mPinoe, just stated that she is “not going to the F...ing White House if we win.” Other than the NBA, which now refuses to call owners, owners (please explain that I just got Criminal Justice Reform passed, Black unemployment is at the lowest level in our Country’s history, and the poverty index is also best number EVER),leagues and teams love coming to the White House. Iam a big fa of the American Team, and Women’s Soccer, but Megan should WIN first before she TALKS! Finish the job! We haven’t yet...

要約すると、「ちょっと待って。私の政権において、黒人たちの失業率は過去最も低い。生活レベルは向上し、アメリカは寛容ですばらしい国になっている。私はアメリカチームや女子サッカーの大ファンだが、人にものを言うなら、まずは試合に勝ってからにしてくれ」という内容です。そうしたら、本当に優勝してしまったんですね。

祝賀式典には、大統領選への出馬を表明しているニューヨーク市長のビル・デブラシオ氏も出席していて、ラピノー選手は彼に対しても「大統領選なんかに出るよりも、私たちのチームに入った方がいいわよ」なんて冗談を飛ばしていました。

賃金格差の是正から真の男女平等へ

以前から人種差別や多様性を否定するトランプ大統領と舌戦を繰り広げていたラピノー選手ですが、私は彼女が主張していた別の部分にこそ、ニュースの本質があると思います。

それは、アメリカのサッカー連盟が女子選手に支払うギャラが、男子に比べて圧倒的に低いこと。

過去のデータを見ると、例えばW杯で勝った場合、男子の賞金は総額430億円。一方の女子は総額32億円と、男子に比べて報酬額は10分の1以下です。
また、給与にも差があり、移動に利用するバスのランクも異なるなど、雇用条件が違いすぎるのです。さらに、サッカー連盟は女子チームのPR活動を真面目にやっていません。

「企業であるから、儲かる方にお金をかけるのは当然」と言いますが、最近の男子チームの成績は芳しくなく、W杯では予選で敗退しています。
これではただの男尊女卑です。
パフォーマンスに見合う賞金をというなら、女子選手にもっと支払うべきです。ラピノー選手も「Equal Pay」を主張し続けてきました。

ですから、トランプ大統領を攻撃する今回の発言の中でも、スポーツにおける男女格差をなくすことを主張しているのだと思います。

今回の発言を受けて、スポンサーのひとつであるシークレットデオドラントは、男女格差を解消すべく女子選手1人あたりに2500万円寄付することを表明し、全面広告をニューヨーク・タイムズに掲載しました。
「スポーツ精神とはこういうことだろう。これが私たちのなりたいアメリカの姿だろう」というメッセージを発信し、他のスポンサーに対しても「後を追うように」と訴えかけています。

ナイキもスポンサーですが、女性アスリートの処遇をめぐって、妊娠を理由にスポンサー料を減額するなどしていたことが、今年5月に女子選手らの訴えにより判明。批判を受けたナイキは、サポートを改善する意向を示しました。
このように、選手や世論のプレッシャーがスポンサーを動かし、物事が変化することがあるのです。

女子サッカー選手にとって一躍ヒーローとなったシークレットデオドラントですが、ブランドの親会社であるプロクター・アンド・ギャンブルについてメディアが調べたところ、イギリスの同社では、社員の平均収入に男女で差があり、女性社員は3割少ないことがわかりました。
これには、「スポーツ界への提言の前に、自社の社員への対応はどうなっているんだ?」と批判が噴出しています。

現在、良い意味での“対流”が起きています。
いい格好しいで、宣伝になるからと女子サッカー選手への寄付を表明したことを発端に、自社の問題を指摘する声が上がり、改善が必要だという動きが生まれる。このような場面で発揮されるのが、民間のパワーです。

今回の騒動からは、トランプさんが大統領のアメリカであっても、多様化を実現するチャンスはあると考えさせられました。

(BSスカパー「水曜日のニュース・ロバートソン」 7/17 OA モーリーの『Twittin English』より)

モーリー・ロバートソン
モーリー・ロバートソン

日米双方の教育を受けた後、1981年に東京大学とハーバード大学に現役合格。1988年ハーバード大学を卒業。タレント、ミュージシャンから国際ジャーナリストまで幅広く活躍中。