元社員が語る手口
インターネット上に溢れるweb広告が、いま嘘と著作権法違反によって汚染されています。中でも、韓国人俳優の画像を無断で使用するケースが横行していることが取材で判明しました。
(前編:韓国人俳優の無断使用は当たり前? web広告の闇)
なぜこのような無断使用が起きているのでしょうか。実際に問題のweb広告記事の作成業務に携わっていた男性社員の佐藤さん(仮名)が、匿名を条件に取材を受けてくれました。
都内のIT企業で契約社員として働いていて、ネイティブ広告の記事作成業務を行っていた佐藤さん。
「海外の人の画像を無断使用することは普通でした」
実際の経験を交えて、そう語り出しました。
ある日、上司から「BA(※)を作りたいから、モデルを引っ張ってきてほしい。日本人と韓国人は似ているから、Google翻訳で日本語をハングル文字に訳して検索すればいい」との指示を受けたといいます。
(※BA:Before/After画像のこと。商品を使用した前後の比較画像を指す。薬機法では、特別な場合を除いてNGとしている)
Google翻訳で『女性』『ダイエット』と日本語を入力してハングル文字を入手し、今後はそれ使って韓国人の良さそうな画像を検索をするのだといいます。
「これ大丈夫なんですか」と佐藤さんが上司に聞くと、「バレにくいから大丈夫」と返ってきたといいます。更に「『いい感じだなー』と思った韓国人の画像に、Photoshopでニキビをつけてよ」と加工の指示まで受けたといいます。
佐藤さんは、他にも体験談やコメントの捏造をたびたび指示されたと語ります。当初は仕事と割り切って指示通り作成していましたが、やましい気持ちから罪悪感を抱き続け、上司に直談判もしたと言いますが改善はされず、結局4ヵ月で退社しました。
「正直、キツかった。仕事とはわかっているけど、やってはダメなことと感じていました。とても苦しかったです。あの時代は黒歴史。本当に消したい」
弁護士が指摘。海外の人物への著作権侵害が問題化しない理由
web広告における倫理観の欠如。「バレにくいから大丈夫」と発想したとしても、「バレたら大変」とはならないのでしょうか。
それには、構造的な問題があると、知的財産の専門家は語ります。
「一言でいえば、費用対効果が悪いんですよね。海外間の書類の送受信や裁判所に足を運んだりもするので、かなりの時間が掛かるんですよ」
そう語るのは、虎ノ門特許法律事務所の大熊裕司弁護士。特許法・著作権法を始め、一般民事事件まで幅広く扱っています。
「海外に著作権者・権利者がいる場合、日本の裁判所で日本の弁護士を使って侵害行為を止めさせることもできます。しかし、時間のほかに多額のお金が必要で、損害の回収ができるかの問題もあります」
つまり、海外に住んでいる人への著作権侵害が起きた場合、お金と時間のコストを考えて訴訟しないことが多いため、「バレにくいから大丈夫」といった思考になりやすいと指摘します。
画像を無断使用されたナム・ジュヒョクさんとイ・ソンギョンさんが所属するYGエンターテインメント日本支社に何度も問い合わせをしましたが、記事掲載までに回答をもらえませんでした。
Facebook社に質問。なぜ問題は解決しない?
このような広告は、FacebookとInstagramに多く出回っていました。一体、なぜ違法広告は止まらないのでしょうか。この事態をどう受け止めているのか、フェイスブックジャパン社に電話で問い合わせました。
「今回の事態は非常に重く受け止めています。利用者に安心・安全に使って頂けるプラットフォームとなるべく、取り組んでおります」
フェイスブックジャパン広報によると、Facebookでは出稿依頼がきた広告に対して、本来は厳密にチェックを行うフローを取り入れているとのこと。
「AIを使用した審査で出稿依頼の広告をチェックしています。ここで引っかかっても出稿依頼主は再度申請でき、そこでは人の目で精査を行っています。人員も1000人増員して、一層の体制強化を行っています」
人員増強を行ったと言いますが、そもそもAIによる判断に問題はないのでしょうか。
「AIによる穴があるのも事実です。私たちは常にお客様に安心安全で楽しめるプラットフォームを提供しようと心掛けております。マーク・ザッカーバーグCEO含め弊社一丸となってウソ広告の課題を解決できるよう取り組んでまいります」
AIに限界があるのは事実。問題解決のためには、チェック体制の強化か“作り手の倫理観を上げる”しかありません。
インターネット広告を健全な世界にするには、まだ乗り越えるべき壁がたくさんあります。
(取材:板垣聡旨)