“水中で音を出す”ゴカイが本当にいた…世界初の発見は偶然の産物だった

カテゴリ:国内

  • 音を出す「ゴカイ」の存在を世界で初めて確認
  • 研究者「ゴカイを入れた容器の中でパチパチと音がしているのを偶然発見」
  • 人が指を鳴らすくらいの音がする

日本で世界初の発見

クジラが遠く離れた仲間とコミュニケーションを取る際に出す鳴き声に代表されるように、海の生物たちが水中で音を発することは知られているが、日本で世界初となる“発見”が最近あったことをご存じだろうか。

これまで、環形動物などの体の大部分が柔らかい構造からなる動物では、音を出すものは知られていなかったが、ゴカイの一種の「キムラハナカゴオトヒメゴカイ」という生物が、音を出すことを発見したというのだ。
その動画があるので耳を澄ましながら見てほしい。

7秒の短い動画だが、2体の見慣れない生物が体を寄せ合っていて、体がぶつかったように見える瞬間にはっきりと「パキッ」という音が聞こえる。

発見者の京都大学の後藤龍太郎助教と串本海中公園(和歌山県)主任学芸員・平林勲さんによると、「キムラハナカゴオトヒメゴカイ」は、縄張りを争う際に口を寄せ合う習性があり、その攻撃の際に音を発することを水槽内の観察で発見し、水中マイクロホンを使って録音を行ったという。

環形動物とは、体が細長く、環状の体節を持つ動物のことでゴカイのほか、ミミズやヒルなども含むが、音を出す種の発見は世界初とのことだ。

映像だとぶつかったときの音ではないかという疑問もあるので、このゴカイがどのようなメカニズムで音を出すのか。またこの大きな発見に至った経緯は何なのか。後藤さんと平林さんに詳しい話を聞いた。

発見は偶然の産物だった

ーー「キムラハナカゴオトヒメゴカイ」はどんな生物?

京都大学 後藤さん:
キムラハナカゴオトヒメゴカイ(学名:Leocratides kimuraorum)は、オトヒメゴカイ科に属する、体長約2cmの多毛類となります。体の前端部についた丸い口と、半透明の体から生える長い触手が特徴的です。

日本の太平洋沿岸に生息し、タコアシカイメン科に属する海綿の内部で暮らす習性を持ちます。

ーーこれまで誰も発見できなかったのはなぜ?

串本海中公園
平林さん:
このゴカイ自体が2017年に新種として記載された、比較的珍しいものであることが要因の1つかと思います。また棲んでいる場所がやや深い場所の海綿内部と特殊なため、見落とされていた可能性も考えられます。

さらに、飼育も難しく、串本海中公園でも長期間の飼育には至っていません。

ーーこの発見に至った経緯は?

平林さん:
発見したのは2016年の12月ごろです。漁師さんからいただいた生き物を予備水槽で飼育するため、種類ごとに選別していた時、ゴカイを入れた容器の中でパチパチと音がしているのを偶然発見しました。

少し調べてみても、環形動物が大きな音を出すといった報告は見当たらなかったことから、本格的なデータの収集を2017年以降に始めました。

“マウスアタック”で発生する音では

ーーゴカイの出す音は、陸上だとどれほどの大きさ?

後藤さん:
水中と陸上の音を直接比較することは難しいですが、人が指を鳴らすくらいの音で聞こえます。

ーーゴカイが音を出す仕組みを現在判明している範囲で教えて?

後藤さん:
ゴカイ同士が口を寄せ合って争う際、「咽頭」と呼ばれる、口の後方に伸びる筒状の筋肉質の器官が、マウスアタック(口部で相手を弾き飛ばす高速攻撃)の直前に細くなります。そして、攻撃の瞬間、一気に膨張していることが明らかとなっています。

この瞬間的な形態変化が咽頭内にキャビテーション(流体中で圧力差により短時間に気泡の発生・消滅が起きる現象)を起こし、気泡が消える際に音を出しているのではないかと、現時点で推測しています。

ただし、音が実際どのように出ているかを明らかにするためには、さらに詳しい検証が必要です。

黄色の円で囲んだ、体前半部の透けて白く見える部分が「咽頭」にあたる。

ーー縄張り争い以外に音を出すケースはありそう?

後藤さん:
縄張り争いの時以外に音を出しません
。ピンセットでつついたりしても音を出したりしませんでした。

ぶつかった音ではなく、マウスアタックの際に出す音ということだったが、音を出す仕組みについてはまだまだ研究が必要だという。
偶然の産物から生まれたという発見だが、いきものの世界は知れば知るほど奥深い。

画像・動画提供:後藤龍太郎(京都大学)・平林勲(串本海中公園)

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