ゴミ分別の仕方を注意され逆ギレした女&ゴミ配達を頼んだ男性

7月のある夜、上海市内の住宅のゴミ捨て場。分別せず捨てようとした33歳の女がゴミ捨て場を管理するボランティア女性に注意された。女は注意を聞かず、罵って女性の首を絞め突き倒した。女性は一時意識を失った。逆ギレ女は3日間、警察に身柄を拘束された。

また、あるプログラマーの男性は宅配便の配達員を呼び、隣の江蘇省のゴミ捨て場にゴミを配達して捨ててと頼み、断られた。ゴミは生ゴミや燃えないゴミなど10キロほどあった。男性は「毎日早朝から深夜まで仕事で捨てる暇がない。この数日、夢に見るのは、これは何ゴミだ?ということばかりだった。ゴミ分別はプログラミングより難しい・・・」と話した。

トラブルが相次ぐ理由は、7月から始まった新たなゴミ分別ルールだ。

市民にとっては”ややこし過ぎる”?分別ルール
市民にとっては”ややこし過ぎる”?分別ルール
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「豚が食べれば生ゴミ、豚が食べないと乾燥ゴミ」

上海が導入した「生活ゴミ管理条例」は史上最も厳しい分別と呼ばれる。

ゴミを「生(濡れた)ゴミ(食品など)」「乾燥ゴミ(紙など)」「リサイクルゴミ(缶や瓶など)」「有害ゴミ(電池、薬品、廃油など)」の4つに分類することを求めている。捨てるのは朝夜の決まった時間のみ。違反には個人が最高200元(約3300円)の罰金、企業も最高5万元(約82万円)の罰金。収集・処理業者の違反にも厳しい罰則を設けた。

習近平国家主席が「ゴミ分別は社会文明レベルを体現する」と指示を出す重要政策で、上海の取り組みを全国に広げる意向だ。

街には「道徳的な私達。みんなで分別しましょう」などのスローガンも
街には「道徳的な私達。みんなで分別しましょう」などのスローガンも

ただ、分類が分かりにくいと市民の評判はすこぶる悪い。紙おむつや生理用品、使ったティッシュ、頭髪は何ゴミか?乾燥ゴミなのか生ゴミなのか、果物の皮は、など誰もが頭を悩ませている。

ちなみに人気の食用ザリガニは生ゴミ。また鶏肉の骨は生ゴミだが、豚肉の骨は乾燥ゴミになる。ゴキブリ駆除用品は、紙の本体は乾燥ゴミだが捕獲したゴキブリは生ゴミで分類が必要だとか。住民はビニールのゴミ袋に生ゴミを入れてゴミ捨て場に行き、中身は生ゴミの箱に入れ、袋は乾燥ゴミに入れる必要がある。確かにめまいがしてくる。

出前の注文では、「タピオカミルクティーのタピオカを10粒だけにしてくれ」と、こんなリクエストも。(タピオカは生ゴミ、カップはそのままだと生ゴミ、洗うとリサイクルゴミ)。残したらどう捨てる?と悩むのが嫌らしい。

「羊肉串焼きの、串はいりません」、「貝の炒め物の貝殻は不要です」など、ゴミを減らし分別の手間を省こうとする注文が急増しているという。日本でも人気のコロナビールはカットしたライムを中に入れて飲むが「ライムは生ごみ、瓶はリサイクルゴミなので上海では入れずに飲むようになった」とのジョークもある。

もはやクイズ大会か、テストを受けている状態だ。

出前注文に「貝殻は除いてもらえますか?分類が分からず捨て方が分からない」(上海テレビのニュースより)
出前注文に「貝殻は除いてもらえますか?分類が分からず捨て方が分からない」(上海テレビのニュースより)

ちなみに、分かりやすいと話題の判断方法は「豚が食べれば生ゴミ、豚が食べないと乾燥ゴミ、豚が食べたら死ぬのが有害ゴミ、売ったら豚と交換できるのがリサイクルゴミ」という区別だ。

分別強制で目指せ”ゴミ捨て革命”?

管理人の指導のもとルールを守ります
管理人の指導のもとルールを守ります

とはいえ、これまで傍で見ていると分別など気にせずゴミを捨てている人を多く見た。その意識(というか彼らの常識)を変えるのは容易ではない。上海市はスタートから6日間で190件の違反を摘発した。地域のゴミ捨て場にはボランティアが立ち、分別を厳しく指導する。各家庭にはQRコード付きカードが配られ、きちっと分別し捨てるとポイントがたまり生活用品や食品などがもらえる。このカードをかざすと投入口が開くハイテクゴミ箱もあり、いつ誰が捨てたかが分かるそうだ。ゴミ袋にQRコードを貼らせる地域もある。

きちんと捨ててポイントゲット
きちんと捨ててポイントゲット

生活スタイルを変える取り組みも進む。食事の出前サービスの使い捨ての箸やホテルのアメニティグッズは、事業者自ら積極的に提供できなくなった。

新しい事が始まると新サービスが現れる。“ゴミ分類師”という職業が登場した。自宅に来てゴミを分別し捨ててくれるという。また、ネット通販大手タオバオやモバイル決済のアリペイ(支付宝)では、品物をスマホのカメラで撮影すると人工知能がゴミを判断し、何ゴミか教えてくれる機能やゴミの名前を入力すると種類を教えてくれる機能も登場した。

「ボールペンは乾燥ゴミ」などとアプリが教えてくれる
「ボールペンは乾燥ゴミ」などとアプリが教えてくれる

中国メディアによると、家庭で生ゴミを粉砕するディスポーザーの販売数が2日間で普段の1か月分と爆発的に増えたほか、プラスチック製ゴミ箱の売り上げも急増しているという。

さらにネット通販では、ゴミ分別を学べる子供向けの知育玩具も登場。おもちゃのゴミ箱に様々なゴミが書いたカードを入れて分類する。制度開始前から急激に売り上げが伸びているそうだ。また、ハイテク機器展示会では、ゴミ分別をするヴァーチャルリアリティのゲームも登場した。

ゴミの絵カードを分別してルールを学ぶ
ゴミの絵カードを分別してルールを学ぶ

中国メディア「人々の習慣が変わりつつある」

日本では分別が当たり前なので上海に来てからも、自宅で缶や瓶、燃えるゴミとプラスチックなどを分けていた。が、まもなく、ゴミの収集場所で回収するおじさんが全部まとめて一つのゴミ箱に放り込んでいるのをみて、ああ、俺の努力は無駄だったのか、、、と知ることになった。

中国ではゴミの排出量は毎年10%で増えているという。上海で生活していると様々なサービスの進化で生活は便利になりゴミは増える一方で、人口が多いこの国でこのまま放っておいたら将来とんでもない状況になると感じる。リサイクルや環境保護などの観点から、強制措置はやむを得ないのかもしれない。

1人1人の行動から”ゴミ捨て革命”
1人1人の行動から”ゴミ捨て革命”

強制分別は北京など他の都市でも導入されていく。“分類しないと回収しない”措置も取られる。違反を繰り返せば、社会信用システムに名前が記録されるという。ネット上では「いつも極端から極端に行く」と冷めた声もある。「永遠に自覚できない人もいるからやるべき」との声もある。

「面倒だ!」「俺たち高齢者はもう無理だ、子供には今から教育していけば大丈夫だろう」という声も聞く。彼らとしては“急に“そんなこと言われても、、、と混乱しながらしぶしぶ対応している様子もある。

監視し強制すれば市民の常識や習慣は変わる?(ウエイボより)
監視し強制すれば市民の常識や習慣は変わる?(ウエイボより)

ただ中国メディアは「規制により、思いのままにゴミを捨ててきた人々の習慣が変わりつつある」と期待する。上海市当局は監視を強化していて、監視カメラの映像や市民が撮影した動画も証拠として提出出来るとしている。監視社会化が進む中国なので、意外にあっという間に定着するかも、と思ったりもする。

【 執筆:FNN上海支局 城戸隆宏】

「中国トンデモ事件簿」すべての記事を読む
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城戸隆宏
城戸隆宏

FNN上海支局長