「キモいのにすげー売れる」

日々生み出される、地域をPRするアイデア。
福岡県・筑豊地方の「爆破ロケ」が体験できるイベントや、「チョウザメが村の人口を超えました」という“自虐ワード”を打ち出した愛知県・豊根村の観光ポスターなどは編集部でもご紹介したが、その地域ならではの斬新かつ“映える”アイデアには、一躍注目を浴びるチャンスが常に潜んでいる。

そんな中、今Twitter上で話題となっているこんな商品をご存じだろうか。



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「地元の高校生が発案したアイデア商品らしい。お店の人がキモいのにすげー売れるって言ってた」
というコメントとともに投稿されたパッケージの中には…オオサンショウウオがまるまる一匹!?

投稿者の、謎の中年ボーダーX@bearking110581)さんが広島県の「道の駅 スパ羅漢」で購入したというこの商品、国の特別天然記念物をパック詰め…というのは違法だが、正体はこんにゃく。
パッキングされただし汁の中に「オオサンショウウオ型の味付けこんにゃく」が浮かぶ商品なのだ。

「結論から言うと旨かった」と中身をボウルにあけた写真を見てみると、「今そこで捕まえてきました」と言わんばかりの生き物感が漂っている…

画像:謎の中年ボーダーX(@bearking110581)さん
画像:謎の中年ボーダーX(@bearking110581)さん

オオサンショウウオの平たくヌメッとした体を再現したこの商品。
茶色の体に浮かぶ斑点は、こんにゃくにシシャモの卵を混ぜ込むことで表現しているという。

こちらは本物のオオサンショウウオ
こちらは本物のオオサンショウウオ

この一連の写真が投稿されると、たちまち「めっちゃサンショウウオじゃん」「本物入ってるのかと思った」などのコメントが寄せられ、話題沸騰。13万件をこえる「いいね」がつき、一大ブームとなったのだ。(7月24日現在)

つい手のひらに載せてみたくなるプルプル感と、リアルなヌメヌメ感が合体した“キモかわいい”一品、調べてみると、広島県立湯来南(ゆきみなみ)高等学校の生徒たちが考案したものだというが…一体なぜ、こんにゃくとオオサンショウウオを合体させてしまったのだろうか。
さっそく、学校にお話を聞いてみた。

「リアルで食欲わかない…」試行錯誤も

――「オオサンショウウオこんにゃく」を作ったきっかけは?

家庭クラブの生徒の中で、湯来町を活性化するために特産品を開発したいという思いがあり、何を題材にするか考えていました。もともと湯来町の特産品に「こんにゃく・牛乳・チョウザメ」などがあります。その中でこんにゃくをアレンジしたら良いのではないかという意見が出ました。
その頃、ちょうど本校の科学部の生徒が湯来町の水内川にすんでいるオオサンショウウオの研究をしていて、広島市の安佐動物公園に見学に行かせてもらいました。家庭クラブの生徒も一緒に行って見せてもらいました。実際にオオサンショウウオを見た生徒から「こんにゃくとコラボさせたら良いのではないか」という意見が出て、オオサンショウウオこんにゃくを開発することになりました。


この「オオサンショウウオこんにゃく」は、湯来南高等学校が2014年から取り組んでいる「湯来温泉同好会プロジェクト」の一環で作られたもの。
このプロジェクトではボランティアをはじめ様々な活動をしているが、その中のひとつが「特産品開発」。
2016年に、湯来町に生息しているオオサンショウウオと、特産品のこんにゃくを合体させるアイデアが飛び出し、2017年に商品化・販売が決定したのだという。

アイデアを出し、企業とやり取りをしてきた生徒たちは2017年度に卒業したとのことで、現在は先輩たちの活動を在学生が引き継いでいるというが、この企画は地元の様々な団体が協力し合って実現したものだという。


――こだわりのポイントは?

こんにゃくの型を広島市立広島工業高校の3Dプリンターで作ってもらいました。紙粘土で作ったオオサンショウウオの形から型を作製してもらったのですが、とてもリアルに仕上がっていると思います。

フジトシ食品さんに商品化を依頼した際、試作品として「イカスミ入りこんにゃく」「子持ちこんにゃく」「普通のこんにゃく」の3点を作っていただきました。

左から「イカスミ」「子持ち」「普通」のこんにゃくバリエーション
左から「イカスミ」「子持ち」「普通」のこんにゃくバリエーション

イカスミ入りこんにゃくは色が濃すぎてリアルで食欲がわきそうにないということでやめましたが、動物園で実物を見た生徒から「子持ちこんにゃくの感じがオオサンショウウオに似ている」ということで、それに海藻の粉を入れて少し色を濃くしてもらうことにしました。

フジトシ食品さんの方では当初は真空パックも検討されていましたが、だし汁と一緒にパックしてもらうことで「泳いでいる感じがしていいのではないか」という意見が出て、それを採用してもらいました。
試作品を見たり、試食したりしながら、フジトシ食品の伊藤さんに生徒の意見を聞いてもらって、商品化しました。

アレンジ料理で「オオサンショウウオ入り炊き込みご飯」

――販売にあたって、生徒の皆さん・先生方の反応はどんなものだった?

最初、文化祭で販売したときに「気持ち悪い」「おもしろい」「どこから食べて良いか分からない」「色や形がリアル」「味がついているのでそのまま食べられて良い」などの意見をいただきました。

普通のこんにゃくと比べて、価格が高いので売れないのではないかと思いましたが、その後の学校行事で販売すると早くに売り切れるようになってきました。フジトシ食品さんから「更に大きいものを作りたい」と言われ、それは価格も上がるし大丈夫かなと思いましたが、完成したものを販売すると大きい方も売れていると聞いて驚きました。

(上)粘土フィギュア (下)それをもとにしたオリジナル型
(上)粘土フィギュア (下)それをもとにしたオリジナル型

――ちなみに、他にはどんな案があった?

本校にはチョウザメをモチーフにしたマスコットキャラクターの「チョウ助」がいるのですが、チョウ助はどうかという意見や、湯来町花のヤマユリ、湯来町でたくさん見られるホタルなどはどうかという案もありました。

改良を重ね、このスタイルに
改良を重ね、このスタイルに

このオオサンショウウオこんにゃくは、学校を越えた地元の高校生たち・地域の企業が協力して型から作り上げた、完全オリジナルの一品。
型をよくよく見てみると、前足の指は4本、後ろ足の指は5本という細かいところまで再現されているのがわかる。

初めての販売時には「どこから食べて良いか分からない」という意見もあったというが、取材に答えてくれた家庭クラブの好満(よしみつ)先生に調理例をお聞きしたところ「オオサンショウウオが泳ぐお吸い物」 と「炊き込みご飯」というメニューを教えていただいた。

ウッカリ自然界から紛れ込んでしまったようでもあり、美味しそうでもあり…という不思議なビジュアルだが、一口大に切ったりせず、ワイルドに“踊り食い”するのが良いようだ。

気になるお値段は、小さめサイズのものが216円(税込)・大きめサイズのものが580円(税込)。
「湯来特産品市場館」やフジトシ食品のオンラインショップの他、学校の文化祭やイベントでも販売されているという。

大ヒット商品を生んだ生徒たちへの“アイデア料”のようなものはあるのだろうか…と思ってお聞きしたところ、特別そのようなことはないとのことで、学校販売分の売り上げについては湯来町の環境保全のためにNPO法人などに寄付されるそうだ。

学校販売分のパッケージ。ちなみに右上にはチョウザメの「チョウ助」が
学校販売分のパッケージ。ちなみに右上にはチョウザメの「チョウ助」が

――この反響について…

生徒から「バズっているよ」と聞いて知りました。生徒たちはツイッター上で知っていたようです。話題になっていることについて「すごい!」「良かったね」と喜んでいます。


――今後、どのような活動をしていきたい?

このような取り組みを通して、地域の方から励ましのお言葉をいただいたり、応援していただくことが多く、大変うれしく思っています。
これからも地元の企業とコラボして商品開発をしたり、湯来町の良いところをアピールできる活動をしていきたいです。様々な世代の人たちとふれあいながら湯来町が活性化するような取組ができたらと思います。


オオサンショウウオたちをモチーフに作られた商品が、彼らの棲み処を守ることに繋がる、オオサンショウウオたちにとっても嬉しいアイデア。
湯来南高等学校では、他にも様々なコラボ商品を作っていきたいということで、これからの活動にも注目だ。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。