日本ではブラックタイ、英国ではホワイトタイ

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トランプ大統領が6月3日 からイギリスを国賓訪問した。
初日のバッキンガム宮殿での晩餐会の映像を見て、おや?っと思った。ドレスコードがホワイトタイで、ほんの1週間前に令和最初の国賓としてトランプ大統領夫妻のために催された宮中晩餐会は ブラックタイだったことがフラッシュバックしてきたのだ。

いずれも国賓なのに、 イギリス王室は夜の正装であるホワイトタイ。
日本の皇室は略装のブラックタイ。

この接遇の違いは何なのか?皇室担当の記者に、皇室のホワイトタイの基準を尋ねてみた。すると、「勲章着用の場合はホワイトタイ」とのこと。なるほど。アメリカには日本で言うところの“勲章”はなく、あるのは基本的に“メダル”でしかない 。ゆえに現職のアメカ大統領であっても「 勲章着用に該当しない」ので 宮中晩餐会はブラックタイって訳だ。

ちなみに、バッキンガム宮殿での晩餐会で、大統領は ホワイトタイだが勲章なしだ。イギリス王室では、相手や勲章のあるなしに関係なく、ホストの立場であれゲストでとしてであれ、国賓の晩餐会はホワイトタイと決まっているようだ。その傍証として、エリザベス女王がアメリカを国賓訪問した際に、 ホワイトハウスで催されたステートディナー(公式晩 餐会)はホワイトタイ。アメリカ大統領は勲章は着用していない が、女王は しっかりサッシュをたすき掛けし、勲章をつけていた。『我が道』を貫く英王室である。

メラニア夫人の帽子にも注目

もう一つ、おや?っと思ったこと。
それはメラニア夫人の帽子だ。バッキンガム宮殿にやってきたメラニア夫人がリボンをまいた帽子を斜め被りしていたのだ。確か、日本では帽子は被っていなかったような記憶が ・・ そもそもメラニア 夫人と帽子の組み合わせ自体が比較的珍しいように思う。

日本での映像を確認してみると、歓迎式典などで皇后さまは帽子を被っているのに、 メラニア夫人は帽子なしだ。事前に服装についての情報交換はしてあるのだろうから、 帽子のあるなしは 双方承知のこと。それをとやかく言うつもりはないが、ちょっと気になるポイントではある。

メラニア夫人は、6日にロンドンを出発する際にも別の帽子を被って、 エリザベス女王と写真に納まった。夫人の帽子を「UFOみたいだと」言う人たちもいるようだが、筆者には第二次世界大戦時のイギリス軍のヘルメット風に見えてしまう。大統領夫妻は、ロンドンを発ってイギリス海峡の港町ポーツマスで行われたD-day(ノルマンディー上陸作戦開始日)75周年記念式典に参加したので、ヘルメット風を意識してみたのかも?なんて思ってしまう。

ちなみにメラニア帽子をデザインしたのは、アイルランドの著名 デザイナーのフィリップ・トレーシー。イギリスの王族も愛用しており 、大統領の娘、イバンカさんも彼がデザインした帽子を着用していたそうだ 。

バッキンガム宮殿に『マリーン・ワン』で降り立ったワケ

リボン帽子姿のメラニア夫人は、 大統領専用ヘリ『マリーン・ワン』から降りてきた。なんと、トランプ大統領は、歓迎式典のために『マイ・ヘリ』で バッキンガム宮殿の庭に乗り付けたのだ。実に無粋だ。 メラニアさんの出で立ちについて、「マイ・フェア・レディーを意識し過ぎだろ!」という突っ込みの声も聞かれる。

それで思い出されたのが、中国の習近平国家主席が 2015年10月にイギリスを国賓訪問した際の映像だ。歓迎式典のためにエリザベス女王は、自ら習主席の宿舎に迎えに出向き、一緒に馬車に乗ってバッキンガム宮殿へと向かったのだ。もちろん、お馴染みのクイーンガードの 衛兵たちも馬で付き従っての行列だ。トランプ大統領 だってヘリより馬車の方がお望みだったのかもしれないが、反トランプのデモが街のあちこちで行われている状況だ。警備の観点からは はダメ。ヘリが一番安全という判断だったようだ。

習主席夫妻を迎えての バッキンガムで宮殿での晩餐会は、当然ホワイトタイだ。習主席は人民服風なのを着用していたが、仕立ても刺繍も上等なもので、おそらくオール・シルクと思われる。イギリス側の 破格の歓待ぶりが目立ち、 『三跪九叩頭の礼』 (清朝皇帝の前で臣下が額と手を地面に当ててする 礼の一つ) だなどと揶揄されたものだ。

2015年といえば、イギリスが中国主導のアジアインフラ投資銀行への参加を表明し、ヨーロッパ各国は雪崩を打って中国のご機嫌取りに走った年だ。イギリスのEU離脱国民投票とトランプ候補が大統領選で勝利するのは翌2016年のこと。ほんの3~4年前の話だが、すでに隔世の感がある。

日本では新しい令和の時代が始まったが、アメリカ、イギリス、中国の力関係は大きく変わった。そんなことをも考えさせる、大統領トランプのイギリス国賓訪問だった。

【執筆:フジテレビ 解説委員 風間晋】

風間晋
風間晋

通訳をし握手の感触も覚えていたチャウシェスクが銃殺された時、東西冷戦が終焉した時、現実は『過去』を軽々と超えるものだと肝に銘じました。
「共通の価値観」が薄れ、米も中露印も「自国第一」に走る今だからこそ、情報を鵜呑みにせず、通説に迎合せず、内外の動きを読み解こうと思います。
フジテレビ報道局解説委員。現在、FNN Live news α、めざまし8にレギュラー出演中。FNNニュースJAPAN編集長、ワシントン支局長、ニューヨーク支局記者など歴任。