家を売ってレッスン料?! アメリカのオリンピック予備軍を支える家族の凄まじき闘い

カテゴリ:ワールド

  • レッスン料や遠征時の費用捻出のため、家を売ることも
  • 学校へ行く時間を節約するためにホームスクールへ切り替え
  • オリンピックに全てをかけた人生のその後・・・

家を売るのは当たり前?

私が最初にアメリカにおけるオリンピックという世界の凄まじさを垣間見たのは娘が3歳の時でした。

スポーツ大好きの夫に連れられてワシントンDCのお隣ヴァージニア州のスケート場に通いだした娘。実はそこはオリンピックチームにも入っていた地元で有名なフィギュア・スケーター、マイケル・ウェイスのかつての練習場でもあったのです。だから生徒もコーチもレベルが高く、3歳からプライベートレッスンは当たり前、ちょっと上手になると毎日プライベートレッスン+早朝4時半から3時間の練習もあります。さらにオリンピックを目指すレベルとなれば早々と親元を離れます。

「アジア系はスケートが得意」というステレオタイプのせいで何の根拠もなく娘はコーチに目をかけられることになったのですが、レッスンが一回7000円としてそれが週5回、早朝のリンク代や衣装代そして遠征時のコーチの飛行機代やホテル代を考えたら「(オリンピック選手の)ミッシェル・クワンの両親がレッスン料のために家を売ったり、仕事掛け持ちだったのもわかる !」と真っ青になったのです。

ミッシェル・クワン選手 2001年2月 (写真:時事)

学校へ行く時間を節約!ホームスクールへ切り替え

だけどここアメリカでは、そんな親の努力は当たり前。スケートに限らず、その後娘が試した器械体操やテニスに水泳でも同様で、親たちは子供がオリンピックの選手になれるようにと徹底的に節約し、さらに借金をしてでも子供に賭けていました。学校に行く時間が勿体無いと親が先生となりホームスクールに切り替える家庭もあります。仕事をやめて子供の送り迎えに専念する親も。スポーツマッサージの資格を取る親までいます。

コーチもコーチで常に「ネクスト・スター」を探していますから自分の生徒以外で上手な子は引き抜こうとし、無理なら転ばせようとしたり、本当に華やかなオリンピックの舞台裏には、ものすごい世界が広がっていたのです。

幸いにも私の娘のパッションは途中からバレエに移行したため、スケートは早々に引退し、おかげで我が家は今でも同じ家に住んでいますが、そんな凄まじい世界を見てからは、夏でも冬でも、私はオリンピックが始まると、選手本人以上に、その夢を必死に支え続けた親御さんたちを思い、涙してしまうのです。

全てを賭けた後の人生を支えてくれるものとは?

一方で、私はスポーツでも芸術でも、子供の習い事は、スキルそのものを身につけたり、一番になったりするため以上に、子供が自分のパッションを見つけることが大切な目的だと思っています。当時から子供の人生の幸せと成功に大きく寄与する「非認知能力」を伸ばすことが親の役目だと思っていた私は、加熱する大人たちの影響で、3歳にして「成功というレール」に乗せられた子供達を見るにつけ「これが本当にそのお子さんたちが真に望んでいることならいいのだけど」と思わざるを得ませんでした。

もちろん、それが本当に子供のパッションであり、望むことであったなら、我が家も家を売ってでも支えたと思います。ですが「オリンピック出場」という結果は自分では決められないこと。その時の体調や思わぬ怪我もあるだろうし、ライバルや出場枠の問題もあります。家族ぐるみですべてを賭けてどんなに頑張ってもオリンピックに行けるとは限りません。

栄華も衰退も見守る親

リオ五輪の競泳男子100メートルバタフライ決勝で力泳するマイケル・フェルプス選手 2016年8月(写真:時事)

またオリンピックに出場したとしてもいつかは終わりの来る夢なのです。オリンピックの歴史上最もメダルを獲得したとして有名な水泳のマイケル・フェルプスは、小さい頃から水泳しかしてこなかったから「オリンピックが終わった後、いったい自分の人生は何だったのかと思ってしまった」と告白しています。また自身のうつ病との戦いに加えて「オリンピック選手の9割は終わった後うつ状態になる」とも言っています。オリンピックに出場できてもできなくても、すべてを賭けたことの代償として、燃え尽きてしまうケースもあるのです。

でも、そんなときにその後の人生を支えてくれるのは、がんばった過程で子ども自身が見つけた「パッション」という力と、そして何より親の愛情あるサポートなんじゃないかと思います。子供の栄華も衰退もその目撃者となりどーんと構えて寄り添う親。ああ、やっぱり親ってすごいです。

来年の東京オリンピックも、そんな選手たちや親御さんたちを想い、私はやっぱり涙なしでは見られなさそうです。

【執筆:ボーク重子】

「ミッション東京2020」すべての記事を読む
ボーク重子著

ミッション 東京2020の他の記事