トラウマになりそう…

獅子舞と言えば赤い獅子の顔に白い毛、そして緑の獅子幕を思い浮かべる人が多いと思うが、沖縄で見た獅子舞がリアルで本物の生き物みたいと話題になっている。

それがこちら。

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4本の足でどっしりと構え、顔も怖くリアルさが追求されている。そして、何と言っても全身を覆うふさふさの毛が生き物感を際立たせていて、噛まれたらトラウマになりそうだ。後ろに写る人物から考えるとサイズも大きい。

どんな動きをするのか見てみると、体をブルブルして上下した後、大きく口を開け寝っ転がったり、自分の尻尾を追いかけたりしている。

おちゃめな様子を見せたかと思うと、猛スピードで回転して観客に近づき、顔を近くに寄せたりと怖い一面も見せる…



「沖縄の獅子舞、なんかふさふさしてるし生物感ヤバいしで子供トラウマになりそう。」
と投稿したのはサカン@世界の打楽器(@wyrm06)さん。

動画はサカン@世界の打楽器さんの奥さんが1年ほど前に沖縄のレストランで撮影したもので、「沖縄で生まれ育ったけど何億回見ても怖い、今でもめちゃくちゃ怖い」と話していたという。
Twitterでは、「小さい頃に頭丸かじりされてギャン泣きしました」や「この獅子舞生きてる!怖い!」などのコメントが寄せられ15万以上のいいねが寄せられている。(7月23日現在)

実は、これは沖縄県本島北部を拠点とし、沖縄の伝統芸能であるエイサー、獅子舞を、新たなスタイルでダイナミックにアレンジした舞台公演を繰り広げる芸能団体「レキオス」が演じたものだ。この獅子舞は2人で演じていて、沖縄で生まれ育った人でも怖いと思うほどのリアルさと迫力だという。

このリアルな獅子舞はどのように生まれたのか。創作芸団レキオスにお話を伺った。

獣をリアルに躍動感のある劇場型にアレンジ

提供:レキオス
提供:レキオス

ーー投稿された獅子舞はいつ、どのようにして生まれたのか?

もともと沖縄には民俗芸能に獅子舞がありました。旧暦の8/15日(十五夜)豊年の行事に村の邪気を払う地域の守り神、「獅子神(シーシーガナシー)」として奉納演舞されました。東南アジアを経て、毛むくじゃらの獅子が誕生しました。レキオスは創立21年ですが、レキオス代表の照屋忠敏が30年前ぐらいから地域の伝統芸能を舞台でブラッシュアップし、民俗芸能を劇場型にしました。

ーーこの獅子舞の名前は?

伝統芸能名は「獅子神(シーシーガナシー)」と言い、当団体ではレキオス大獅子(ウフジシ)と言います。


ーー生き物みたいにリアルにした理由は?

猫やライオンの動きを研究し、顔(表情)だけではなく、動き、筋肉、呼吸も表現しました。獣をリアルに躍動感のある劇場型にアレンジしています。


ーーこの獅子舞はどのような作りになっている?こだわりの部分は?

沖縄の頭はデイゴの木で彫られています。年間出演が多いため、デイゴから型取りしグラスファイバー・繊維強化プラスチックで補強します。重量は15キロ程で当団体の獅子は龍の表情をミックスしています。大獅子は5頭保持しています。

提供:レキオス
提供:レキオス

中の2人は全く会話なしで演舞

ーーふさふさの毛は何で出来ている?

胴体は芭蕉の繊維で出来ています。

ーーどういった踊りで何を表現している?

中での会話は全く無く、前と後ろの2人が呼吸を合わせ、リアルな獣の動き演舞します。また、邪気払いを想い演舞しています。


ーー沖縄ではこのようなリアルな獅子舞は伝統的な物なのか?

伝統獅子はリアルな動きは無く型が決まっています。地域の伝統獅子は地域の守り神として容易に舞台には出せません。

ーー獅子舞を通して何を伝えていきたい?

沖縄の歴史、先人たちが培った想いや重みを伝えていきたいです。


中にいる2人は全く会話なく、呼吸を合わせて躍動感のあるリアルな獣の動きをしているそうだが、サカン@世界の打楽器さんの奥さんによると、本州の獅子舞と違うふさふさした毛並みで、尚且つ2人で組む獅子舞は沖縄の伝統行事などでよく出てくるそうだが、「レキオス」の獅子舞パフォーマンスはそういった基本は抑えつつも、見世物としての技術レベルが別次元だということだった。


アフリカ・マラウイでも似たライオンが!?

そして、この投稿が話題になると、サカン@世界の打楽器さんのもとに遠い国から同じようなライオンがいるとの情報が寄せられた。



「私の住んでいるマラウイにも本当に似たライオンがいます。グレワンクールという伝統ダンスの時に出てくるライオンです。沖縄とマラウイ、遠く離れているのに面白いですね。。。!」

サカン@世界の打楽器さんの投稿にアフリカ・マラウイ在住のYukino Nagai(@chumyukino)さんが返信したものだが、今年1月にアフリカのマラウイの首都から南東に2時間ほど行ったマタピラという村周辺で撮影したもので、赤い顔と黒い顔の全身毛に覆われたライオンが音楽に合わせ、体を上下に揺らしている。

確かにふさふさ感は似ていて、遠く離れた場所で同じような文化があるとしたら興味深い。
マラウイ在住のYukino Nagai(@chumyukino)さんに聞いてみた。

異界や死に関わる象徴

ーーライオンは何というものでどういう意味合いがあるのか?

このライオンは、mkango(ムカンゴ )(チェワ語でライオンという意味)と呼ばれ、gule wamkulu(グレワンクール)(直訳するとビッグダンス)という伝統ダンスの際に現れるものです。ライオンの他にも、ゾウが出てくることもあるらしいです。
なぜライオンかと村人に聞いたら、「大きな動物だからだ」と答えていました。特に、聖なる動物だというイメージは無いそうです。

グレワンクールはUNESCOの無形文化遺産にも指定されている秘密結社による伝統ダンスです。お葬式や村のチーフの就任式、イニシエーションの儀式の際に踊られます。グレワンクールについては多くの秘密があり、グレワンクールのメンバー(ダンサー)になるためにはチーフにお金を払い、メンバーからグレワンクールの秘密を教えてもらったり、様々な段階を経てメンバーになるそうです。

ダンサーは奇抜な衣装を着て、仮面を被って踊ります異界の象徴であったり、死に関わる象徴であることが多く、ダンスはエネルギーに満ち溢れている一方で観客に畏怖をも与えます。ダンスが終わったあとは、ダンサーは村人を追いかけまわしお金を要求したり、怖がらせたりします。

ダンサーのことは、マタピラ地域ではグレと呼ぶことが多いです。ニャウという呼び名もありますが、マタピラ地域ではニャウは夜にだけ出る特別なグレのことを特に言うそうです。また、特別背の高いグレのことをmakanja(マカンジャ)、バナナの皮の衣装を着たグレのことをKwakwase(クヮクヮセ)と呼びます。マタピラ地域では、グレワンクールがあるとなると、地域の多くの人が1時間ほど離れた場所でも歩いて見にくるほど、人気の伝統ダンスです。子供達も、よくグレワンクールの真似をして踊っています。

ーー沖縄の獅子舞と関係があるのか?

沖縄の獅子舞と関係があるかと言われたら、「直接的な文化交流があったから似ている」とは思えません。しかし、やはり異界と関わる象徴としてライオンや獅子が出てくることに、なにか人間の普遍的な部分で通ずるものはあるのではないでしょうか。たとえば、様々な地域において異界と関わる存在の象徴は、よく仮面を被っています。そのような普遍性においては、「関係がある」とも言えるのではないでしょうか。


取材では直接的なつながりはわからなかったが、今回のように沖縄のリアルな獅子舞のツイートが、似たようなマラウイのライオンの情報に距離をこえてつながることはSNS時代らしくて面白い。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。