解散風の中、安倍首相「風は気まぐれ」発言
5月30日、日本経団連の定時総会で安倍首相は、アメリカのトランプ大統領が来日し、一緒にゴルフをプレーした際のエピソードを披露しました。その中で、「風という言葉には今、永田町も敏感なんですが、一つだけ言えることは、風というものは気まぐれで誰かがコントロールできるようなものではない」と、“解散風”に触れる発言を自ら切り出しました。
この記事の画像(11枚)この発言の前から永田町には“解散風”が吹き始めていましたが、安倍首相自ら衆院解散の可能性に言及したのは初めてで、永田町に波紋が広がりました。
しかし、菅官房長官は、30日の定例の記者会見で“解散風”について「無風じゃないですか」と述べ、政府関係者も「一般的な自然現象の話」と述べるなど、いずれも“解散風”の存在を否定しました。
大物続々…連日の会談で、さらに解散風が…
しかし、安倍首相の周辺が“解散風”を否定するのと対照的に、安倍首相の解散を匂わせるような行動が続きました。
6月3日、自民党の岸田政調会長が安倍首相の私邸に入りました。しかも入った時間は何と、夜の9時半過ぎ。この日の安倍首相は、外で会食を済ませており、この時間からの私邸での面会というのは異例のことです。また、安倍首相の私邸は車で直接、地下駐車場に入れるようになっており、政治家らは地下から入ることが多いため、いつもの官邸での取材のように直接話しかけることができません。1時間近くに及んだ会談で、参院選の公約について話したということですが、衆参ダブル選挙についても話が及んでいたとみられます。
さらに翌6月4日には、首相官邸を自民党の二階幹事長が訪れました。二階氏は会談後に記者団の取材に応じ、夏の参院選について意見交換したことを明かしたうえで、衆参ダブル選について聞かれると、「お互い阿吽の呼吸で、お互いがプロ同士が話し合うんですから、選挙を除いての話はあるわけがない」と述べました。
さらに、二階氏の訪問からほどなく、首相官邸を訪れたのは麻生副総理兼財務相です。この日は、財務省の幹部らとともに安倍首相のもとを訪れた麻生氏ですが、財務省の幹部らが出た後も官邸に残り、安倍首相と15分ほど1対1で会談しました。会談の内容については何も語らなかった麻生氏ですが、帰り際に声をかけた総理番記者に笑顔で応じるなど、充実した会談だったことがうかがえました。
異例の岸田氏の私邸訪問から続いた、大物議員との会談。永田町では、解散をめぐる憶測が飛び交いました。
吉本新喜劇in首相公邸 大御所芸人の質問に安倍首相は…
さて、安倍首相のもとを訪れるのは、政治家だけではありません。6月6日、ちょっと意外な人たちが訪れました。それは吉本新喜劇のメンバーらです。さかのぼること4月20日、安倍首相はG20大阪サミットをアピールすべく自ら大阪入りし、現役の首相として初めて吉本新喜劇の舞台にサプライズ出演していたのです。これを契機に、G20が迫ったタイミングで、吉本新喜劇のメンバーらは首相公邸を訪問することとなったのです。
この中で安倍首相は、G20に伴う交通規制について改めて要請し、「大阪の良さ、日本の良さを皆さんと一緒に発信したい」と呼びかけるなどG20の成功に向けて協力を呼びかけました。
さてこの日、吉本新喜劇の芸人たちは、首相公邸で安倍首相の目の前でネタを生披露しました。観客は取材に来た記者をはじめとする関係者のみ。その模様はインスタグラムで生配信されるなどして注目を集め、1日限りのライブ会場となりました。
そして、おなじみの「乳首ドリル」も、安倍首相の目の前で披露されました。ネタを披露したすっちーさんと吉田裕さんもさすがに緊張したのか、普段と違い安倍首相の表情をうかがいながらのネタとなりました。それでもネタの最後は「交通規制はしっかりしまっせ」「すんのかい」と、しっかり交通規制への協力を約束しました。
さらに、ネタの最後には、西川きよしさんが「衆参同日あるのかい」と安倍首相にストレートに切り込む場面も。実はこの一言は西川さんのアドリブだったということで、これにはさすがの安倍首相も苦笑いするばかりでした。
“風”騒動に自ら終止符?
安倍首相の“解散風”発言からおよそ2週間。政治家から芸人まで世間の注目を集めた発言から、およそ1週間がたった6月8日。安倍首相は、神奈川県で趣味のゴルフを楽しんでいました。
ゴルフといえば、毎回恒例なのが総理番記者による声掛け。その場で質問を考えるのですが、やはり各社とも気になるのは“風”のこと。安倍首相が自ら吹かせた“解散風”について聞くべく、「風はどうでしょう」と問いかけました。すると安倍首相は、「気持ちのいいそよ風ですよ。まあ、ほとんど無風ですけど」と応じました。
実際、その日のゴルフ場は天気こそよくなかったものの、風はほとんどなく、単に天候のことを答えたのかもしれません。ただ、自ら吹かせた“解散風”を自ら打ち消したように見えます。
そして今週に入り、安倍首相が、解散を見送る方向で最終調整していることがわかりました。複数の政権幹部によると、安倍首相は、改元以降の内閣支持率の堅調さ、選挙の情勢調査などから、衆参ダブル選挙をせず参院選単独でも、自民党が優位に戦えるとみているというのです。
最終的な判断は、イラン訪問から帰国後に行われることになりますが、安倍首相の胸中をめぐって、“きまぐれな風”に永田町が揺れ続けた日々でした。
(フジテレビ政治部 総理番記者 梅田雄一郎)
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