イングランドに完敗したなでしこジャパン。決勝トーナメントに向けて5日間の準備がカギ

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FIFA 女子ワールドカップ フランス 2019特集

お手本のような存在

キックオフの夜9時を過ぎても、気温計は26℃を指していた。南仏・ニースのアリアンツ・リヴィエラには、大勢のイングランドサポーターが詰めかけ、アウェーの雰囲気を演出していた。

フランスで行われている女子W杯で、なでしこジャパンは19日にグループステージ第3戦のイングランド戦に臨み、0-2で敗れた。

グループステージ突破はすでに決まっていたが、勝てばグループ1位、負ければ同3位で決勝トーナメント進出が決まる可能性もあった。だが、同時刻に行われた試合で、3位のアルゼンチンがスコットランドと引き分けたため、日本はグループ2位での突破が決まった。

練習場を提供してくれたマンドリュー市に感謝を込めてなでしこジャパンのユニフォームをプレゼントした

第1戦のアルゼンチン(△1-1)、第2戦のスコットランド(○2-1)を経て、迎えた大一番。スコットランド戦で勝利した勢いを勝利につなげたいところだったが、格上のイングランドに対し、今大会17名がW杯初出場という若いチームは、力の差を見せつけられた。

次のステージは、負ければ終わりのノックアウトステージだ。この敗戦を何としても次のステージにつなげなければならない。

イングランドはパススピードも個々の判断も早く、ダイレクトパスを交えた力強いサイド攻撃は脅威だった。守備は組織的で、日本は強いプレッシャーをかわしきれずに苦戦を強いられた。

フィリップ・ネヴィル監督は、14日のアルゼンチン戦からなんと先発8名を入れ替えている。最終ラインの2名以外は選手もポジションも入れ替わっており、日本が特に警戒する選手の一人として挙げていたFWニキータ・パリスは控えに。また、DF登録のレイチェル・デイリーが3トップの一角で起用されるなど、ポジションの入れ替えも見せた。それでも、攻守に迷いがなく、選手層の厚さを示した。ネヴィル監督は試合後、「(グループステージの3試合は)対戦相手の特徴によって選手起用を変えた」ことを明かしている。

「(グループで)一番手強い日本に対して、23人の中で調子の良さそうな選手を据えるのではなく、日本との相性を考えて選手を選びました。パワフルな選手を起用したのですが、経験も必要でした」(ネヴィル監督)

相手に研究されても、それを上回る柔軟性を持つことーーそれは、高倉監督がチーム作りにおいて大切にしてきたことでもある。その点で、イングランドはお手本のようなチームだった。

攻守の課題とは

立ち上がりは、2トップを組んだFW岩渕真奈とFW横山久美を中心に、何度かシュートチャンスを作った。だが、シュートはいずれも遠く、決定機と呼ぶには物足りなかった。そして、イングランドには、ネヴィル監督が「世界で3本の指に入る優秀なGK」と太鼓判を押すGKカレン・バーズリーがいた。

前半最大の決定機は8分。横山が枠の左上隅を狙った強烈なフリーキックを蹴ったが、バーズリーに横っ跳びのスーパーセーブではじき出された。

イングランドのような堅守を破るためには、もう一つ、人数をかけてエリア内までボールを運ぶアイデアが欲しいところだ。右サイドで先発したFW小林里歌子は積極的な守備から何度か見せ場を作ったが、シュートを打たせてはもらえず、試合後は悔しそうな表情でこう振り返っている。

「高い位置で奪えた時はチャンスになっていましたが、全体的に後ろ重心になっていました。攻撃でもう少し前に人数をかけられれば、前半のような孤立した状態にはならなかったと思います。サイドでもう一つ、深い位置まで崩す場面を作りたかったです」(小林)

守備では、イングランドの強みである縦へのスピードを出させないため、サイドハーフの小林とMF遠藤純ははっきりと縦のコースを消して、中に追い込む狙いを見せた。だが、中央でアンカーのMFケイラ・ウォルシュが中継役となり、ワンタッチでフリーになった逆サイドを使われた。複数で囲い込もうとする日本の守備を、イングランドはタッチ数の少ないパスワークで外していった。

試合翌日は、イングランド戦の控え組を中心に軽いトレーニングで汗を流した

「アンカーのところで奪えなかったので、(割り切って)相手にボールを持たせていいときもあったかもしれない、と思います」

そう振り返ったのは、DF鮫島彩だ。そして、そのためには、後ろからボランチや前線への声かけが大事だとわかっていた。だが、14,000人以上の観客が入ったスタジアムで、選手同士の声はほとんど通らなかった。日本にとって生命線でもある「試合中の修正力」はお互いの声かけが重要だが、声が通らない時にどうするか。これも、国際大会でしか体験できない課題だ。日本のように複数人で連動して攻守を行うスタイルにおいて、その点は絶対にクリアしておきたい。イングランドの攻撃は狙いが明確で、各ポジションの動きが前もって決められているのか迷いなくスムーズに繋がっていき、声が通らなくてもあまり支障はなかったのだろう。

日本は14分と84分に失点したが、いずれも、サイドバックとセンターバックの間にスルーパスを通され、最後はFWエレン・ホワイトに背後のスペースを突かれて決められた。ボールの失い方の問題もあるが、2点とも中盤を簡単に通過されている。現状の解決策としては、中に追い込む場合は奪い切るまでの流れを徹底するか、守備の穴が空きにくい組み合わせを考えるしかない。

流れを変えたプレー

もちろん、90分間一方的にやられたわけではない。特に前半は、GK山下杏也加が再三のビッグセーブでチームを救っている。そのセーブがなければ、試合は前半で決まっていてもおかしくはなかった。試合後、山下はこんな風に明かしている。

「相手GKがビッグセーブをしている中で、自分も負けていられない、という気持ちで後半に入りました。それでも後半に失点したことは、自分と相手GKの実力差だなと思います」

その口調には、15年の女子W杯(3位)でも正GKを務めたベテランGK、バーズリーへのリスペクトの念も込められているように感じた。そして、山下は初のW杯で1試合ごとにパフォーマンスを上げているように見える。

三浦は途中出場で流れを引き寄せた

また、この試合で最も存在感が際立っていたのが、62分からピッチに立ったMF三浦成美だ。

「(ベンチから見ていて)相手のアンカーの脇が空いていたので、そこでボールを受けて攻撃できると思ったし、もう少し前から守備にいけばはめられる感覚がありました」

そう振り返った三浦は、低い位置でパスを積極的に受けて相手のプレッシャーをかわし、運動量が落ちてきたイングランドから、日本に流れを取り戻した。大柄な相手3人のプレッシャーを、絶妙のポジショニングとファーストタッチでかわし、左サイドを走るFW菅澤優衣香にパスを出した66分のシーンは目を見張った。

89分には自ら攻撃参加し、菅澤の決定機を演出した。試合後、三浦の声は枯れていた。30分間、プレーだけではなく、声でチームを牽引しようと奮闘した証拠だ。元々のクレバーなプレーに加えて、気持ちの強さがプレーに反映されるようになった三浦は、今後、中盤に欠かせない選手として定着していくかもしれない。

大会はここから、ノックアウトステージへと進む。なでしこジャパンが25日にラウンド16で対戦するのは、グループEを首位で勝ち上がってきたオランダだ。なでしこジャパンが初めて世界を制した2011年のチームは、同じくグループステージ第3戦でイングランドに0-2で敗れたが、中3日で迎えた準々決勝で開催国ドイツを延長戦の末に下し、優勝までの階段を駆け上がっていった。一つのきっかけでチームは大きく成長することがある。

オランダ戦までは中5日。この5日間を有効に使い、イングランド戦の敗戦が無駄ではなかったことを証明してほしい。


(文・写真:松原渓)

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