世界の政治家やセレブ・要人のツイートをモーリー流に翻訳・解説する「Twittin English」。今回は7月3日、Axiosのツイート。

"What we are looking for is a complete freeze of WMD programs," he told reporters, according to two sources familiar with his remarks. (Axios was not on the plane and therefore did not enter into any off the record agreement with the administration.)

「私たちが模索しているのは、(北朝鮮の)大量破壊兵器計画の完全な凍結だ」と彼は記者団に対して語った。(アクシオスは飛行機に乗っていなかったので、政府側との記録協定を結んでいません)


モーリー:

Axiosは2017年に登場した新興ウェブメディアで、これまでもトランプ政権関連のスクープを連発しています。

そして今回の記事では、2018年8月にアメリカの北朝鮮担当特別代表に就任したビーガン氏が、記者にオフレコを条件に北朝鮮の非核化について語ったと報じています。

“飛ばし”を疑って、Axios発信のニュースを引用してこなかった私ですが、これはスクープだと認めざるを得ません。

共和党にとって「凍結」は最大のタブーワード

まず、背景を説明します。

6月30日に板門店で行われた米朝首脳会談は、トランプ大統領のツイートがきっかけで急遽、実現したとされています。会談後、アメリカに帰国する飛行機は大統領機と国務長官機があり、ビーガン氏はポンペオ国務長官と同乗していました。

そこで記者たちと懇親会を行い、「これは記事にしないでね」と前置きして話したのが、「北朝鮮に核兵器を含む大量破壊兵器の完全な凍結を求める。その見返りとして、人道支援をしてもよいだろう」という内容。

オフレコは通常、リークしてはいけません。ところが、これを聞いた誰かが「由々しき発言である」として、Axiosにネタを提供してしまった。そして、Axiosは「うちの記者は機内にいなかった」とことわり書きをして、堂々と記事にしました。

この記事の画像(3枚)

ビーガン氏のこの発言は、共和党政権としてはかなり異例なものです。

2月末にベトナム・ハノイで行われた2回目の米朝首脳会談では、アメリカ側が核兵器の完全廃棄を一気に求めるビッグディールを主張し、金正恩委員長はそれを飲めないとして、もの別れになりました。

そして、トランプ大統領は今回、即興的に南北国境を越えて金正恩委員長と握手を交わし、「私とあなたの間で問題を解決しよう」と言った。結果として、北朝鮮に対して譲歩してしまっています。

「凍結」というキーワードは、実は共和党ではタブー中のタブーなのです。

1990年代、民主党のクリントン大統領は寧辺の核施設問題に際し、軽水炉建設支援に言及しました。それに対し、共和党は「クリントン大統領の発言は、事実上、北朝鮮の核開発を認めていることと同義」で「単なる凍結」であるとして、政権を猛攻撃しました。

自分たちがかつて批判していたその一線を、いまトランプ大統領が軽々と越えてしまっているのです。

「朝鮮戦争の終結」と「日本の自衛」

では、仮に凍結になった場合、どのようなゲームチェンジが起きるのか。ポイントは2つです。

まず1つ目に、北朝鮮が求めている「朝鮮戦争の終結」が現実味を帯びてきます。そうなると、たとえ何が起きたとしても北朝鮮の体制は保証されることになります。戦争はないのだから、アメリカは北朝鮮を攻撃する理由はありません。

北朝鮮側もアメリカに向けたICBM(大陸間弾道ミサイル)を開発せず、アメリカに対して核を用いない。しかし、依然として核を保持していて、その数は公表しないという状態です。

トランプ大統領は、暗に「日本も射程に入る中距離弾道ミサイルは、議論の外でもよい」と言っているわけです。

2つ目として、中国やロシアが、朝鮮半島及び東アジアから米軍のプレゼンスが減退してほしいと考えているところに、トランプ大統領が自ら入って行っています。

G20の来日直前、トランプ大統領は、日米安保破棄について側近に漏らしたとされています。そこで今度は米韓同盟に対しても「なぜアメリカが金を払わなければならない?当事者である南北で話し合えばいい」とトランプ大統領が一歩引いてしまうと、その隙間に中国が入ってきます。

中国は「南北問題を民主的に話し合いで解決しょう。みんなで戦争をやめましょう」と言い、北朝鮮の後ろ盾となって堂々と経済支援を行います。そして、北朝鮮は増長して、いつしか韓国をのみ込むことを夢見るようになります。

「凍結」といっても核を保有していることに変わりはありませんから、日本は核の風下に晒されることになります。この日本のセンシティブな部分をトランプ大統領は踏み越えてしまったわけです。そして、それがトランプ大統領の考える荒っぽいアメリカンな“ビッグディール”になってしまうと、梯子を外はずされるのは誰か、という話になります。

この問題を皆さんに考えてほしいのです。

「すぐ近くに核保有国が誕生したとなると、自分の身は自ら守らなければならない。憲法改正が必要ではないか」と主張する人もいれば、「アメリカ軍が撤退すれば、戦争をする理由がなくなる。沖縄にアメリカ軍がいなければ、中国も脅威を感じなくなるだろう」と考える人もいるでしょう。

この2つの意見が日本を両極端へと引っ張っていくような、そんなトレンドを感じています。

(BSスカパー「水曜日のニュース・ロバートソン」 7/10 OA モーリーの『Twittin English』より)

モーリー・ロバートソン
モーリー・ロバートソン

日米双方の教育を受けた後、1981年に東京大学とハーバード大学に現役合格。1988年ハーバード大学を卒業。タレント、ミュージシャンから国際ジャーナリストまで幅広く活躍中。