スコットランドに勝利で決勝トーナメント進出に王手!後がない一戦で奮起したなでしこジャパン

FIFA 女子ワールドカップ フランス 2019特集

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FIFA 女子ワールドカップ フランス 2019特集

気持ちを一つにしたミーティング

その瞬間、フランス・レンヌのロアゾン・パルクが揺れ、ピッチ上になでしこジャパンの青いユニフォームが重なり合った。

フランスで行われている女子W杯。グループステージ初戦でアルゼンチンの堅守を破れず、勝ち点1に留まっていた日本は、第2戦のスコットランド戦に臨んだ。負ければグループステージ敗退も現実味を帯びる窮地。この試合で、前半23分に喉から手が出るほど欲しかった先制ゴールを決めたのがFW岩渕真奈だ。

「日本女子サッカー(の未来)がかかっていると言ってもいいぐらいの試合だと思っていましたし、その中で先制点を取れたのは嬉しかったです」

強い気持ちを込めたゴールは、無回転で相手GKの指先をかすめてゴールネット中央を揺らした。

前日には選手同士のミーティングで試合への思いを確認したという

18歳で女子W杯制覇を経験。26歳で3度目のW杯に臨んでいるストライカーは、試合前日に、チーム全員でこの試合が持つ重みを共有したことを明かした。

「昨日(試合前日)、選手全員でミーティングをしました。アルゼンチン戦は一つになれたきっかけだったと思うし、本当に、チームとして一段階成長できたと思います。年齢関係なく、ピッチに立った11人が責任感を持ってやろうね、と言っていた中で、今日はみんなが良かったなと思います」

試合は、37分にFW菅澤優衣香が自ら得たPKを決めて2点差に。終盤の88分にパスミスから1点を失ったが、2-1で逃げ切った。

険しかった高倉麻子監督の表情にも、ようやくいつもの柔らかさが戻ってきた。
第一戦とは見違えるようなアグレッシブさを見せた日本の変化の理由を知ろうと様々な角度から質問を浴びせる大勢の海外メディアを前に、こう答えている。

「初戦のアルゼンチン戦で、W杯で勝つ厳しさを全員が感じたと思います。朝起きてからミーティング、アップに入るチームの表情や雰囲気が明らかに変わりました。決して第一試合を甘く見ていたわけではありませんが、経験を積んだことでプレーも気持ちも一段上がりました。私たちはまだ何も掴んでいませんし、次のイングランド戦は、全員で世界(ランキング)3位のイングランドにいい準備をして臨みます」

勝利を引き寄せた姿勢と2つのゴール

気迫のこもった試合で、スコットランドに勝利した

高倉監督は、初戦から先発3名を入れ替えて臨んだ。アルゼンチン戦では途中出場だった岩渕とFW遠藤純が先発に名を連ね、センターバックのDF市瀬菜々が今大会初出場となった。

初戦から大きな変化を感じたのは、ゴールに向かう姿勢だ。相手の出方を見極めてボールを動かしながらも、一人ひとりがコースが空けば積極的に縦パスを入れるなど、全員のベクトルが前を向き、その勢いが攻撃に流れを生み出していたように思う。

一方、スコットランドのプランは、立ち上がりから日本の攻撃を封じ、先にゴールを奪うことだった。

「日本は上手い選手が揃っていますから、立ち上がりからもっと近く、フィジカルに展開しなければいけませんでした。ネガティブな態度で行ったら勝つことはできませんから、選手たちには『常にボールを追わなければいけない』と話しました」

試合後にスコットランドのシェリー・ケア監督はそう振り返っている。だが、高い位置から奪いに行こうとすればパスでいなされ、日本のコンパクトな守備網をロングボールでこじ開けることもできなかった。結局、スコットランドは前半15分あたりから自陣の低い位置でパスを回し始めた。90分間を通じたボールポゼッションは、日本が49%、スコットランドが51%で、日本はわずかに下回っている。だが、スコットランドからすれば「ボールを持たされていた」という感覚だっただろう。

日本は両サイドバックのDF鮫島彩とDF清水梨紗が積極的なアクションを見せ、全体でラインを高く保ってゴールを目指した。久々に最終ラインに加わった市瀬も含めたラインコントロールは安定しており、ロングボールは「蹴らせて奪う」守備ができていた。そして、攻撃面では岩渕とFW菅澤優衣香、遠藤の3人のアタッカーの異なる個性が噛み合い、見応えがあった。岩渕は流動的な動きで流れを生み出し、重要な先制点を決めた。

菅澤のポストプレーが前線で効いていた

「もっと強くくるかなと思っていました。相手のディフェンスラインとボランチの間が空いていて、ある程度余裕を持ってボールを受けられました」

そう振り返ったのは菅澤だ。屈強なスコットランドディフェンダーに寄せられても、ビクともせずにボールを収めた。そして、37分のシーンでは清水の絶妙なアーリークロスを引き出し、相手のファウルを誘ってPKを獲得。冷静にGKの動きを見て決め、日本をさらに優位にした。

また、この試合でW杯初先発を勝ち取った19歳の遠藤は、相手のプレッシャーの強度によって判断を柔軟に変えながら、周囲との連係の中で得意のドリブルを活かし、チャンスを作った。遠藤は、3月のアメリカ遠征から一気に存在感を増してきた新星だ。4月の欧州遠征では、「途中から出た時は勢いで入れるのですが、先発した試合で、試合に入る際の気持ちの入れ方は課題です」と話していたが、この試合は立ち上がりからチームの流れを作った。その姿勢を引き出したのは、強豪国を含め、出場した国際試合6試合で積み重ねた経験と、最年少だからと遠慮することなく、練習から積極的なプレーをすることで芽生えた自信だったように思う。

「(スコットランド戦は)前から行こうと全員で共通理解して試合に入ったので、強気でいけました」(遠藤)

その姿勢が、先制点のアシストにつながった。

後半は、2点ビハインドのスコットランドが攻勢を強めてきた中で守備のアプローチにばらつきが生まれ、終盤はセットプレーで押し込まれる嫌な時間が続いた。また、会場には13,201人の観客が詰めかけ、日本のボール保持時には多くのスコットランドサポーターが怒号のようなブーイングでプレッシャーをかけた。

だが、日本は以前ならつなぐことにこだわって不用意にボールを失っていた場面でも、しっかりとプレーを切る潔い判断が目立った。それも、チームが苦しい初戦を経て得た一つの教訓かもしれない。

「後半、相手が点を取りに来ることはわかっていました。だからこそ失点してはいけないと強く感じていました。その中での声がけだったり、時間が悪い時は勇気を持って断ち切ろう、と声をかけ合ってプレーできました」

キャプテンの熊谷はそう振り返る。

88分には市瀬のパスミスで1点を返されたが、そのまま逃げ切った。終了間際だけに悔やまれるミスだったが、90分間を通じた市瀬の際立った安定感と、結果的に勝ち点3を得られたことを考えれば、そのミスも今後の戦いの教訓として昇華できるはずだ。

グループ首位通過をかけた戦い

日本は6月20日のグループリーグ第3戦で、ここまで2連勝中のイングランドと対戦する。

イングランドは優勝候補の一角。高くて速くて巧い、三拍子揃った実力のあるチームだ。

日本はこの試合に勝てばグループ首位、引き分けなら2位で決勝トーナメントに進出できる。負けた場合でも、同時刻に行われるスコットランドとアルゼンチンの試合で、後者が引き分け以下なら、2位での進出が決まる。イングランドは引き分け以上で首位通過が決まるため、無理に攻めてこない可能性もあり、カウンター対策はしっかりしておきたい。

この3年間、高倉ジャパンが力を入れてきたのが欧米の強豪国対策だった。その経験が生かされることと、気持ちのこもった試合を見せてくれることを期待している。


(文・写真:松原渓)

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