世界の政治家やセレブ・要人のツイートをモーリー流に翻訳・解説する「Twittin English」。今回は、6月8日(日本時間)国連のツイート。



モーリー:

今回は深刻な内容で、日本のメディアではなかなか取り上げられないトピックです。

Venezuela: Number of people who have left the country tops 4 million, says @UNmigration & @Refugees:

ベネズエラからの難民と移民は世界一。400万人とUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)などが発表。

「migrant」
「移民」「refugees」「難民」

現在、国家的な危機にあるベネズエラから、実に400万人以上もの移民・難民が国外に流出しているというのです。

ベネズエラからの移民・難民は驚異的なペースで増加し、5年間で見ると6000%、つまり60倍に増加していることになります。

独裁政権で経済が困窮

そもそも、なぜ国外に逃げ出さなければならないのか? ベネズエラ国内では生きられない状況になっているからです。

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ベネズエラのマドゥロ大統領は、チャべス政権から引き継いだ反米・左派の独裁政治を行っています。社会主義的な経済計画を出すも、ことごとく失敗し、財政危機が続いて食料や医薬品が不足。野党連合出身の国会議長・グアイド氏と対立しています。

そして、現政権のマドゥロ大統領の退陣を求めるグアイド議長は、アメリカやイギリスなどによって「正統な政権である」と暫定大統領の地位を与えられています。

アメリカ財務省は、ベネズエラの国営石油会社であるPDVSAの経済制裁に関して、外国の貿易業者が(石油の精製で必要となる)希釈剤をベネズエラに輸出すれば、アメリカからの制裁の対象になる可能性があることを明確にしました。

つまり、マドゥロ政権に対して制裁を強化し、経済包囲網を敷こうとしているというのです。

近隣諸国との摩擦…アメリカの対応は?

ベネズエラをめぐる世界の立ち位置は、マドゥロ大統領を支持する国と不支持の国で二分しています。

いつもの“お約束”のプレイヤーなんですけれども…アメリカをはじめイギリス・フランス・ドイツ・スペイン・カナダ・ブラジル・オーストラリアなど、欧米諸国は反体制のグアイド国会議長側を支持し、ロシア・中国・ボリビア・キューバ・イラン・トルコなどの左派政権国家は、マドゥロ政権を支持しています。

そして、ベネズエラの近隣諸国には移民・難民が流出しています。

最大の受け入れ国は、130万人が滞在するコロンビア。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)のデータによると、ペルーやブラジルなどにも。彼らは着の身着のまま、赤ちゃんを抱いて近隣諸国に逃れているのです。

コロンビアでは、急激な増加に対応できず、移民・難民対策によって財政が悪化してしまいました。

また、76万人を受け入れているペルーでは、治安対策として犯罪歴のあるベネズエラ人の強制送還を始めました。ブラジルでも国境地帯などで地元住民とベネズエラ人の摩擦が起きています。

さらに今後、難民キャンプや一時滞在場所で生まれる推定2万人の新生児たちは、無国籍になってしまいます。保険証などが発行されず病院も受診できないなど、最低限の社会サービスを受けられず、生命の危機に瀕する可能性があります。

こうした状況を受けて、コロンビアの難民キャンプを訪れた女優のアンジェリーナ・ジョリーさんは、国際社会に対応を求めました。

しかし、お金はあまり集まっていません。今の国際社会は流動的で、それぞれの国が自国の問題にかかずらわっている状態なのです。

そして、アメリカもベネズエラから遠くない距離に位置しています。アメリカに滞在しているベネズエラ国籍の人たちのパスポートが期限切れで失効していく中、トランプ大統領は彼らに対し「一時保護の措置をとり、数千人規模であれば難民のような形で滞在を認める」という発言をしています。

ロシアと中国の思惑

ここで気になるのが、ロシアと中国です。

ロシアは、ベネズエラに対して民間の軍事会社が人員を派遣し、長く現独裁政権に軍事的手助けをしていたのですが、ベネズエラ側から支払いが途絶えた為に、ロシアに引き上げてしまったようです。

一方の中国は、一帯一路の一環として過去10年でなんと5兆4600億円を投資していました。原油が安定価格で買える上に、アメリカの庭先で陸路の覇権を広められるという訳です。

以前、地下資源のレアアースをめぐる中国の戦略を解説しましたが、石油に対してもこうして手を伸ばしてきたのです。

ところが、移民・難民という大混乱が起きてしまったために、中国は下手をするとこの5兆円を回収できないまま大損となってしまう可能性があります。

加えて、ベネズエラが国難であるにも関わらず未だに借金の取り立てをしているため、仮にマドゥロ政権が持ちこたえても恨まれるでしょうし、政権が交代した場合には、「よくもチャべスやマドゥロを支持したな」と5兆円を反故にされてしまうかもしれません。

このように、中国の戦略も難所に差しかかり、非常に複雑な状態にあります。しかし、やはり最も重要なのは、移民や難民たちがこれから「どのようにして生きていくか」ということです。

(BSスカパー「水曜日のニュース・ロバートソン」 6/12 OA モーリーの『Twittin English』より)

モーリー・ロバートソン
モーリー・ロバートソン

日米双方の教育を受けた後、1981年に東京大学とハーバード大学に現役合格。1988年ハーバード大学を卒業。タレント、ミュージシャンから国際ジャーナリストまで幅広く活躍中。