イスラエル側の見方

(画像:Marine Traffic HPより)
(画像:Marine Traffic HPより)
この記事の画像(7枚)

ホルムズ海峡で日本の企業が運行するタンカーなど2隻が襲撃された事件は未だ謎が多いが、こういう時に参考になるのがイスラエルの情報だ。

イスラエルの有力紙「エルサレム・ポスト」電子版は15日「タンカー攻撃の背後のイランの計画は何だったのか?」という分析記事を掲載した。記事は、偵察衛星や船舶位置情報、イラン側および米側の写真、米海軍やペルシャ語放送の発表に基づいて事件の再現を試みている。

アメリカのテレビはタンカーに水雷をつけるための磁石の一部が残っていたと報じた
アメリカのテレビはタンカーに水雷をつけるための磁石の一部が残っていたと報じた

それによると、当日6月13日の現地の夜明けは5時50分でその直後日本の国華産業が運行するタンカー<コクカ・カレイジャス>から攻撃を受けたとの緊急通報が発信された。

ほぼ同時に約10浬離れた海上を走行中のマーシャル諸島船籍タンカー<フロントアルタイル>が「爆発が起きた」と遭難信号を発信した。<コクカ・カレイジャス>は漂流を始めたが、間もなくタグボート<コスタルエース>が避難した乗組員を収容しその後米海軍の駆逐艦<ベインブリッジ>に移送された。

一方<フロントアルタイル>の乗組員は貨物船<ヒュンダイドバイ>に救助されたが、午前9時12分にイランの小型艇が近づき救助された乗組員を渡すよう強要し、同時に乗組員が避難していた救命艇も回収していった。

救助された乗組員たち
救助された乗組員たち

この頃米海軍の航空機恐らくはP-8哨戒機が飛来してイラン革命防衛隊のヘンジャン級の哨戒艇と複数の攻撃艇を攻撃された2隻の周辺で確認している。また午前11時ごろイランの大型の捜索救命船<ナジ10>が<フロントアルタイル>近辺から離れるのが偵察衛星で捉えられていた。<ナジ10>はその後も乗組員がいない<フロントアルタイル>と<コクカ・カレイジャス>に接近している。

「イラン革命防衛隊が、爆発していない水雷を船体から回収している映像」として米軍が公開
「イラン革命防衛隊が、爆発していない水雷を船体から回収している映像」として米軍が公開

イラン側の主張

こうした推移について、イランのメディアはまず午前8時30分に事件の一報を伝え、9時47分には「1隻のタンカーが沈没している」と報じた。現実にはどちらのタンカーも沈没していない。また11時25分には「乗組員44人全員イランが救助した」と放送したがイランへ移送された23人は半ば強制的に<ヒュンダイドバイ>から引き取ったもので、21人は米駆逐艦で移送されていた。
この間イラン外務省の報道官も「我々はホルムズ海峡の安全には責任を負っており、今回も敏速に船員たちを救助した」との声明を発表した。

さらに午後1時33分にイランの国営放送IRIBは「最初の映像」なるものを放送したが、それは一昨年1月イェメンの反政府武装組織フーシがサウジアラビアのフリゲート艦をミサイル攻撃した時のものだった。

こうした事件の展開とイラン側の報道について「エルサレム・ポスト」は、イラン側はタンカーを沈没させながらも人的被害が出ないよう配慮し、なおかつイラン側が人命救助を行い「ホルムズ海峡の安全はイランが保証する」というメッセージを発信したかったのではないかと分析する。

イランとは厳しく対立するイスラエルの報道を鵜呑みにするわけには行かないが、今回の事件の謎解きには役立つのではないか。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【イラスト:さいとうひさし】

「木村太郎のNonFakeNews」すべての記事を読む
「木村太郎のNonFakeNews」すべての記事を読む
木村太郎著
木村太郎著
木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。