密着NG連発… 香港デモ、参加市民が抱く不安と恐怖

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  • 多くのデモ参加者が装着する“マスク”、その意外な理由は…
  • 言論弾圧は既に…!? 口が重くなった香港市民
  • グループチャット名に「香港」はNG!

6月16日、約200万人(主催者発表)の大規模なデモが行われた香港では、道路を埋め尽くした市民らによるシュプレヒコールと足音が、空気を揺らし周囲を熱気に包んでいた。

「逃亡犯条例」の改正、つまり容疑者の身柄を中国本土へ移送可能できるよう条例を改正しようとしていた香港政府に対し、市民らが猛反発し、返還後の香港史上最大のデモが起きた。
これにより、香港政府トップの林鄭月娥行政長官は、審議の無期限延期を決め混乱を招いたことを市民に謝罪するなど、事態の沈静化に追われている。
しかし、反対する市民らは「完全な撤回」を求めており、行政長官のオフィスや議会など政府機関の周辺では、上記以外にも数百から数千人規模のデモが散発している状態だ。

さて、デモには学生を中心に老若男女問わず市民が参加していたが、彼らは、すでに言論の自由が香港から失われつつあると危機感を強めていた。

多くのデモ参加者が装着する“マスク”、その意外な理由は・・・

今回のデモをよく見ると、ほとんどと言っていい参加者が、マスクを付けて参加している。
その理由は催涙ガスから守るため、と思いきや、「人物を特定されないためでもある」だと口を揃える。
香港では過去に別のデモで、政府が現場や報道で人物を特定し、特にデモを煽ったり過激な動きをした疑いのある人物を逮捕するという事態が起きているという。

そうした情報もあって、参加者らは最低限の自衛策としてマスクで顔を隠しているのだ。

しかし取材を進めると、今回の条例改正案と深く結びつく理由がそこにはあった。

言論弾圧は既に…!? 口が重くなった香港市民

デモに参加する市民とは、どういう人たちなのだろうか?
これを取材しようと、現場で数十人の参加者に密着取材を申し入れてみた。

Aさんは、デモ参加者用に寄付された水などの物資を管理する「仮設本部」のような一角でボランティアにあたっていた29歳の男性だ。
特に「市民活動団体」に所属しているわけではなく、自ら積極的に参加しているという。
仕事を休んで連日現場に来ていたが、5児の父でもあり当然生活に多大な影響が出るため、奥さんからは猛反対を受けていた。
それでも参加するのは「子どもに自由の無い国で育って欲しくない」という思いから。
インタビューを申し込むと快諾してくれたが、条件は「顔を隠す」ことだった。

A「マスクと帽子を着用して顔が映らないようにしたい」

記者「そこまで徹底するのは、なぜ?」

A「もしこの条例が成立してしまったら、このインタビューを見た中国政府にのちに逮捕され、中国本土に送られる可能性もあるから。しかも、どこまで遡って対象にしてくるかもわからない。話す内容が気に入らなければ、扇動罪などに問われるかもしれない」

記者「プライバシーは徹底して守るので、日常生活の様子や奥さんにもインタビューをさせてもらえませんか?」

A「取材を受けているのを、どこで誰が見ているかわからないし、自宅まで行かなくてもその付近の映像が出れば特定される恐れもあるので、受けられない」
記者「デモ行進の様子は各国のメディアが取材しており、そこに映り込んでしまうことは可能性としてある。リスクを考えれば参加自体も危うい気もするが?」

A「それは確かにそうなのだが、多少のリスクを背負ってでも行動はしなければならない。本当は取材も受けたいし、どんどん世界に発信して欲しい。でも、万が一成立してしまったらと思うと・・・」

他の参加者からも、いずれも同じ理由で密着取材は断られた。
香港における「言論の自由」を守るためのデモなのだが、いざ個別に取材を申し込むと、先々のリスクを懸念して彼らの口は重くなる。
今回の条例改正案は、成立を待たずして既に市民の言論に相当なプレッシャーを与えている。
だからこそ、彼らは「完全な撤回」を頑なに求めているのだ。

グループチャット名に「香港」はNG!

彼らの懸念は、密着取材を受けないことだけで払拭されるわけではない。

中国本土では、いまや街頭で監視カメラ、インターネット上ではAIなどを利用して、言論監視が常に行われている。
今回のデモのような中国政府にとって敏感な問題の場合、その神経の尖らせ方には凄まじいものがある。
デモの映像を中国のSNSなどに上げれば、その投稿の削除はもちろん、場合によってはアカウントが停止される。
北京支局に勤務する筆者は、日常的にWeChat(中国版LINE)を利用しているが、今回、香港で取材をするスタッフの連絡用に作成したグループの名前に「香港」と入力しようとすると、何度やっても操作が受け付けられなかった。
一方で「ほんこん」や「ホンコン」は可能であった。
誰に公開するわけでもない身内のグループの名前ですら、入力できないように徹底されていた。
中国当局にとって好ましくない目的のために、人々が徒党を組むことを警戒していることの証左とも言える。
今回に限らず中国政府は、天安門事件など敏感な問題のSNSへの投稿には常に目を光らせている。
(なお、6月22日時点では「香港」の入力は可能となっている)

香港で取材を続ける過程で、何度か参加者に連絡先を聞くことがあったが、口を揃えて中国本土の携帯番号からは絶対に電話をかけないこと、そしてWeChatの連絡先に登録しないことを念押しされた。
「中国政府による通信の監視」を警戒してのことだ。

また、中には今回のデモのためだけに新規の携帯電話を契約したという参加者もいた。
“一国二制度” ではなく香港政府は既に中国政府の一部、警戒する先は中国政府だけでは足らない、という認識が行動として表れていた。

これほどの大規模デモとなると、当然その巨大な民意に注目が集まり、映像や写真では集団としか認識されにくい。
しかし、そこに参加する市民1人1人は、できる限りの対策で不安や恐怖とも闘っていた。

( 北京支局・岩月謙幸 )

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