板門店外交に同行したニュースキャスター

 
 
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トランプ大統領はニュースキャスターの助言で外交を展開することになったらしい。

先月30日トランプ大統領が板門店で北朝鮮領内に足を踏み入れた際、ポンペオ国務長官、マルバニー首席補佐官代行それに娘のイバンカさんと娘婿のクシュナー氏を同行させたが、もう一人そこにFOXニュースのキャスターのタッカー・カールソン氏の姿があったのが注目された。

カールソン氏は同行記者として板門店へ来ていたのだが、他の記者たちが大統領や金正恩委員長に近づくのを厳しく規制される中で自由に振る舞い特別な扱いを受けていることは明白だった。

トランプが耳を傾けるといわれるカールソン氏

実はトランプ大統領はカールソン氏の報道を好ましく思い、かねて個人的に同氏の意見に耳を傾けていたと言われ、先月20日米軍が無人機撃墜の報復としてイランに対し空爆する計画を10分前に中止を命じたのもカールソン氏が強く反対したからだと伝えられた。

その際カールソン氏は空爆は世界の非難を浴び、大統領選での再選の可能性を危うくすると言い(空爆を勧める)ボルトン安保担当補佐官を過大評価すべきでないと進言したと言われる。

ボルトン安保担当補佐官
ボルトン安保担当補佐官

そのボルトン補佐官は、大阪でのG20首脳会議の後モンゴルへ派遣されてその姿は板門店になく、代わりにカールソン氏が大統領の腹心さながらに振舞っていたことから「大統領の新たな外交問題の助言者」と見られるようになってきた。

「トランプ大統領はイランとの武装衝突には反対だった。しかしボルトンはタカ派以外の関係者を大統領から遠ざけてきたので、同大統領は通常の指揮命令系統を離れてカールソン氏との対話を始めたのだった」(ジ・アトランティック誌電子版7月5日)

カールソン氏もボルトン補佐官には批判的だった。
「ボルトンらネオコン(新保守派)は歴代の大統領たちを騙してシリアやリビア、イラクに侵攻して地域の混迷化を招いた。彼らネオコンは寄生虫のようなもので、ボルトンは連邦行政府に巣くって時おり出没しては人々に苦痛や災難を及ぼすが、自分自身は苦しむことがないサナダムシのような存在だ」

ボルトン氏に代わってカールソン氏が安保補佐官に就任することはないと見られるが、今後同氏のトランプ大統領に対する影響力はさらに増すというのが米国マスコミに共通の見方だ。

カールソン氏の政治信条

そこで気になるのがカールソン氏の政治信条だが、同氏は基本的には保守派の論客として知られる。しかし、同氏のテレビの経験はまずCNNで始まり、次いでMSNBCとリベラルなチャンネルで10年間を経た後FOXニュースでの成功につながっている。その経歴故か保守派であっても必ずしもタカ派ではなく、特に米国のイラク侵攻には強く反対してきた。

そのカールソン氏の助言によるトランプ外交の行方だが「対決」よりも「対話」を重視するようになると前述のジ・アトランティック誌電子版の記事は分析している。

そして日本として気になる北朝鮮政策だが、同記事は「もし非核化か金正恩との信頼関係かという選択になれば、トランプ大統領は金正恩を選択するだろう」とする。

これは、北朝鮮の核兵器と長距離ミサイルの開発を廃止する代わりに現存する核兵器を「凍結」するという形で保有を認めるという「北朝鮮の核凍結案」を言ったもので、全面的核廃棄にこだわって北朝鮮との対話を頓挫させるよりは、現実的な解決を選択するだろうということだが、日本としては予期せぬ展開もあることを覚悟しなければならないのかもしれない。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

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木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。