勝者はトランプ大統領?

討論会を取材する記者たち
討論会を取材する記者たち
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「民主党討論会の勝者はドナルド・トランプだった」
米三大ネットワークの一つNBCニュースは、先月26、27日にフロリダ州マイアミ市で行われた民主党大統領候補者選びの第一回討論会についてこのような見出しの記事を27日ウェブサイトに掲載した。

と言ってもトランプ大統領は共和党選出で、この討論会に出ていたわけではない。討論会のあり方が、結果的にトランプ大統領を利するだけだったというのだ。

会場周辺に集まったバイデン前副大統領の支持者たち
会場周辺に集まったバイデン前副大統領の支持者たち

この討論会には民主党から出馬の名乗りを上げた20人が参加し、2日に分けて10人づつの討論会を行なったが、参加者は互いの発言を打ち消すように大声で言い争うだけだったと批判された。

またその主張も、限られた時間内に存在を目立たせなければならないためか過激化して、ほとんどの参加者が「不法移民の受け入れ」「民間医療保険の廃止と政府管掌国民皆保険制度の採用」「大学授業無料化」「黒人に対する奴隷に対する賠償」「大企業に対する課税強化」など米国としては社会主義的な政策を打ち出した。

民主党討論会会場周辺に集まったトランプ大統領の支持者たち
民主党討論会会場周辺に集まったトランプ大統領の支持者たち

討論会は参加者の怒鳴り合い

これには民主党支持と反トランプを公言するマスコミも距離感を感じたようで、MSNBC放送でトランプ批判を続けているキャスターのジョー・スカボロー氏は討論会の翌日朝の番組でこう発言した。

「視聴者の皆様にお詫びします。民主党のひどい様子をご覧に入れてしまいました。ご覧になった方がいなかったことを望むばかりです」
スカボロー氏は、討論会の参加者が怒鳴り合っているだけだったと批判した後こうも言った。

「参加者全員が不法移民が国境を越えて米国に入ってきたとたんに不法ではなくなり、終生医療保険も用されるべきだという立場でしたが、それでは大統領選の行方を左右するウイスコンシン州やペンシルバニア州、フロリダ州を失い、サウスカロライナ州やバージニア州でも(トランプ大統領に)負けることになるかもしれません」

この討論会の勝者がトランプ大統領だったかどうかはともかく、敗者はそれまで民主党候補の中でトップを行くと言われていたジョー・バイデン前副大統領ということで間違いなさそうだ。

バイデン氏は過去に黒人差別を是正するため黒人と白人地区の生徒をバスで交換する「バッシング」に反対する法案を提出したことが改めて批判されているが、討論会では黒人のカマラ・ハリス上院議員(カリフォルニア州選出)がこう切り込んだ。

「その昔、カリフォルニア州に一人の女の子がいました。その子は二年生で差別是正のために毎日バスで学校へ通っていました。その女の子が私です」

カマラ・ハリス上院議員
カマラ・ハリス上院議員

自らの体験を通じてバッシングに反対したバイデン氏を批判したわけだが、バイデン氏は説得力ある釈明ができず「もう私の持ち時間がなくなった」と討論を打ち切ってしまった。

この討論会の直後に行われた世論調査でバイデン氏の支持率は10ポイント下がり、有力な資金提供者も離れたと伝えられる。
来年の大統領選に向かって、民主党は候補者選びから苦戦を強いられた形だ。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】

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木村太郎著
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木村太郎
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理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。