「トルコにも日本のように女子大が必要だ!」 熱弁をふるうエルドアン大統領の狙いは?

カテゴリ:ワールド

  • 演説で日本の女子大絶賛…トルコ国内で注目浴びる
  • なぜ今、女子大新設?……大統領の発言巡り賛否両論
  • イスタンブール市長選で負けても、イスラム色の濃い政策を継続か?

女子大を絶賛したエルドアン大統領

トルコのエルドアン大統領が両陛下と面会 2019年7月1日

トルコのエルドアン大統領が6月27日、G20大阪サミットに参加するため来日した。滞在中は安倍首相やアメリカのトランプ大統領と会談し、天皇皇后両陛下とも会見した。これらは本国トルコでも当然報じられたが、それよりもトルコで話題になったニュースがある。エルドアン大統領が兵庫・西宮市の武庫川女子大学を訪れ、名誉博士学位を授与されたあとの演説だ。

エルドアン大統領:
「日本には800の大学があり(注1)そのうち10%に当たる80校が女子大だ(注2)。 大学には、女子の学生しかいない。幼稚園から小中高校、そして大学まで、独特な女子教育システムが構築されている。このような日本のシステムがわが国においても非常に重要だ。トルコも日本と同様のステップを歩むべきだ。」

(注1)総務省統計局調査で、国内の大学は780校(2017年)
(注2)武庫川女子大学教育研究所調査で、国内の女子大は77校(2017年)

日本型の女子大設立を熱く訴えたエルドアン大統領。日本のメディアではあまり大きく取り上げられていないが、トルコメディアは一斉にトップで伝えた。

アナドル通信(国営) 「トルコにも日本のように女子大が必要」
ビアネット(ウェブニュース) 「日本の女子大を参考に」
アフバルニュース(左派系) 「トルコ初の女子大設立を目指し調査を指示」

日本国内の女子大の数が減少傾向にある中で、エルドアン大統領の狙いは一体どこにあるのか?

トルコ大統領府Twitterより

なぜいま女子大なのか?

トルコでは1914年に国内初の女子大が設立されたが、その7年後には共学化された。その後、全ての小学校、中学校が共学化され、1973年に男女共学を基本原則とする教育法が制定された。男女別の学校はイスラム系の高校に限って存在していた。

それが、2012年を境に一変した。

エルドアン大統領が新設した「レジェップ・タイイップ・エルドアン イマーム・ハティプ女子中学高等学校

エルドアン大統領(当時は首相)が世論の反対を押し切って法改正を行い、中学においてもイスラム系の学校を復活させたのだ。これにより、女子学生のみが通う中学、高校が激増し、現在に至っている。ただ、大学について言えばいまだに全て共学で、女子大は1つも存在しない。トルコは世界でも有数の親日国と言われるだけあって、エルドアン大統領が「日本を手本に」と言うのもわからなくはないが、なぜ今、女子大なのか?その目的は何なのか?

エルドアン大統領は日本での演説で、「わが国にもかつて男女別の高校があったが、のちに共学化されてしまった。今、我々は再び秩序を回復する時期に入ったのだ」とも述べていた。ここにヒントがありそうだ。

イスラム色を増すトルコ

アタチュルク初代大統領(画像:トルコ文化省HPより)

トルコはアタチュルク初代大統領が1923年に共和国宣言をして以来、政教分離の世俗主義を国是としてきた。しかし、エルドアン大統領は2001年に与党である公正発展党(AKP)の初代党首に就任して以来、イスラム色の濃い政策を推し進めてきた。女性の公務員が職務中にスカーフを着用できるよう憲法を改正したり、今年に入ってからは博物館として親しまれているイスタンブールの観光名所、アヤソフィアのモスク化さえも示唆している。

イスタンブールの観光名所 アヤソフィア(アヤソフィア博物館HPより)

世俗化する社会に対し、今こそ“念願の”女子大を新設し、より一層イスラム色を前面に出した政策を推し進める構えのように見える。こうしたエルドアン大統領の“構想”に対し、トルコのメディアは次のように伝えている。

ハベルトゥルク紙(大手紙):
・日本のような先進国に女子大があるなら、国民の9割以上がイスラム教徒のトルコで女子大が設立できないわけがないと保守層は絶賛している。
・大統領が気に入ったのは女子大だけなのか?先進国日本から学ぶことはもっと他にあったのではないか?という批判の声もある。
・日本でも女子大の需要は下がっているという。
・社会進出を重要視する女性たちは、女子大ではなく、東京大学や京都大学のような共学大学を選ぶのではないか。

キュルトゥル・セルヴィスィ紙(文化紙):
・女子大構想は笑止千万。
・大統領が参考にした日本は、社会生活において男尊女卑が顕著な国である。
・世界経済フォーラム(WEF)が発表した報告書によると、日本の男女平等ランキング(2018年)は149カ国中110位と、順位が低い国の一つ。トルコは、130位だ。
・女子大新設は完全な女性差別であり本末転倒だ。
・トルコの教育システムは近年悪化しており、いま必要なのは教育改革だ。

保守層と世俗派で意見が分かれるのは当然だが、トルコのメディアをチェックする限り、女子大新設構想には否定的な論調が多いようだ。6月23日に実施されたイスタンブールのやり直し市長選では、エルドアン大統領率いる与党が擁立した候補が、最大野党の新人に大敗。求心力低下が叫ばれるエルドアン大統領だが、今回の女子大新設をはじめとする教育改革が今後トルコ国民にどう受け止められるのか、注目していきたい。

【執筆:FNNイスタンブール支局長 清水康彦】

取材部の他の記事