9割が「中絶」…重い決断迫られる『新型出生前診断』“無認可”も横行

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  • 妊婦の血液を調べるだけで、胎児の染色体の異常を調べる新型の「出生前診断」。
  • 中絶という重い決断にもつながるこの診断を、"無認可"で行う病院も多く存在。
  • 医学が進歩する一方で、ルール整備が進まない社会。その現状を取材した。

「採血だけ」「精度99%」の新型出生前診断

2019年6月、兵庫医科大学病院を訪れたのは、神戸市に住む37歳の山下綾子さん(仮名)と夫の洋平さん(仮名) 。

不妊治療の末、1人目を妊娠。

山下綾子さん(仮名):
もともと妊娠前、独身のころから自分が妊娠したらそういう検査は受けようと決めていたので。

「新型出生前診断」、通称“NIPT”と呼ばれる検査を受けるため、この日病院へ来たのだ。
新型出生前診断とは、妊婦の血液に含まれる赤ちゃんのDNAを抽出し、染色体の異常があるかどうかを調べる検査。ダウン症候群など、3つの症候群についての状況が検査によって判明するというものだ。

新型出生前診断は「採血だけ」で結果が分かるため、従来のお腹に針を刺す羊水検査などと違い、流産を引き起こす危険性がない。また精度も99%と高いのが特長である。
日本で始まったのは6年前で、受ける妊婦は増加する傾向にある。

この日、専門の医師から「遺伝カウンセリング」と呼ばれる詳しい検査の説明を受けた山下さん。夫婦が納得した上で、同意書にサインし、検査に向かった。
採血は10分ほど。その間、夫の洋平さんも綾子さんを見守っていた。検査に必要な処置はこれだけで、結果は2週間後に分かるという。

強い覚悟で検査に臨むも…複雑な思い

35歳以上のいわゆる“高齢出産”の山下さん。
二人は強い覚悟でこの検査に臨んでいた。

山下綾子さん(仮名):
妊娠前、結婚前から障害のある子をもし授かったとしたら、私は産めないなっていう思いが以前から、漠然とあって。自分がもう介護されるような年齢になっても子育てが終わっていなくて、安心して死ねないだろうというのも感じたし。正直、他人に言われる倫理観は自分たちには関係ないと。

山下洋平さん(仮名):
自分の力ではどうすることもできない子が生まれたとき、その責任は自分にかかってくると思うから。それはきれいごとじゃなくて、ちゃんと自分で判断しなくてはと思ってるから…。

その一方で、山下さんは複雑な思いも抱えていた。

山下綾子さん(仮名):
ちょっと動き始めてるのを初めてみて、あーと思って。もしこの子をあきらめるときに、私が決断して、この子の命をとめるのかと思うと、ちょっと『うっ…』となって。

説明を受け、「検査を受けない」判断も

この日、別の判断をした夫婦もいた。

43歳の宮村りかさん(仮名)。
妊婦検診で新型出生前診断を紹介され、検査を予約した。

宮村りかさん(仮名):

表があって、43歳だと、障害をもって生まれる子の確率が38分の1っていわれて。
その確率に衝撃を受けて、最初は妊娠で喜んでたんですけど、ワッて…ちょっと不安ばっかりが押し寄せてきて…だから私は(NIPTを)受ける!って。もし分かったら、感情的になってるので、『(陽性なら)あきらめることも考えてる』 って言ってたんですけど。
自分たちの知識だけで判断できないと思ったんで、カウンセリングを受けてから決めようということできょう来ました。

カウンセリングを受けて、夫婦は「検査を受けない」と決めた。

宮村りかさん(仮名):
生まれてみないと分からないですけど、たぶん家族でやっていける。なにかがあったわけじゃないんですけど、自分に自信が少しずつ沸いてきた。多分知ってしまったら、やっぱりおろすという選択しが出てくると思ったんですけど。それはやめようという話しに二人の中でなったので。

受けないと決めても、りかさんに「ある後悔」が残った。

宮村りかさん(仮名):
おろすっていうことが頭をよぎったことは、自分には罪悪感があります、陽性だったらって考えたときに。それはちょっと自分の中で、引っかかってますね…。

それぞれの夫婦が出した、それぞれの選択。
もし陽性、つまり異常がある、と診断された場合は、さらに“重い選択”を突き付けられることになる。

「陽性」確定の9割が「中絶」に

2013年の導入以降、5年半の間に、6万人を超える妊婦が新型出生前診断を受けていて、 “陽性”が確定したのは約890人。そのうち9割が中絶に踏み切っているというのだ。

「命の選別」ともいわれ、議論が続く重い検査。
そのため、日本産科婦人科学会は、妊婦が適切なサポートを受けられるように、高齢出産など、検査に厳しい条件を定めていて、現在国内にある92か所の施設でしか受けることができないことになっている。

兵庫医科大学 遺伝子医療部 産科婦人科学 澤井英明教授:
遺伝の専門医がいないとできないとか、小児科がないとできないとか、羊水検査ができないといけないとか、要するに検査の制限が厳しかった。

「無認可」で検査も…抜け穴はなぜ放置?

検査の手続きや体制についていくつもの条件が設けられている新型出生前診断。
しかしそこには抜け穴も。

大阪市内にあるこちらのクリニック。美容外科を主に扱っている。
入口の看板には“つるつるボディ”という文字…。

ここは、1年ほど前から、学会の認可を受けずに新型出生前診断を始めたという。
カウンセリングなどを受けなくても、結果がメールで送られてくるほか、年齢制限もない

検査を受けに来た女性:
インターネットで(このクリニックを)調べました。仕事をしてるんですけど、なかなかタイミングをとって病院に通うというのがむずかしかったので、こちらを利用した。

NIPT平石クリニック 平石貴久院長:
患者さんの負担を減らすということで。認可施設は一日講義を受けて、カウンセリングを受けて、さらに検査を受けてということなので。

――Q:なぜ産婦人科ではないのにNIPTを?

NIPT平石クリニック 平石貴久院長:

患者さんが来やすいから。サービスです。

新型出生前診断は、美容外科など妊娠とは直接関係のない医師が検査を行っても、抵触する法律はないのだ。そのため、妊婦への説明やカウンセリングが不十分なケースが横行している。

こうした事態を受けても、日本産科婦人科学会は、無認可施設で検査を受けないよう訴えることしかできない状況にある。

日本産科婦人科学会の会見(2016年):
命の選別につながる可能性のある検査ですので、もしも希望するならきちんと行っている施設で検査を受けるのがご本人の幸せにつながる。非常に重い選択を迫る可能性がある、むしろ検査を受けることによって不幸になってしまう可能性すらある検査です。

社会はどう向き合うべきなのか?

2週間まえに検査を受けた山下さん夫婦(仮名)。この日、結果を聞きに病院を訪れた。

兵庫医科大学 遺伝子医療部 産科婦人科学 澤井教授:
結果は陰性ということで。99.9%以上、赤ちゃんはダウン症ではないということになります。

山下さん:
陰性ってきいて、涙が一瞬で出てしまいました。安心しました。どうしようという気持ちで揺れ動いて、長い2週間でした。

議論が続く重大な検査…
社会がどう向き合うべきなのか、まだ答えは見えていない。

(関西テレビ)

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