2019年の夏、京都の大学にフランス人女性が短期留学をしている。
彼女はある「奨学金」を利用しているのだ、そこには4年前にパリで起きた悲惨なテロで息子を失った父親の強い信念が込められていた。
4年前、パリで起こった同時多発テロ
箸の使い方がまだぎこちないフランスからの留学生、ラミア・ラムラニさん(21)。
大学の友達:
学食のご飯はどうですか?
ラミア・ラムラニさん:
すごくいいです。実はカメラが回ってるから、魚を箸で取るのが怖いです。だから後で食べます。
彼女は京都大学で、数学を学んでいる。
この留学の助けになったのは、ある奨学金だった。
ラミア・ラムラニさん:
奨学金が掲げる理念を尊重して、新しい文化を受け入れることや礼儀作法を理解して過ごしたいです。
その奨学金が作られたきっかけは、2015年11月、フランス・パリで130人が死亡した同時多発テロ。なかでも当時コンサートが開かれていた劇場では、約90人が殺害された。
劇場での犠牲者の一人、当時学生だったユーゴ・サラドさん(当時23歳)。
ユーゴさんがテロに巻き込まれたのは、日本を旅行し、帰国した直後だった。
ユーゴさんの父 ステファン・サラドさん:
ユーゴは15、16歳の時に日本を訪れて文化の違いに衝撃を受けました。特に『尊敬』という概念で、日本に非常に魅力を感じたのです。
ユーゴさんの目標は、日本の大学院で情報工学を研究して博士号を取ることだったという。
父親のステファンさんの手元には、遺品として日本の本などが多く残された。
悲劇に「意味を与える」奨学金
事件の後、ステファンさんは友人などからの寄付と自らの財産を礎に、奨学金を立ち上げた。
その目的は、日本で学ぶという息子と同じ夢を持つ学生を助けることだ。
ユーゴさんの父 ステファン・サラドさん:
我が子が亡くなり、パリで100人余りの人を犠牲にしたテロ行為は意味のないことです。奨学金を立ち上げることは、私にとってその悲劇に意味を与える、とても重要なことです。
名前は「自由・ユーゴ・サラド奨学金」。
「自由」はユーゴさんが好きな日本の言葉だったという。
息子の命を奪ったテロは世界各地で今も起きている。
この奨学金はステファンさんにとって、テロに立ち向かう武器なのだ。
ユーゴさんの父 ステファン・サラドさん:
この奨学金が伝えたいメッセージは、『人同士が異文化に触れることで違いを知り、人が豊かになる』ということを気づかせる、人道的メッセージです。
異文化に触れ合える人は、決して、決して、決して…テロリストには、なり得ません。
今年3月、フランス・パリで行われた奨学金の贈呈式。
「息子の夢」から始めた奨学金への募集は、4回目を迎えた。
ユーゴさんの父 ステファン・サラドさん:
この奨学金で、ユーゴの志を他の人たちに託したいです。
今回はパリとの姉妹都市である京都の商工会議所が日本円で150万円以上を寄付するなど、日本からの支援も集まり始めている。
ユーゴさんの父 ステファン・サラドさん:
第4回「自由・ユーゴ・サラド奨学金」をラミア・ラムラニさんに授与いたします。
テロに立ち向かう「一番の方法」
日本留学への熱意が認められたラミアさん。支援だけでなく、奨学金が持つ特別な思いも受けとっている。
ラミア・ラムラニさん:
教育とは、異文化を知ることや理解・寛容を教えるもので、それは(テロに立ち向かう)一番の方法だと思います。
5月から始まった京都大学での学生生活。
日本人やフランス人の学生と一緒に、3ヵ月間みっちり数学を研究している。
そして、時間があれば外に出て、気になることはすぐに、 周りに聞くようにしている。
ラミア・ラムラニさん:発音を教えてほしいですけど、箸は?
友達:は・し(頭にアクセント)
ラミア・ラムラニさん:橋は?
友達:は・し(後ろにアクセント)
日本では当たり前の自然の風景でも、ラミアさんには新鮮なようだ。
ラミア・ラムラニさん:
フランス人は完璧に作りこまれた自然を好みます。だから実はナチュラルではないんです。
友達:
それが日本と西洋の国との違いですね。
ラミア・ラムラニさん:
日本は小さい庭や花見など、ありのままの自然を大事にしていますね。フランスとは違います。日本人の学生から文化的な違いについて教えてもらい、フランスについて教えてあげたいです。
突然の息子の死に意味を与えるために。
ステファンさんは、これからも次の世代に願いを託していく。
ユーゴさんの父 ステファン・サラドさん:
息子は生き延びることができなかったが、奨学金は生き延びてほしいです。この奨学金が私の元から離れ、子供が独立して行くように一人歩きして行くことを願っています。
(関西テレビ)