「他人にごちそうできるサービス」は受け入れられる? 発案者が夢見る“思いやりの連鎖”

カテゴリ:国内

  • 「ごちそうしたい人」と「ごちそうされたい人」のマッチングアプリが開発中
  • ルーツは北海道の食堂で始まった“ごち文化”...その起源は「イタリアのコーヒー」!?
  • 「ごちそうされることで『次は自分がしてあげよう』となれる」

仕事上なら取引先との相手、私生活でも彼氏・彼女や先輩・後輩などと食事した後の会計の際によく見られる光景。

ごちそうする人「ここは自分が払っておくよ...大丈夫だから」
ごちそうされる人「いやいや私が...ありがとうございます」

こんな“おごり、おごられ”の文化に、新たな風が吹こうとしている。

インターネット事業を展開する「Gigi株式会社」が、ごちそうしたい人・ごちそうされたい人をマッチングする、スマートフォンアプリを開発し、すでに実証実験を開始しているのだ。

気になるサービスの仕組み

このアプリの名前は「ごちめし」。

気になる仕組みは、ごちそうしたい人は、アプリ上からお店・メニュー・品数を選び、アプリを通じて代金+10%の手数料を決済・入金。支払いが確認されると、アプリ上のマップに「このお店では○○が食べられます」といった情報が表示されるようになる。

ごちそうしたい側の手順(提供:Gigi株式会社)

店側はメールやアプリで決済情報を把握しているため、ごちそうされたい人はお店を訪れ、店内のタブレット端末などに表示されている、確認用のQRコードを読み取るだけで料理を食べられる。代金はもちろん無料で、ごちそうしてくれた人には「おいしかったです」などと、お礼も送れる。

アプリで利用できるのは「ごちめし」の加盟店のみなので、店側が対応に苦慮することはない。場所と機会を提供する代わりに、料理の味や店の雰囲気を知ってもらえる仕組みだ。

ごちそうされたい側の手順(提供:Gigi株式会社)

ごちそうの方法は、「誰でもごち」「シチュエーションごち」「ご指名ごち」「お値段ごち」の4種類。

・「誰でもごち」=無条件でごちそうする
・「シチュエーションごち」=お祝いなど条件を指定してごちそうする
・「ご指名ごち」=ユーザーや店舗を指定してごちそうする
・「お値段ごち」=指定した金額分まで自由にごちそうする


特定店舗の支援や卒業祝いの場面など、条件などを指定しておごることもできる。
いずれも食事を通じて、感謝の気持ちを伝えてもらおうという試みだ。

Gigiは10%の手数料でアプリを運営していく方針で、実現すればごちそうしたい人・ごちそうされたい人・飲食店、それぞれにメリットのあるサービスとなる。

ここまで話を聞くと、面白いシステムだとは思うが、実際は「ごちそうされたい人」ばかりが集まってしまうのではないか?とか、バーのカウンターで「あちらのお客様からです」的な展開はドラマでは見たことあるけど、どんな人が「ごちそうしたい人」になるのか?など、ビジネスとしてうまくマッチングできるのかいろいろ気になるところはある。

店舗側に負担が出ないことを重視しているという(提供:Gigi株式会社)

有名音楽家がなぜ?

そして、もう一つ気になることが、「ごちめし」の発案者、Gigiの代表取締役社長・今井了介さんだ。お気づきの方もいるだろうが、安室奈美恵さんの「Hero」など、多数アーティストの楽曲を手がける、有名音楽家なのだ。

そんな方が飲食関係、それもアプリを介した「おごり、おごられ」のマッチングサービスを始めるのは一見、畑違いにも思える。なぜ、このような挑戦を始めるのだろう。

「ごちめし」は2019年秋に正式サービスをリリースする予定で、現在は東京と福岡で実証実験も行っているという。そちらの感触も含めて、いろいろとお話を伺ってみた。

「何もできない」現実を突きつけられた

「ごちめし」の発案者・今井了介さん

――音楽家のあなたがなぜこのような試みを?

音楽家を続けてきて、幸いにも制作した楽曲が、大きなドームで演奏されるようになりました。その光景を見ると感動もするのですが、東日本大震災や熊本地震を目にして、ここ数年は同時に“もやもや”を感じるようにもなっていました。

音楽は感動を共有することはできますが、それ自体で飢えや寒さをしのげるわけではありません。社会貢献の音楽活動にも携わりましたが、「困っている人がいても何もできない」という事実を突きつけられているような気がしたのです。

それから、自分が音楽以外に何ができるかを考えるようになり、自分なりのできることとして、「人間の本質である“衣食住”を豊かにする仕事に関わりたい」と思うようになりました。

私にとってそれが、誰かにおごり、おごられる「ごちめし」でした。


――なぜ「おごり、おごられ」に着目した?

実は「ごちめし」には“元ネタ”があります。北海道・帯広の「結 YUI」という食堂には、お客が見知らぬ方の代金を前払いし、その後に来た人がただで食事できる「ゴチメシ」というサービスがあります。これをモデルとしました。
(※「ごちめし」=今回のスマホアプリ 「ゴチメシ」=「結 YUI」でのサービス)

ここのご主人・本間辰郎さんは帯広出身で、東京で30年以上働き、定年後に地元に戻りました。その際、ファストフードなどが中心の食文化を見て、「おなかをすかせた学生らが地元の味を楽しめるように」と「ゴチメシ」を始めたそうです。

私はこのお店の情報を見て「面白い。自分もおごってみたい」と思い、2018年の夏ごろ、北海道に飛びました。400円のうどんをおごるために、宿泊費など、計4万円ほどかかったのを覚えています(笑)。

その後も数回足を運び、本間さんから、「ゴチメシ」がイタリアの「サスペンデッドコーヒー」(恵まれない人にコーヒーをおごる文化)に由来することなども聞きました。その頃から「この“ごち文化”を仕組みとして作ることが、自分にできることなのではないか」と思うようになり、本間さんの許可をいただき、「ごちめし」を制作することになりました。


「ゴチメシ」を始めた「結 YUI」の店主・本間辰郎さん

――「結 YUI」での「ゴチメシ」は上手くいっているのか?

本間さんの言葉を使わせていただくと、失礼ですが「結 YUI」はいわゆる“シャッター商店街”にあります。メニューも「そば・うどん」や「カレー」などで、毎日活況か?売上がすごいか?と言われれば、そのようなお店ではないと思います。

ですが「ゴチメシ」があることで、注目が集まり、それは商店街全体の活性化にもつながっています。
物珍しさからか、遠方から来るお客もいるそうです。僕もその一人ですね(笑)。

全国の商店街には、原価を切り詰めて1円でも多く利益をあげようとするところもありますが、本間さんは「地元の味を残したい」という“地元愛”でお店を開いています。商業規模は小さいかもしれませんが、応援してくれる人もいます。

本間さんは「結 YUI」の対面側で、たい焼き店も経営しているのですが、そこにも“ゴチシステム”があります。誰かが誰かにおごることが、にぎわいにつながっているのです。


「ごちそうされる人」が「ごちそうする人」になる

――スマホアプリで展開する理由は?

スマートフォンは若い方になじみがあり、お店までの経路や情報も調べられます。「○○ペイ」などの決済手段があるのも魅力的ですね。何より、利便性があります。例えば、誰かの誕生日を祝うとき、仕事などで行けないこともあるでしょう。でも「ごちめし」なら、遠方でも後日でも、「ごち」が気の利いたプレゼントになります。

この行動を直接やろうとすると、相手の予定などを新たにつけなければなりません。

アプリなら会計のやり取りも省略できますし、SNSアプリを通じて、感謝の気持ちも拡散します。現代的かつ効率的で、気持ちも伝わりやすいのではないでしょうか。


――ビジネスとして成立する?ごちそうされたい人ばかり集まるのでは?

ごちそうされたい人は多いかもしれませんが、感謝を伝えたい層も必ずいます。コーヒーチェーン店「スターバックス」が行った実証実験では、サスペンデッドコーヒーをごちそうされた人の約半数が、同じようにごちそうした結果があります。

「結 YUI」にはある時、やんちゃな風貌の方たちが「ただなんでしょ」と来店したことがあるそうです。その方たちが無料の理由を聞き、本間さんが「ゴチメシ」に込めた思いを伝えたところ、一行は感動し、同じようにごちそうしていったといいます。

ごちそうされることで、「次は自分がしてあげよう」という方が必ず現れます。
ごちそうされる人は潜在的に、ごちそうする側の人でもあるのです。

何も高価でなくてもいいと思います。友人同士で300円の飲み物をおごってもいいんです。恩送りの文化を若い頃から体験することで、社会の中核を担うようになったとき、同じ行動ができるのでは?と思います。


体感的には「ごちそうする人」の方が多い

――東京と福岡での実証実験はどんな形で行っている?

東京と福岡の飲食店、計50店舗が参加しています。アプリの使い勝手を確認するとともに、お店側に「ごちめし」での決済を経験してもらい、帳簿上の管理などに慣れてもらう狙いもあります。

福岡には「親不孝通り」という商店街があるのですが、こちらでは、地元出身者などから1000食のごちを集め、子ども食堂のような形で、子どもや学生が無料で食事できる企画も行う予定です。商店街のような場所が「ごちめし」を利用していただければ、地域の活性化にもつながるはずです。


――実証実験の感触は?課題などはある?

現状の印象としては、ごちそうする人が思ったより多いですね。あくまで体感ですが、知名度があるお店で食べられるメニューがあるのに、遠慮しているのか、ごちそうされる人が出てこないこともありました。

この点は“ごちそうされた経験”を重ねることで、緩和するはずなので、若年層のユーザーを増やしたり、アプリの使い勝手を良くするなどして、対応します。

アプリ自体の修正点も多くあったので、テストアプリをベースに作り直すことになるかもしれません。お店の検索の仕方、会計までの流れももっとシンプルにしたいですね。


親不孝通りでの実証実験のイメージ(提供:Gigi株式会社)

“ごち文化”が普及して、心も満たされるようになれば

――「ごちめし」はこれからどうなっていく?

福岡・親不孝通りでの子ども食堂の開催も含め、実証実験を重ねて、アプリの完成度を高めていきます。消費税が変わるといろいろな変更が必要になるので、正式サービスのリリースは、10月ごろになると思われます。

現状の支払い方法はクレジットカードのみですが、正式サービスではモバイル決済にも対応する予定です。インバウンドで訪れる外国人の方が面白く感じてくれるよう、英語と中国語にも対応したいですね。将来的な海外展開も考えています。


――期待することは?

感謝の気持ちを伝える手段として広まってほしいですね。世界には貧富の差が激しい国が多くあるので、そんな国々の方に食事が行き渡るきっかけにもなればと思います。食事は人間同士のコミュニケーションを円滑にしてくれますが、「ごちめし」があれば、自分の気持ちをより素直に伝えることができると思うのです。

例えば、仕事上での失敗を「ごめん!いつかおごるから許して」と謝っても、その“いつか”がうやむやになってしまった経験はないでしょうか。そんなときも「ビールおごっておいたから、飲んできてよ」みたいなことができるわけです。

“ごち文化”が普及することで、瞬間瞬間の気持ちが少しだけ熱を持って伝わり、おなかだけでなく心も満たされるようになればと思います。


「ごちめし」の利用イメージ

誰かにごちそうされて「喜び」を感じたら、次は自分がその「喜び」を分けてあげたい。「ごちめし」はそんな“思いやりの連鎖”から考案されたアプリだった。そして、自分が好きなお店で“ごちそうする人”になれば、お客さんが集まり、そのお店を応援することにもつながる。

Gigiは正式サービスのリリースまで、テストアプリを使い、一部ユーザーで実証実験を重ねていく方針だが、今回はご好意もあり、その実証実験に参加できる申し込みフォームを用意してくれた。

リンク先から申し込めば参加できるので、興味を持った人は“ごち文化”を体験してみてはいかがだろうか。