トランプ・パロディー「やり尽くした」

米国のアレック・ボールドウィンという俳優をご存知だろうか?
映画「レッドオクトーバーを追え」のヒーロー役ジャック・ライアンを演じたのが私の記憶に残っているが、最近ではNBCテレビの深夜のコメディ番組「サタデーナイト・ライブ」でトランプ大統領に扮したパロディで人気となっていた。

ところがそのボールドウィンさん「もうトランプを演じるのはやめた」と6日付の米国紙USA TODAY電子版のインタビューで語った。
ボールドウィンさんは辞める理由として「家族との時間を取り戻したい」と語ったが、続けてこうとも言っている。
「もうやることはやったんだ。やり尽くしたんだ」

つまり、トランプ大統領に扮して大統領を茶化すネタに尽きたということでもあるようだ。ボールドウィンさんは、金髪のカツラを被って口を突き出しトランプ大統領のように喋るのだが、例えば大統領の就任後の記者会見のパロディだと星条旗を背景にこう言う。

「私が45代目の合衆国大統領のドナルド・トランプだ。2ヶ月後には46代目が誕生するぞ」
2ヶ月で辞任に追い込まれるというジョークで、私にはあまり面白いとは思えなかったが米国の観客には受けていたようだ。トランプ大統領もこの番組を目の敵にして、その都度ツィッターで「インチキ、デタラメ」と非難していた。

世論調査「トランプ再選」が上昇

 
 
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いずれにせよこの一件は、トランプ大統領がもはやコメディ番組のネタにはならなくなったということだが、それは同時に大統領に対する国民の信頼度が高まっていることと裏腹の関係にあるようだ。

CNN放送が5日発表した世論調査で「トランプ大統領が再選されるか?」との問いに、54%が「再選されると思う」と回答し「再選されない」が41%、5%が無回答だった。昨年12月に行った世論調査では「再選されると思う」は43%、「再選されない」は51%でこの半年間に大統領に対する信頼度が大幅に高まったことを示している。

ちなみに、オバマ大統領の再選選挙の際の同時期に「再選される」と答えたのは40%に過ぎず、それでも大勝したことを考えると2020年のトランプ大統領は「地滑り的勝利」が考えられると保守系のニュースサイト「ウェスタンジャーナル」8日の分析記事は予想している。

その原因だが、同じCNNの世論調査で経済問題の問いに対して70%が「非常に良い」「良い」と評価し、否定的だったのは29%に過ぎなかったことが示すように、トランプ政権下で好景気が続いていることが現政権に対する高評価につながっているようだ。

トランプ評価の潮目が変わってきた

ムラー特別検察官
ムラー特別検察官

もう一つ考えられるのが、いわゆる「ロシア疑惑」の終焉だろう。この2年間米国のマスコミはこの問題でトランプ大統領を追求してきたが、ムラー特別検察官の最終報告で「嫌疑なし」とされ大統領の足を引っ張る材料がなくなってしまった。

ボールドウィンさんがトランプのモノマネを辞めるのも、その材料がなくなったからだろうが材料不足に困ったのはボールドウィンさんだけではない。トランプ批判の急先鋒を切っていたCNNもその材料がなくなったためか視聴者離れが際立ち、アトランタ本社の健康問題ユニットを解体して全員を解雇するとライバルのFOXニュースが伝えた。

トランプ大統領の評価をめぐって、明らかに潮目が変わってきているように見える。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【イラスト:さいとうひさし】

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木村太郎著「トランプ後の世界 第2幕」
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木村太郎
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理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。