「人より私のほうが幸せ!」 年金制度破綻でも長寿スペインから学ぶ生き方のヒケツ

2040年には日本を抜いて世界一の長寿国になるスペイン 日本と何が違う?

カテゴリ:ワールド

  • スペインでは全ての人が医療を受ける権利を持つ
  • デモやマニフェストで国民主権を主張する
  • 長生きの秘訣は“持ち家”の有無・・・?

なぜ、スペインが世界一長寿国に?

2018年10月、ワシントン大学が発表したデータに、「2040年にはスペインが世界一長寿国に、2040年には平均寿命が85,8歳」というニュースが国内のメディアを賑わせたことがある。 国民性も、生活習慣も違う日西両国が、どうして平均寿命が似通ってくるのか、不思議だ。

魚介肉野菜の豊富な地中海式食事法や、日照時間、夏の1ヶ月のバカンス、週の労働時間上限48時間。ラテンならではの家族関係の濃い人生。そういったものが、スペインの寿命を高める要素なのだろうか?いくつかの面から考察してみたい。

“無料診療”が招く過剰受診

スペインの医療機関制度の特徴として、経済的状況や、国民健康保険の加入非加入を問わずに、全ての人に医療を受ける権利がいるとする大前提がある。医療費負担はそれぞれの保険の加入の条件によって異なるが、例えば公立病院なら出産費用もかからない。受診者には素晴らしいが、そうしたシステムが招くのは、公的医療機関の過剰な受診だ。

無料もしくは低い料金での受診が可能だと、安易に病院に出向く人が多い。受診の予約も取りづらく、需要に間に合わず手術のウェイティングリストが長く、常にパンク状態という話もよく聞く。それに伴い医師や看護婦の過酷な労働時間も問題になっている。一見素晴らしいこのシステムが、長寿に直接貢献しているかどうかを見極めるのは難しい。経済的に余裕がある人は民間保険会社に加入して、より良いサービスを求める姿は日本と同様だ。

年金制度改革に見る国民主権の主張

年金制度も日本同様、このところずっと破綻すると言われている。 様々な条件で受給金額が変わってくるが、国内平均月902,9€(約10万9000円)。2018年には消費者物価指数に合わせて増額になってゆかない年金制度に腹を立てた年金生活者が一致団結。スペイン各地でデモを行い、凍結されていた年金見直しを公約した「トレド協定」を取り付けている。デモやマニフェストで国民主権を主張するのは国民のお家芸だ。高齢者になってもそれは変わらない。

物価はどうだろうか。例えば、ヨーロッパの一大野菜生産地でもあるスペインでは、ジャガイモ1kgで1€(約121円:6月21日現在)、トマト1kgでも2€弱と言う値段だ。ヨーロッパ北部の定年退職者が老後スペインに移住する人が多いのも、この生活費の安さにある。

INE(国立統計局)の2017年データでは、スペインの家庭の食料飲料(アルコールを除く)費は年間4108€(約49万7000円)の支出。自治州により家庭の経費は大きく異なっているが、生活費の安さは他のEU諸国に比べると明らかであり、これも生活のしやすさに直結しているだろう。

終の棲家とコンフォート

2015年の数値では、65歳以上の持ち家率89,3%。これは日本に比べて高い数字ではないだろうか。1997年から2007年、ちょうどリーマンショックの直前にスペインは不動産バブルを迎えている。その当時から現在もマイホーム購入は若い世代にとってはハードルが高いが、80年代ごろまでは結婚すれば家を買うのは当たり前だった故、持ち家率が高いのだろう。終の住処があるかどうかは、高齢者のコンフォートに深く関係しているに違いない。

「私は人より幸せ」と感じる幸せ

スペイン人というのは、自国を非常に愛している人が多いが、同時に日本人同様、自国のことになると批判的な意見を持っている人も多い。彼らに言わせれば 政治も経済もまずダメで、年金問題も山積みなら、失業率は相変わらず高いし、電気、水道、ガスなど基本的生活に必要な経費は年々高くなるばかり。自分の経済状況はどうかという質問に、「良い」と答えるのは5,4%にすぎない。

2019年5月のCIS(社会学調査センター)のデータでは、スペイン人が最も心配するのは、1位失業率、2位政治、政党 3位汚職というデータだ。同じくCISが行った2017年の面白いデータがある。「あなたは幸せですか?」「スペインでは人は幸せですか?不幸せですか?」という質問を設定。自分が幸せと答えた人は7,8(10点評価)で、自分以外は6,1点という結果になった。つまり、自分の方が人より幸せと考えている人が多いことを示している。文句はたくさんあるが、幸せだと感じる人が多いという人格が見えてくる。

「あなたは幸せですか?」という質問に・・・「tu」自分が幸せと思う「gente」はスペインの人は幸せと思う

日々の生活の中で 65歳以上の高齢者で同居者以外の家族とのコンタクトが毎日もしくは1週間に一度以上ある、と答えたのは8割を上回る。こうした習慣は親が高齢になったから始まるものではなく、長い人生の中で家族と過ごす時間が長いスペインだからこその賜物なのかもしれない。週末は家族で過ごすのが当然という意識は今も根強くある。リーマンショック時からの経済危機の時代も、家族の絆があったからこそ、生き延びてきた人も多い。定時で帰るなど、主張する必要もない当然の常識だ。

キリスト教的慈善の精神

スペイン語にはSolidalidad(連帯、結束)という言葉があるが、これはスペインの生活しやすさを支えている精神でもあると思う。

長いフランコ独裁が終わったのが1976年。そこからの民主主義の移行の中、政権も左党右党と極端に変貌しながら、観光立国としての地位を築き、経済的にも確実に発展してきた。

コーポラティブ型老人ホーム TRABENSOL HPより

そして元々のキリスト教的慈善の精神がある。2018年のデータでは250万人が定期的なボランティア活動に参加しているという。高齢者向けの行政のプログラムも多いし、ボランティアが独居老人を訪問したり、世代間交流会を設けたりすることもある。 例を挙げれば、行政や大学、慈善団体が率先して、地方や海外からの大学生と独居老人の共同生活のマッチングをしたり、現役時代から有志で集まり、定年以降の独自の共同生活スペースを作る新しいコーポラティブ型老人ホームの形が起ってきたりしている。

住んでいるものの感覚からすると、スペイン人はもともと元気だが、高齢になる程さらに元気になってゆく人々、という感じだ。もちろん病院は老人が多いし、話せば愚痴や文句も多い。発散型、交流型の性格が楽観的な老後を、ひいては長寿となる秘訣を作り出しているのかもしれない。

【執筆:ライター&コーディネーター 小林 由季(スペイン在住)】

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