周りを海に囲まれた島国・日本。その広い海には、私たちがあまり目にすることのない生物がたくさんいる。

これまで編集部では、東京湾で135年ぶりに生息が確認された日本固有種の「ムギワラエビ」、ラッパのような形をした「ムカデメリベ」、東京大学などの研究チームが発見した新種のイソギンチャク「テンプライソギンチャク」など、海にすむ奇妙な生物を紹介してきた。

そして今回、紹介するのが“動物の腸”のような形をしているこちらの生物だ。

シワヒモムシは水槽の底でほとんど動かずに過ごす
シワヒモムシは水槽の底でほとんど動かずに過ごす
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名古屋港水族館で飼育されているこの生物は「シワヒモムシ」。その特徴は何と言ってもその名の通り「シワシワなヒモのような姿」だ。ゴムのように伸び縮みもするそうで、なかなかのグロテスクな見た目だ。

分類上は紐型(ひもがた)動物に属し、南極を中心とした海の浅場から3,000m以上の深海まで広く生息する。名古屋港水族館では、1991年に担当者が南極海のキングジョージ島で採集したものを飼育しているという。

少なくとも28年生きていることになるが、一体どんな生態なのか? 名古屋港水族館の飼育担当者に聞いた。

見た目がグロテスクなので、展示していなかった

――シワヒモムシってどんな生物?

姿はゴカイやミミズによく似ていますが、シワヒモムシは紐型動物であるヒモムシの仲間となります。ヒモムシは世界に1,000種類以上いまして、日本でも100種類近くが確認されています。ほとんどは海にいますが、種類によっては陸や淡水域に生息するヒモムシもいます。この中でシワヒモムシは南極が生息域で、体長はだいたい1メートルほどまで成長します。

――水族館には何匹いるの?

91年に南極で採集した4匹がいます。大きさはどの個体も約70センチです。

――実は20年間以上 展示されていなかったとか。その理由は?

当館では、これまでに何度か南極に生物採集に行っていたのですが、多いのはやはり、お客様に人気な動きのある魚などです。その中でシワヒモムシは活動的ではあまりなく、見た目がグロテスクなところもあって、ずっとバックヤードで控えていました。

そして採集から20年以上が経ち、ちょうど私が飼育担当になった際に展示を始めました。グロテスクな見た目やエサを丸呑みする様子が、来場者の皆さんにも興味深いのではないかと考えました。


――水族館のSNSでは水槽に張り付く様子を紹介している。

このように張り付いたりすることは、週に何度かは見せてくれます。しかし、基本的には水槽の底にいることが多いです。1日のほとんどを、丸くなったり、伸びたり、岩の隙間を少しずつ動いたりしています。


――エサを食べるのも遅い?

飲み込み始めてから、全てが体内に収まるまで5 ~10分くらい掛かります。そして、外見からも飲み込んだ魚の形などがはっきり見てとれます。ただ、エサに食いつくまでも結構時間が掛かりますね。エサを水槽に入れたらすぐに食べるというわけではなく、ゆっくり探して、見つけたら飲み込み始めるという感じです。

――エサは何を食べるの?

自然界では動物の死骸を食べていて、当館ではアサリやイカなどを与えていますが、最近はアジが多いです。好き嫌いはなさそうですね。

公開されている動画には、アジを丸のみする姿が収められているが、飼育担当者が語るように、8倍速でもゆっくりにみえるほどのスピードで飲み込んでいる。そして飲み込んだアジの形も外側からでもくっきり見える。
本当に腸のようで…気持ち悪い。

「来場者は、恐る恐る見ている」

――独特な見た目のシワヒモムシ。来場者の反応は?

展示水槽には、エサを食べる様子を撮影した動画も展示しています。これを見て「気持ち悪い」という反応もありますね(笑)。「怖いもの見たさ」ではないですが、恐る恐る見ているようです。

――これから訪れる方にはどんなところを見てほしい?

基本的にはほとんど動かない生物ですが、ジッと見ていていただくと、頭や口などを動かしている様子がわかります。そのちょっとした動きに注目していただきたいです。



シワヒモムシは、南館の南極コーナーに展示されているという。
こうしたちょっと変わったいきものがSNSで話題になる時代にはなったが、いつの日かシワヒモムシが「キモカワイイ」と言われる日はくるのだろうか。

(画像提供:名古屋港水族館)

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プライムオンライン編集部
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