“乗っ取り”でSNSをロック!

今や我々の生活に欠かせないパソコンやスマートフォンなど、身の周りにあふれるIT機器だが、便利な一方で、それらを手放せないという“依存症”は社会問題にもなりつつある。

ネットサーフィンがやめられなかったり、SNSで思わぬ攻撃に巻き込まれてイライラしてしまったりと、楽しむためのものなのに逆に疲れてしまった経験をしたことがある人も多いのではないか。

そんなIT機器から一定期間離れる取り組みが「デジタルデトックス」といわれているが、改めてなぜスマホを手放せないのか…と考えると「TwitterやインスタグラムなどのSNSが気になってしまうから」という人も多いはず。
以前、“スマホ依存症”を物理的に防止する「檻のような鍵付きスマホケース」を編集部でもご紹介したが、電話やメールの機能は普段通りに使いたい…という人もいるだろう。

そんな悩みに応えられるかもしれない、画期的な“SNSデトックス”サービスが登場した。
それが、その名も「株式会社デジタルデトックス」が提供する「COINLOCKER(コインロッカー)」だ。

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この「コインロッカー」、名前だけを聞くと「スマホを鍵付きケースに入れるのと同じ?」とも思えるが…実は、スマホ自体には触れることができても「SNSのアカウントにログインできなくなる」というもの。

通常、SNSのログインにはIDとパスワードが必要だが、「コインロッカー」はこのうち、パスワードをランダムで変更し、IDの所有者でもログインできなくさせる、いわば「アカウント乗っ取り」サービスなのだ。

使い方はまず、WEB上から「コインロッカー」にアクセスし、ロックしたいSNSのアカウントの情報を入力する。
その後、アカウントをロックしたい期間を指定するだけだ。

“アカウント乗っ取り”の期間は、無料版では最低24時間、月額500円の有料版では最低1時間から利用できる。
設定した時間が過ぎれば「アンロック」というボタンが押せるようになり、メールで送られてくるパスワードを使用すれば自分のアカウントを取り戻すことができる。

“乗っ取り”期間は15分刻みで指定できるため、たとえば「勉強中の短時間だけ…」といった使い方から「月末まで絶対に見ない!」という厳しめのデトックスも実行できる。

「SNS疲れ」という言葉も登場している中、このサービスを開発したきっかけなどについて、株式会社デジタルデトックスの花房孟胤代表取締役にお話を伺った。

「娯楽と仕事が物理的に隣り合わせ」という厄介さ

――このサービスを開発したきっかけは?

友人から「受験生時代には自習室に行く前にケータイをコインロッカーに入れていった」というエピソードを聞いて、SNSアカウントをコインロッカーに入れるということを考えつきました。自動テストなどの技術を使えば、同意の元で「SNSアカウント乗っ取り」を行うことでサービスが実現可能だと考え、実際に制作してみました。

2013年ごろから、プログラマーとして働く自分自身が、仕事には関係ないコンテンツを「つい見ちゃう」ことに困っていました。
はじめはニコニコ動画を見る癖があり、その後はTwitterやFacebook、これらをすべて封印したら今度はGoogleで「ニュース」と検索してニュース記事を見るようになってしまう。技術的な問題につまづいて「どうしたものか」と悩み込んだ時など、ストレスを感じた瞬間にほとんど無意識のうちに逃避行動としてやってしまうことがわかりました。
それでも仕事でPCを使う関係上こうした「つい見ちゃう」誘惑とうまい付き合い方を探ろうと自分で工夫を始めたのがきっかけで、2017年からは蓄積した知見や仮説を実証していくために会社を設立しました。


――物理的にスマホを触れなくすることに対して「コインロッカー」を使うメリットは?

デジタル依存の厄介な部分は、それが単なる娯楽だけではなく、仕事上の必要や生活上の必要とも密接に結びついていることです。画面の上に様々なアプリが並んでいることを想像すればわかるように、娯楽と仕事が物理的に隣り合わせになっている状況では「つい見たくなる」と衝動を感じるきっかけが生じやすくなります。コインロッカーはそのようなケースで、娯楽としてのSNSだけを狙い撃ちして使用不可にする点にメリットがあります。

花房氏によると、この「コインロッカー」は実際に「コインロッカーにスマホを入れていた」という友人の行動からアイデアを得たもの。
7月8日のリリースから31日までに325人がユーザー登録し、総ロック回数は201回。現在「コインロッカー」の対象となっているSNSはTwitter・Instagram・Facebookの3種類だが、ユーザーからは「YouTubeをはじめとした動画サービスのアカウントをロックしたい」という要望が寄せられているという。

一方で、自分のSNSアカウントのID・パスワードを入力することへの不安は当然あるだろう。セキュリティ面についても聞いてみた。

情報は全く残りません

――入力したID・パスワードはどのように管理されている?

サーバー上ではアカウント情報を記録していないため、ロックのためのプロセスが完了すると情報は全く残りません。一方で端末上では、ブラウザが提供するローカルストレージ機能を利用して、新しいパスワードを暗号化された状態で保存しています。ロック期限がすぎると、暗号化された新しいパスワードを再びサーバーに送り、サーバー側の復元情報と合わせて、新しいパスワードをメールに送ります。この際もデータは記録しないため、情報がサーバーに存在するのは、プロセスが実効される一瞬の間だけです。


また「“アカウントの乗っ取り”そのものが違法なのでは?」という疑問に対して、公式サイトでこのように説明している。


SNS各社の利用規約には、自動化された手段によるアカウントへのアクセスを禁止する文言がございます。こうした文言の趣旨は、自動化された手段で情報を大量に取得してサーバーに負担をかけたり、また大量のスパムコンテンツを投稿したり、見境のない「イイネ」を繰り返してコミュニティの健全性を損なうような自動操作を禁止することです。

本サービスの利用は、自動化された手段でのアカウントへのアクセスに相当しますので、文言上、利用規約に違反する可能性がございます。しかしながら本サービスの利用における自動化されたアクセスは、ユーザの主体的な決定のもとでユーザ自身のアカウントにのみ影響を与えることから、実質的にSNS各社に対しての迷惑行為には当たらないと判断して、本サービスを提供しています。


アカウント情報の流出などの安全面は問題ないというが、利用については「上記の事情まで考慮していただいて、コインロッカーにアカウントを預けてみるかどうかご判断ください」とのことだ。

「デジタル生活をコントロール」すること

株式会社デジタルデトックスでは「コインロッカー」の他にも、SNSから「いいね」の表示をなくすなど様々なフィルターを設定できる「Middleman(ミドルマン)」をはじめとしたサービスを提供している。


――ユーザーはSNSとどのように付き合っていくべきと考える?

現在のデジタル世界は、ゲーム、動画、SNSと娯楽が発達しています。デジタル環境の乏しい頃には「スマートフォンで遊び放題なのは望ましいことだ」と考えるのは自然でしたが、デジタル情報の飽和する時代になると「適切に摂取する」ことに価値が移ります。
それは口にものを入れる食生活の発達を考えてもそうで、肥満が豊かさの象徴であった時代を経て、飽食の時代になると体を自己管理できていることがより価値のあることだとみなされるようになりました。目や耳から情報を入れるデジタル生活についても同じで、今後はデジタル環境において自己管理するという姿勢がいっそう重要になっていきます。当社としては、発達したデジタルの娯楽と同じくらい、デジタル生活をコントロールするための、具体的な実効的なツールを今後も社会に提供していきます。


――今後の展望について…

一見してわかりやすいCOINLOCKERに比べて、Middlemanなど弊社が提供する他のサービスの理解が得られていません。今後は、デジタル生活を矯正するためのツールが一通りそろった現状を踏まえて、サービスの提供にとどまらず、当社の人間が利用者から聞き取り、アドバイスを行うようなサービス形態を準備しています。これにより社会のデジタルの実情と対策をより深い知見を考察し、今後のサービス制作に役立てたいと考えています。



ちなみに筆者も少々中毒気味なTwitterユーザーだが、24時間の“Twitterデトックス”をしてみたところ、手癖でログイン画面まで進むことが数回あったが「そうだ、今日は使えないんだった」とすんなり受け入れることができ、スマホ自体に触る機会が格段に減った。

今やテレビや新聞よりも早く、様々な情報が得られるSNS。
しかし、SNSに流れる情報は刺激的で楽しいだけでなく、“炎上動画”や誹謗中傷、あるいはデマなども数多く、その付き合い方は常に問われている。
“SNS疲れ”を感じている人は、まずは短時間のデトックス体験をしてみると、SNSとの付き合い方を見つめ直す良い機会になるかもしれない。


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プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。